年下上司の愛が重すぎる!

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17話

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『なんでよ!あなただってクズはいなくなった方がいいって思ってるんでしょ!?』

思っているからといって、それを実行するかどうかは別問題だ。
それに、

「価値観なんて人によって違うんです。なので当然、人によってクズの基準も違う。私や貴女だって、他の人から見ればクズだと思われている可能性もあり得るんです。それなのに、クズの殺しを許可してしまったら、日本は無法地帯になりますよ」

少しは話が通じるようだし、どうにかこれで納得してもらえないだろうか。

『........そう。わかった』

「!」

『それならもう頼まない』

その言葉とともに、どこから取り出したのか包丁をこちらに向かって勢いよく投げた。

チッ、ダメか。

だが、佐原の式神のおかげで包丁は途中で壁にでも当たったかのように弾かれ、地面に音を立てて落ちた。

その隙に式神を喚び、ジャガーに似た姿をした式神は一直線に笹川さんの方へ駆け出す。リューイとは別の、もう一体のこの式神を俺はジスと呼んでいる。

地面に落ちていた包丁がひとりでに動き、ジスの方へと向かっていったが、それを難なく避け、一気に距離を詰めて笹川さんを地面へと縫い付けた。

『くっ....!』

どうやら、触れずとも物を動かせるタイプの霊のようだ。
下位式神で十分だとは思うが、念の為リューイも喚び出し、渡邊を護るように指示を出す。

「お、おい!何が起こってるんだ!俺から離れるなよ!」

笹川さんの元へ行こうとした俺の腕を、渡邊が掴んだ。
視えない人にとっては、勝手に包丁が動き、勝手に笹川さんが倒れたように見えるから仕方ないが、もう少し静かにできないものか。
ジスだってずっと押さえておけるわけではない。

「後で説明しますので、とにかく今は落ち着いてください。ここにいれば安全ですから」

「あっ、ちょ...!うわっ!」

掴まれていた手を振り払った直後、近くにあったベンチが勢いよく渡邊の方に飛んできた。
渡邊は驚いて腕で頭を守ったが、ぶつかる前にリューイが弾いたので勿論無傷だ。

渡邊が放心している間に、これ幸いとそばを離れる。
だが、笹川さんの元へ向かおうとした時、"逃げた"とジスから念話が届いた。見れば霊魂が空へと逃げていくのが視える。

「リューイ!」

呼びかければすぐに意図を汲んで追いかけてくれた。霊魂では大した事はできないので、あとはリューイに任せておけば大丈夫だ。

ジスにはお礼を言って戻ってもらうと、丁度その時誰かが呼んだ警察が到着した。
後のことを任せ、俺たちはリューイの後を追った。
もちろん、渡邊には事情を訊くつもりだ。先程影山からの返信もあったので、事情は大まかに把握している。


そして、人気のない場所へ移動した俺たちの前に、霊魂を咥えたリューイが降り立った。

影山からの報告では、あの霊は鶴橋つるはし由梨という女性で、渡邊と付き合っており、妊娠を機に結婚をする予定だったようだ。
ところが、渡邊に職場の専務の娘とのお見合い話が持ち上がった。

専務の娘を選んだ渡邊は、子供を堕ろすよう要求したが、鶴橋は子供に罪はないと拒否。
すると、その数日後鶴橋が強姦に遭ってしまい、その所為で流産してしまう。

犯人は捕まったが、渡邊が指示を出した、という鶴橋の証言は、証拠もなく犯人も関与を否定したため、裁かれることはなかった。

———その後、鶴橋が自殺。

という胸糞悪い話だ。
しかし、よくこの短時間でここまで調べられたな。

リューイに咥えられたままの鶴橋に確認をとると、不機嫌そうに頷いた。

『そうよ!あんたたち警察が無能な所為で捕まえられないし殺せないし散々だわっ!』

完全に八つ当たりだが、本当に渡邊が関与しているんだとしたら、それは確かに警察の所為だ。

「なぜ渡邊が関与してると確信できる?」

『あいつが言ってたからよ!"大人しく堕ろしとけばこんな目に遭わなかったのにな"って!』

ううん...。確かに意味深ではあるが、その証言だけじゃなんとも言えないな....。

『ふんっ!もう別にいいわよっ!さっさと除霊したらっ?』

「聞きたいことがある」

『なんで答えなきゃいけないわけ?絶対嫌。除霊しないなら離してくれない?』

.....取りつく島もない。
まあ、俺の顔を見ても何も言わないし、復讐心でいっぱいだろうから噂やコミュニティの事は知らないだろう。

ということで、鶴橋の希望通り早々に除霊した。


あの後、渡邊の取り調べで鶴橋の足取りがある程度わかってきた。
どうやら数日前から、渡邊の郵便受けに脅迫状のようなものが入っていたらしい。防犯カメラに笹川さんの姿が映っていたので、鶴橋がやった事に間違いないだろう。

肝心の脅迫状は捨ててしまって手元にはなかったので、もしかしたら都合の悪い事が書いてあったのかもしれない。

目を覚ました笹川さんからも事情を訊くと、"殺される"と言っていたのは夢の中でそう言われたんだそうだ。その夢が妙にリアルで、後日部屋に書き置きなどもあったことから怖くなってしまったらしい。

知らないうちに誰かが部屋に出入りしているかもしれない、となれば無理もない。
しかし、夢に出てくる幽霊など聞いた事がないが、念が強かったりすると可能なのだろうか。できればそういった事も聞きたかったが、仕方がない。

結局渡邊を罪に問うことはできず、申し訳なく思っていたのだが、それは杞憂だったようだ。

あの時の事はニュースにもなって、少し話題になった。ちなみに、話題になったのはポルターガイストの方で、俺の容姿ではない。モザイクだった事もあるが、今回は佐原の活躍もあってかSNSには流れなかったし、単純に一過性のものだったんだろう。

そしてその報道の後、専務の娘とは破談になったらしい。
そもそも鶴橋と付き合っている事すら話しておらず、更には"レイプを指示して流産させた"というような内容の怪文書まで送られてきて、不信感が募ったようだ。
渡邊は地方に左遷させられ、この話は幕を閉じた。

怪文書を送ったのは十中八九鶴橋だろう。失敗した後の事まで考えてたとかすごい執着心だな。用意周到というかなんというか....。そこまでの復讐心がある事に少しゾッとする。

それと、いつもの事ながら"少し気になったから"という理由でここまで調べ上げた影山も、違った意味で恐ろしい。一体どうやってここまで調べたのか。

なにはともあれ、一件落着だ。
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