年下上司の愛が重すぎる!

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16話

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◇◇◇



「なんでこんな回りくどいことを....」

俺たちは今、公園に来ている。

「こういったことはあまりしないんですか?」

「ああ...。そもそも人手が足りないからな」

「確かに.....」

今日は、あの大半が冷やかしだった大量に訪れた相談者の中から、真面目に相談に来た人の元へと来ているのだが....、そもそも相談者は取り憑かれている本人ではなく、その友人だ。

というのも、本当はその友人も一緒に連れて来たかったようだが、頑として頷かず、"祓ったら呪い殺される"と怯えてしまって話にならないらしい。

二人とも霊が視えるわけではないが、明らかに寝れておらず、ひどい隈で心配して一人で相談に来たというわけだ。

その状態が少なくとも十日は続いているようで、言動も気になるが体の方も心配だ。
女性だと聞いているので、おそらくもう操られるほど体力は落ちているだろう。

相談者の話では、たまに記憶がなくなる時がある、と友人から聞いているようなので取り憑かれていることはほぼ間違いないとして、目的がわからない。

目立ちたいだけなら、すでに体を操って自殺なりしているはずだ。それをしていないということは、何か別の目的があるに違いない。

そこで、なるべく刺激しないように、隠れて警護することになったのだ。

そんな回りくどいことをしなくても、さっさと除霊してしまえば楽なのに。
まぁ、そうなると目的がわからなくなってしまうというデメリットはあるが。

そして、公園に潜んでから三十分が経過した頃、ようやくお目当ての人物が現れた。
約束の時間より十五分が過ぎていたが、仕方ないと思うほど体調が悪そうだ。遠目でもわかるほど隈ができているし、寝不足からか足取りも覚束ない。
背後にはやはりと言うべきか、黒い影がある。

芽依めい!」

相談者が友人の名前を呼んで駆け寄った。
ちなみに、相談者の名前が道永小春みちながこはるさんで、その友人が笹川ささかわ芽依さんだ。

「また隈酷くなったんじゃない....?」

「うん.....、まだ、寝れなくて.....」

「....ねえ、やっぱりお祓いした方がいいんじゃない?」

道永さんが控えめにそう進言すると、笹川さんは声を荒げた。

「何度も言ってるでしょ!?そんなことしたら殺される!」

「で、でも...、このままじゃどの道体壊しちゃうよ....」

「そんなこと言うためだけに呼び出したの!?もう私のことはほっといて!」

「あっ、待って、芽依!これ、お弁当...、作ったからよかったら食べて...?」

笹川さんは受け取るのを少し躊躇っていたが、結局受け取った。

「あり...がと.....」

呟かれたお礼の言葉に、道永さんは嬉しそうに顔を綻ばせた。

さて、ここから先は俺たちの仕事だ。道永さんに目礼をして、見つからないように笹川さんの後を追った。



仕事は暫く休みを取ったそうで、家に戻ってから夕方まで動きはなく、空がやや薄暗くなった頃に家から出てきた笹川さんは、様子ががらりと変わっていた。

まず、足取りがまるで違う。先程までは覚束なかった足取りがしっかりしている。
そして、顔つきも全然違う。隈があるのは変わらないが、弱々しかった表情が一変してかなり険しくなっている。

佐原と顔を見合わせ、お互い無言で頷いた。
恐らく、今は体を操られている状態だろう。
電車に乗った時は少し身構えたが、何事もせず下車。
どうやら明確な目的地があるようだ。その足取りに迷いはない。

やがてたどり着いたのは、大きなオフィスビルだ。多くのテナントがあるためか、定時はすぎているだろうに未だ大勢の人が出入りしている。

「ここで暴れられたらまずいな....」

「ですね...。俺、式神喚んでおきます」

「いや、待て。気づかれる可能性があるからターゲットが出てくるまで待った方がいい」

ビルから出てくる人を睨みつけるように見ているので、ここから目当ての人物が出て来ることは間違いないだろう。
これでバレてしまったら即除霊しなくてはいけなくなる。そうなると結局何が目的だったのかわからなくなってしまう。
せっかくここまで来たのだ。どうせなら目的も知りたい。

「だが、いつでも喚べるようにはしておいてくれ」

「わかりました」

言いながら自分も式札を取り出す。
と、その時、笹川さんの元々険しかった顔がより一層歪んだ。その視線の先には、スーツを着た30代くらいの男性が。少し疲れた顔をしているが、幽霊に取り憑かれているわけではないようだ。

渡邊修司わたなべしゅうじ!』

突然笹川さんが大声で叫び、先程の男性の肩がびくりと跳ねた。やはり目的はこの男性か。
周りもなんだなんだと騒ぎ始め、注目を集めてしまっている。

そこで佐原が小鳥の姿をした式神を三体喚び、笹川さんの周りに飛ばした。
あれならそれほど目立たないし、視える人がいても騒ぎにはならないだろう。笹川さんも気づいている様子はない。

「だ、誰だお前は」

『ふふっ。私のプレゼント、気に入ってくれた?』

「プレゼント....?....ま、まさかはお前が....」

『そう!どうしたら嫌がるかなってずっと考えてたの!効果があったみたいでよかったわ!』

心底嬉しそうな声色とは裏腹な言葉に、男性——渡邊は顔が引き攣っている。周りも、ただの痴話喧嘩ではない事に気づき始めている人もいそうだ。

「お、お前誰だよ...!なんで知って....!」

『まだわからないの?私が由梨ゆりだからよ!』

「はっ!?何言って...!由梨は死んだだろ...!」

これ以上騒ぎになると厄介だ。できれば場所を移動したい。
これまでで分かった事を簡単にまとめ、メールで影山に送った。そうすればある程度詳しく調べてくれるので、この二人の間に起こった事も大体分かるだろう。

「周りへのフォロー頼む」

佐原に小声指示をして、俺も同じように小鳥の姿をした下位式神を喚び、渡邊の方へ飛ばす。
式神が渡邊の肩へと降り立つと、さすがに笹川さんが気づき、こちらに勢いよく顔を向けた。

「どーも、警察です」

警察手帳を開きながら二人へと近づく。佐原は指示通り、周りの野次馬たちを遠ざける為に誘導を開始した。一人では大変だろうが、あっちは任せて今は集中しなくては。もうあんな失態は絶対に犯さない。
笹川さんは物凄い形相で睨みつけ、渡邊はほっとした顔をしている。

『チッ....。つけられてたか....』

どうやら頭の回転は速い方らしい。
余計な手間が省けて助かる。

「ここは穏便に済ませてくれませんかね?」

『冗談言わないでくれる?何のために私がここまでしたと思ってるの?邪魔しないで』

「残念ながら、こちらも仕事なんでね」

『クズを護るのが仕事?笑わせないで』

「正確にはクズ護るのが仕事ですね」

『どっちも同じじゃない』

「全然違いますよ」

『そいつを護るなら私にとっては同じことよ。そんなクズ、いなくなった方がこの国ためになるわ』

「ま、正直な話、それには同意します」

『あら、案外話のわかる人じゃない。じゃあそこ、どいてくれる?』

「な、何言ってんだあんた!警察がそんな事言っていいのか!?」

見捨てられるとでも思ったのか、後ろで渡邊が声を荒げる。
こいつ、自分がクズだって認めてるのか?どちらにしろ、気が散るので黙っていてほしい。

「ご安心を。見殺しになんてしませんよ。なのでそこを動かず少し静かにしていてください」

後ろを振り返らずにそういうと、舌打ちが聞こえた。
振り返らずに言ったのが気に食わなかったのか、それとも言い方か、はたまた両方か。理由はわからないが、静かになったので結果オーライだ。
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