年下上司の愛が重すぎる!

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14話

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昨夜は若干気まずいまま就寝となったが、今朝は目が合った瞬間にボッと顔が赤くなり、「お、お、お、おはようございます!」と挨拶を一方的にされ、逃げるようにトイレへ駆け込んでいった。

一体なんだったんだろうか。
トイレから出てきた佐原は元に戻っていたので、特に気にすることもなかったが。


電車に乗る事は暫く禁止されてしまったので、署までは歩いて通勤する事となった。乗客を巻き込んでしまう可能性があるため当然の処置だ。
ここから署まで歩いても三十分ほどで着くのでそれほど苦でもない。
あるとすれば起きる時間が少し早くなった程度だ。


署に着くと、いつもはない人だかりができていた。

「....なんだ、これ....」

何か事件でも起こったのだろうか。
慌てて駆け寄ろうとして、携帯が振動したので足を止めた。
無視しようとも思ったのだが、着信は影山からだったのでもしかしたらこの状況を知っているかもしれないと通話を押す。

『姫崎さん!?今どこですか!?』

「うわっ!」

電話に出るや否や大きな声が響き、とっさに携帯を耳から離す。それでも『姫崎さん!?聞いてます!?』と聞こえてくるほどの大きさだ。

「聞こえてるから声落とせ」

ここまで焦っているのも珍しく、何かあったのかとスピーカーにした。

「今署の前にいるんだが、この騒ぎはなんだ?」

『とりあえず回れ右して署に入ってこないでください!今すぐそこから離れて!』

「はぁ?」

『後で説明するんで!先にパトロール行ってきてください!落ち着いたらまた連絡します!それまで戻って来ないでくださいね!』

どうやら相当切羽詰まっているらしい。気にはなったが素直に従った。
できれば顔を隠してパトロールに行ってほしいという謎の指示も受けたので、雑貨屋に寄って帽子とサングラスを購入。サングラスは、黒だと取り憑かれている人がいても見えなくなってしまうので、薄い黄色を選んだ。

佐原も似たような物を選び、パトロールへと向かったが大した成果はなく、影山から再び連絡がきたのは、夕方になってからだった。


署に戻ると、三人とも酷く疲れているようだった。
千葉は椅子にぐったりと座り込み、影山は机に突っ伏している。神野さんからも笑顔は消えていた。

「お、お疲れ様です.....」

関わらないようにされたのはこっちだし、俺たちが悪いわけではないのだが、なんだか申し訳ないような気持ちになってくる。

「そっちもお疲れ様。変わった事はなかった?」

神野さんにそう聞かれ、首を横に振る。

「いえ。特になにも。それより朝の人だかりはなんだったんです?」

「影山くん、説明頼むよ」

はぁい、と気だるげに返事した影山は、パソコンを操作した。

「なっ....!!」

「なんでこれが....」

画面に映し出されたのは、俺と佐原が抱き合っている写真だ。
佐原の後ろ側から撮られており、顔には一応モザイクがかかっている。それでも分かったのは、体型も同じだし、昨日の朝に起こった出来事と酷似しているからだ。

「もー、こんなとこでイチャつかないでくださいよー。これのお陰で今日すっごい大変だったんですよ?」

「いっ!?ち、ちがっ、これは——」

言いかけて口をつぐむ。
なんでこうなったかを説明すると、俺がパニクった事まで話さなければいけなくなる。佐原はパニックになった事までは報告していないと言っていた。
もしかしたらバレている可能性もあるが、わざわざ言いたくない。

「すみません、俺の責任です」

隣で呟かれた言葉にぎょっとした。
何言ってんだこいつ!そういう言い方だと肯定してるように聞こえんだろーが!!

「ま、ぶっちゃけ事実かどうかはどうでもいいんすよ。問題は、これの所為で姫崎さんの顔写真が流れた事です」

どうやらSNSに投稿された動画は、一部の界隈でかなりバズったらしい。
既に発端となった投稿は消されているが、投稿内容は『ぎゃ~~~~!!ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!!(何か事件が起きたらしい)』と、ちょっと意味のわからないものだったようだ。

その投稿を見た人が"あ、これ知ってる自分も見た""この二人刑事らしい""最近毎朝痴漢捕まえてる人じゃない?""知ってる!この人超美人!"などとどんどん拡散し、最終的に写真付きで"幽霊課の刑事らしい!本当にあったんだなw"と俺の顔が広まっていったようだ。

そして、今朝の人だかりは俺目当ての相談者だったらしい。故にほとんどが冷やかし。
あそこでバレていたら大変な事になっていただろう。対応してくれた三人には感謝しかない。
幽霊課が周知されるようになったのはいいが、これじゃあ仕事にならない。

何が厄介かって、冷やかしではない人もいるから邪険にもできない事だ。

「落ち着くまで相談受けるのやめますか?」

俺の所為でみんなに負担がかかるのは避けたい。

「いや、ちゃんと相談に来た人もいたんだよ。きっと人が多い今なら目立たないだろう、って思ったんじゃないかな。姫崎くんが対応しないって分かれば少しは落ち着くと思うし、もう少し様子を見てみよう」

そうか、相談に来るだけでも結構ハードルが高いのか。相談に行ったのが周囲に知られれば、揶揄からかわれたり、幽霊が視える、というだけで怖がられる事もあるかもしれない。
そう思うとなかなか一歩を踏み出せない人もいるだろう。

メールで相談を受けても、結局会わなければ取り憑かれているかどうかの判断もできないので、当たり障りのない回答しかできない。

「夕食一回でいいですよー、姫崎さん」

「お前.....」

そういえばこいつはそういう奴だった。懐に入るのが上手いというかなんというか....。まあ、最初からそのつもりだったのでいいのだが。

「わかったよ」

「やったー!高いところ予約しなくちゃ!」

全く遠慮のない発言に呆れていると、隣から控えめにあの、と声をかけられた。

「それ、俺にも出させてください」

「ん?いや、別にいい...ですよ」

危うくタメ口で話してしまうところだった。お陰で変な間ができてしまい、こっちをニヤニヤと見てくる影山にはきっとバレている。

「でも、俺がきちんと対応しなかった所為ですし....」

「対応していても流れる可能性は十分にあったんですから、気にしないでください」

本当にこいつは自分の所為にしたがるな。癖なのか?
でも、と食い下がる佐原を遮り、影山が声を上げた。

「なら次のご飯は警部と姫崎さんの奢りという事で!」

「なんでだよっ、明らかに警部の所為じゃないだろ」

「本人が奢りたいって言ってるんだからいいじゃないですか。堅いんですよ、姫崎さんは」

お前は緩すぎだ。
だが、佐原は影山の言葉にこくこくと頷いている。
俺がおかしいんだろうか。佐原にも迷惑をかけているので、これで借を返せると思ったんだが。

「.....わかりましたよ。好きにしてください」

俺には理解できないが、佐原が思ったより頑固だということも薄々わかってきたので早々に折れた。

「....なんか、急に仲良くなったな?同棲効果?」

いつの間に復活したのか、椅子にきちんと座り直していた千葉がさして興味もなさそうに言った。

「同居!な!ってかそんな変わんねーだろ」

「え?自覚ないの?むしろお前が歩み寄ってる感じするけど」

....そりゃあ助けてもらったし、世話にもなってるから多少は変わってると思うが、そんなに変えたつもりもない。

「まあ仲良くなったならよかったじゃない。それよりも相談内容まとめて、今後の事も考えよう。土日はもっと人が増えるかもしれないしね」

神野さんの言葉に、空気が一瞬で仕事モードに切り替わった。
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