年下上司の愛が重すぎる!

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閑話:佐原視点

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『家知られたくないつってんのわかんない?』

先程言われた言葉が頭の中で何度も響き、店内に入って床にずるずると座り込む。
姫崎さんの言っている事は最もだ。俺が一方的に知っていただけで、姫崎さんからしてみれば初対面だしストーカーだと思われても不思議ではない。

姫崎さんに認識してもらって、話せることに浮かれてしまった。

「お客様、大丈夫ですか?」

はぁ、とため息をついたところで頭上から声がかかった。
顔を上げるとこのお店の店主である森元さんが心配そうに覗き込んでいる。

「あっ、大丈夫です!すみません、通路塞いじゃって...」

「あれ、警部さんじゃないですか。もしかして、姫ちゃん帰っちゃいました?」

その呼び方に深い意味などない事はわかっているのに、"姫ちゃん"と聞くたびににもやもやとしてしまう。俺は姫崎さんがお酒弱い事すら知らないのに、とくだらない嫉妬心が再び顔を出す。

「はい」

「......姫ちゃんになんかキツいこと言われました?」

「えっ....」

「ははっ、警部さん素直すぎ。顔に全部出てますよ?」

う.....。
よく指摘されるそれは、警察官にとってはあまり好ましくない。気を張っている時はあまり出ないのだが、プライベートでは喜怒哀楽がほとんど出てしまうため、わかりやすい、とか可愛い、とよく言われてしまう。

「何言われたのか知りませんけど、あんまり気にしない方がいいですよ?あいつ、初対面の人には大抵冷たく当たるんで」

「え......」

わざと、ってこと....?

「ま、あいつなりの選定方法なんじゃないんですかね?本人自覚あるかわかんないけど」

選定....。確かに、姫崎さんは良くも悪くも目立つ。言い寄られることも、きっと多いのだろう。何度か突き放して寄って来なくなればそれまで...という事だろうか。

そうだとしたら、俺にもまだチャンスはある...?

まあ、諦めるつもりは全くないけれど。そもそも諦められるならここまで追ったりしない。

視線を感じて顔を上げると、森元さんが意味ありげな顔でこちらを見ていた。
また、顔に出ていたんだろうか。
若干の気まずさの中、もう少し詳しく聞こうと口を開いた時、森元さんが他の店員に呼ばれた。

「あ、ごめんなさい。俺もう行かないと」

「いえっ、引き留めてしまってすみませんでした」

「いやいや、引き留めたのは俺なんで。ゆっくりしてってくださいね~」

ありがとうございます、とお礼を言って俺も席へ戻った。


「あ、やっぱり駄目でした?」

心配だから送ってきます、と言って席を立った俺を、特に驚いた様子もなく出迎えてくれた。

「家を知られたくない、と言われてしまいました」

「うわー、相変わらず言い方キツっ」

影山さんが顔をしかめながら酒を呷る。結構飲んでいる筈なのに、顔色は全く変わらず、ペースも落ちていない。
自分も弱い方ではないが、影山さんの方が強そうだ。

「人に頼りたがらないからねぇ、姫崎くんは」

それが欠点でもあるね、と神野さんの意見は厳しい。
でも、そうか。俺だから頼りたくない、ってわけじゃなかったんだ。....いや、もしかしたらそれもあるかもしれないけど....。

「あの、さっき森元さんに聞いたんですけど、姫崎さんって初対面の人に冷たく当たるって本当ですか...?」

さっきの話が本当かどうかが気になって聞いてみると、皆様々な反応を示した。
いや、神野さんだけは変わらず、にこにこと笑っていて読めない。千葉さんは少し顔を顰め、影山さんは目を丸くしている。

「....あいつ、変なとこによく気づくよな....」

「言われてみれば俺もそうだったかも?」

二人に確信はないようだが、どうやら本当らしい。そうやって突き放して、ずっと一人で守ってきたのかな、自分を。

「でもそれ越えると面倒見よくないですか?情に厚いっていうか」

「まーな、でもツンが多すぎないか?デレたとこなんて一回も見た事ねーけど」

「姫崎さんのデレ....。見たすぎますね」

ごくりと喉を鳴らす影山さんと同様に俺も喉を鳴らす。
デレた姫崎さん....!そんなの俺だって見たすぎる...!絶対かわいい...いや、美人?かっこいい?なんかどれもありそう。

「姫崎くんがデレたら大変なことになりそうだねぇ」

飲んでいるものがお茶にでも見えそうなほどゆったりとした口調で神野さんが言う。

「あー....、確かに」

「ダメっすね。絶対ダメ。下手したら血祭りですよ」

どんな想像をしたのかわからないが、影山さんは腕を抱えて体を震わせた。血祭り..とまではいかなくとも、流血沙汰になりそうな事は容易に想像できる。

「しっかし、なんであんなに変態にばかり好かれるんでしょうね?」

千葉さんががしがしと頭をかきながら呆れたように呟く。それにいち早く反応したのは影山さんだ。

「えー、俺はなんとなくわかりますよ?」

「なんだよ」

「だって姫崎さんってちょっと危ういところありません?影があるっていうか....。なーんか妙な色気があって、そこを暴きたいって思うんじゃないですかねぇ」

その言葉に、妙に納得してしまった。

「そうか。つまりお前も変態ってことだな」

「ちょ、なんでそうなるんですか!」

「変態の気持ちがわかるのは変態ってことだろ」

「男はみんな変態ですぅー」

「開き直んな」

気持ちがわかった俺も変態なんだろうか。

「警部はわかりますよねえ?」

ニヤニヤとした顔で覗き込まれ、ぎくり、と身を固める。たぶん、今のも顔に出ていたんだろう。

「え、えっと..........はい...。なんとなく、ですけど.....」

「警部って、姫崎さんのこと好きですよね?恋愛的な意味で」

ズバッと言われてしまい、言葉に詰まる。一目惚れとか言ってしまったし、バレているだろうとは思っていたけど改めて言われると少し恥ずかしい。

「わかり、ますよね.....。すみません」

「なんで謝るんですか?」

「だって...、男同士、ですし....」

「ああ、俺バイだし気にしませんよ?ってか姫崎さんと関わってたら珍しくもないですしね」

突然のカミングアウトに目を白黒させながらも、確かに、と納得する。神野さんも千葉さんも嫌悪感を抱いている様子はないし、当然カミングアウトにも驚いた様子はないので知っていたようだ。

「でも姫崎は難しいと思いますよ」

「ですねー。姫崎さんの浮いた話なんて聞いた事ないですし、なによりガードが固いですからねー。まぁ、変態ホイホイなんで仕方ないとは思いますけど」

難しいことは、わかっている。会った時から不愉快さを隠しもせず、冷たくあしらわれたのだ。だからといって、諦めるという考えには全く至らなかった。

姫崎さんが怪我をして、「お前の所為じゃない」と言われた時、俺が自分を責めないように言ってくれているのかと思ったが、多分違う。本当に、そう思っていたのだ。それほどまでに自分に厳しい。

それが危うさにも繋がっているんじゃないだろうか。目を離したら壊れてしまいそうで、怖い。だから、自分が隣で支えられれば、とどうしても思ってしまうんだ。

「.......今は、隣に居られるだけでも嬉しいので....」

「健気っ....!」

影山さんの言葉に、なんだか恥ずかしくなってきた。
何を言ってるんだ、自分は。

「俺、俄然応援したくなっちゃいました!」

そう言って、姫崎さんの事を色々話してくれた。
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