年下上司の愛が重すぎる!

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7話

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「.....森元さんとは..警察学校時代から仲が良いんですか...?」

腹も膨れてきたし、そろそろ帰ろうかと思っていたら佐原が遠慮がちに聞いてきた。

「は...?...いや、別に仲良くは......。けど、まあ昔からあんな感じですね」

「....そうですか」

「それが何か?」

「いえ。.....少し..羨ましいな、と」

「は.......?」

羨ましい?何言ってんだこいつは。もう酔ったのか?

「俺は...姫崎さんの事全然知らないんだなって...。だから、姫崎さんの事、教えてくれませんか...?」

待て待て待て。ほんとに何言ってんの?絶対酔ってるだろ!
突然わけのわからない事を言い出したと思ったが、表情は真剣だ。顔に出ないだけかもしれないが。ただ、酔っていないんだとしたらそれはそれで問題だ。

「警部って姫崎さんのことめっちゃ好きですよねー」

「姫崎の事なら俺話せますよ」

「えっ!?えっと、その......」

聞いていたらしい影山の発言に、佐原がわたわたと慌てだす。なんでそんなに好かれているのかは全くわからないが、正直なんと返したら良いか分からなかったので助かる。ただ、神野さんも日本酒を飲みながらこちらに耳を傾けているし、これ以上話を広げないでほしい。

「そういえば今朝も憧れてるって言ってましたもんね。きっかけとかあるんですか?」

「きっかけは.....、その、ほとんど一目惚れでして....」

少し照れたように爆弾を投下され、ウーロン茶を飲んでいた俺は変な方に入ってしまい、盛大にむせた。そんな俺の事はお構いなしに外野は面白がって口笛を吹いたりそれでそれで?と先を促している。
............これ、俺聞いてないと駄目なのか?

すぐにでも帰りたかったのだが、影山が邪魔で出られない。トイレに行くと言ってもどいてくれないだろう。

「姫崎さんが交番勤務の時に初めて見かけて...。通行人に笑顔で挨拶してる姿を見て、こんな綺麗な人この世にいるんだなぁって....」

その言葉に俺は頭を抱え、千葉は盛大に吹き出した。
失礼な奴だ。そりゃあ俺にだって初々しい時くらいある。ただ、この場で言うのはマジで勘弁してもらいたいんだが....。しかも絶対美化してるだろ....。

「それから、少し遠回りでしたけど毎朝挨拶して、たまに学校の帰りとか休みの日も用事ないのに交番の前通ったり....」

.................。......え?ってことは初めましてじゃないってことか....?
千葉と影山がじとっとした目で俺を見る。

「い、いや覚えてるわけねーだろ!通行人どんだけいると思ってんだ!」

「あっ、もちろんわかってます!本当に挨拶してただけですし、当時から姫崎さんは人気がありましたから」

じと目を送ってきた二人に向けたものだったのに、佐原が答えた所為で彼に言ったかのようになってしまった。訂正しようと口を開いたが、それもなんか違う気がして結局口を閉じる。

「そういえば警部っておいくつなんですか?」

「25です」

「へー。俺より下なんすね。それじゃあ高校生の時に初めて会ったんですか?」

「はい。.......でも、大学に入って一年..くらい経って急に見かけなくなっちゃって....。当時は辞めたとか、他の交番に移ったとかと思ってたんですけど、それから暫くしてスーツ姿の姫崎さんを見かけて」

.......まだ話すのかよ....。
多分、その頃から刑事課に配属されたので佐原には突然居なくなったように感じたんだろう。
酒に逃げることもできず、公開処刑のような心持ちで、恍惚とした表情で話す佐原をちらりと盗み見る。

どうせこいつも俺の顔だけしか見ていない。
別にそんなこと珍しくもなんともないが、正直俺はこの顔が嫌いだ。だから褒められても嬉しくないし、なんならあまり気分は良くない。
....というか、話を聞く限り若干ストーカーっぽくないか?

「会社員に転職したと思ってたんですけど、俺が大学二年の時に助けてもらったことがあるんです」

「助けて....って、え?なんか事件に巻き込まれたんですか?」

「あ、そんな大したことじゃないんです。酔っ払いに絡まれたことがあって、その時に」

またもじとっとした目がこちらに向く。
だから!覚えてるわけないだろ!
自分らだって同じようなことがあっても絶対に覚えてないだろうに、なんで俺だけ責められなきゃいけないんだ。

「その時の姫崎さんがかっこよくて、そこから本格的に警察官を目指したんです。柔道もその頃から始めました」

「「「え!?」」」

三人とも、同じように驚きの声を上げた。
柔道の大会で優勝するくらいだから、てっきり小さい頃から習っているものだと思っていた。長くやっているからといって、必ずしも実力が伴うわけではないのはわかっている。でも、だからこそ余計悔しい。

たった数年で俺は抜かれてしまったのか、と。

「それで柔道大会優勝ってやばくないですか!?」

「今年も出るんですか?」

影山と千葉が興奮したように質問するのを横で聞き、自分の小ささを突きつけられているようだ。居心地が悪くなって神野さんを見ると、会話には参加していないが話はしっかりと聞いているようで、変わらない表情で酒を呷り、俺と目が合うとにっこりと笑って首を傾げた。

結局、俺だけが小さい事を余計に突きつけられただけ。

「いえ、大会には.....勝ち進めば姫崎さんに見てもらえるかもしれない、と思って出ただけですので」

お会いできた今、もう大会に出るつもりはありません。と続ける佐原にそれぞれ違った反応を示した。

神野さんはへぇ、と少し驚いたように声を漏らし、
千葉は笑を堪えるようにくくっ、と喉を鳴らし、
影山はわーお、と言って頬を染めている。
当然俺はドン引きだ。

いくら酔っているからといって、よく恥ずかしげもなくそんなことを言えたもんだ。しかもストーカーの線が濃厚になってきてないか?

未だに俺の話を止めない佐原を遮るように、机をバン!と少し強めに叩いて立ち上がった。

「帰ります」

「えー、もう少しいいじゃないですかー」

ここからが面白いのに、などと影山がほざきながら、退く気配はない。もう十分義理は果たしただろう。これ以上は聞きたくない。

「影山、退かないならそれでもいいが...、覚悟はできてんだろうな?」

暗に、無理矢理にでも退かすぞ、と睨みながら言えば、顔を引き攣らせて席を立った。
自分の分のお金を適当に置いていこうとしたら、神野さんに「今日は私の奢りだから」とやんわり断られ、お言葉に甘えてお礼を言ってから店を出た。


外に出ると、店内の熱気がすーっと消えていく。昼間はまだ暑いが、夜になると秋の気配を感じられるようになった。
ようやく一人になれてほっと息をつく。早く帰って今日はもう寝よう。そう決めて歩き出したところで、背中から声がかかった。

「姫崎さん!」

またお前か。せっかく一人になれたのに。かったるいことを隠しもせず、ため息をつきながら振り向く。

「あの...、送らせてください」

「断る」

「でもっ...、噂の事もありますしあまり一人には...」

「余計なお世話だ」

だいたい、酔っ払いがなんの役に立つっていうんだ。

「お願いします。近くまででいいんで....」

「家知られたくないつってんのわかんない?」

言い過ぎた、と思ったのは佐原がざっくりと傷ついた顔をしたからだ。
イラついてかなりキツい言い方をしてしまった。本心ではあったが、もう少し言い方あるだろ。仮にも上司で、これから嫌でも顔を合わせなきゃいけないのに。

「あー.....」

「すみません!....そう、ですよね...。俺、姫崎さんに会えて浮かれちゃって....。.....失礼します」

なにかフォローを、と考えているうちに佐原は頭を下げて店内へと戻っていった。
遅れてやってくる罪悪感をため息をついて振り払う。

いや、なんで俺が罪悪感なんて感じないといけないんだ。多少言い方がキツかっただけで、事実は事実。ただ、あのしゅんとした顔をされると、犬を虐めているような心持ちになってしまう。

明日からの事を考えると、既に憂鬱な気分になる。
だが、どうしたって明日はやってくるんだ。気持ちを切り替える為にも帰路に着いた。
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