年下上司の愛が重すぎる!

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5話

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「こんにちは」

「ああ、姫崎さん。お久しぶりです」

診察室に入ると、癖のない長い髪をひとつに結んだ恐ろしく顔の整った人が出迎えてくれた。
この人が御堂先生だ。俺なんかよりもよっぽど綺麗な人だと思う。
容姿もさることながら、丁寧な仕事ぶりや親身になって話を聞いてくれる、と老若男女から人気のある先生だ。

「——っと、そちらの方は?」

俺に続いて入ってきた佐原をちらりと見て首を傾げる。

「本日付けでうちの課に配属された佐原警部です。今後お世話になる可能性もあるかと思い、ご挨拶に参りました」

「佐原壱です。よろしくお願いいたします」

「そうですか。私は御堂智也みどうともやと申します。失礼ですが..警部、ということは...」

「ええ。私の上司です。なのでこちらでお世話になる事はほとんどないと思いますが」

「随分お若い上司さんですね。やはり警察組織は理解できない事が多い」

冗談まじりにふわりと笑う様は、周りに花でも浮かびそうだ。

「それには私も同意です。....警部、挨拶も済みましたし戻っていただいても大丈夫ですよ?」

「いえ。終わるまで待ってます」

遠回しに帰れと言ったのだが、伝わらなかったようだ。さすがにここで言い争うわけにもいかないので、そうですか、とだけ言って先生の方へ向き直る。

「今日配属になったばかりにしては、もう仲が良いのですね?」

「....そう見えたんだとしたら眼科を受診されることをお勧めします」

「ふふっ。それにしても姫崎さんが怪我されるなんて珍しいですね。よっぽど強い相手だったんですか?」

「あー、いえ...」

「俺の所為です」

佐原の硬い声が後ろから響く。
まだそんな事言ってんのか。

「違いますよ。言ったでしょう、自分のミスだと」

後ろを振り返らずに淡々とした口調で言いきった。
御堂先生は何も言わず、少し楽しそうに俺らの様子を眺めている。

「でも!俺があそこで部屋に入らなければあんな事になってないですよね?」

「そうだとしても、それも俺の責任です」

「なっ...」

「あなたが入ってくる事を予想していなかったのも、一瞬でもよそ見をしてしまったのも、護符を貼らずに近づいたのも、全部俺が油断していたせいです。あなたのせいじゃない」

きっぱりと言い放つと、ようやく押し黙った。
いつまでも自分の所為だとか思われてちゃ困るし、鬱陶しい。もうこれ以上話すことはないのでその意も込め、服を捲って診察を促した。

「診察お願いします」

「....これは...、派手にやられましたね....」

さらりと腹をなでる表情は若干険しい。どことなく怒っているような感じがするが、もしかしてそんなに酷い怪我なんだろうか。

「見た目ほど酷くはないと思うんですけど....」

「お腹の打撲を甘くみてはいけませんよ。少し触診するので服を脱いで横になっていただけますか?」

「はい.....」

神野さんと同じような事を言われてしまい、言われた通り素直に従った。先程の険しい顔も一瞬で、怒っていたように感じたのもきっと気のせいだろう。

「少し押すので、痛かったら言ってくださいね」

「は、いっ...!」

思ったよりも強めに押され、予期せぬ痛みに息を飲んだ。

「痛かったですか?」

「っ....、少し.....」

「我慢しないで痛い時は言ってくださいね?」

そう言って容赦なく腹を押していく。何もしていなければそれほど痛みを感じなかったが、押されればそれなりに痛い。
だが、どの程度の痛みで言えばいいんだろうか。今も痛いには痛いが、我慢できない程の痛みではない。

「いっ....!ぅ.......っ」

暫く痛みに耐えていたが、一際強く押され、さすがに声を上げた。そんな俺を見て御堂先生はにこにこと嬉しそうに笑っている。

何笑ってるんですか....!

「御堂、先..せっ...!い...たっ...」

「ああ、痛かったですか?」

途切れ途切れに言って手を掴めば、ようやくやめてくれた。非難するようにキッと睨んだが、わかっているだろうに、わざとらしく首を傾げる。

「っ....、わざとでしょう....」

「ふふっ、すみません。つい」

ついってなんだ!
この先生、見かけによらずドSだな...。

「大丈夫そうですけど、一応検査しておきましょうか」

何事もなかったかのように採血の準備を始めるのを尻目に、起き上がって服を着ていると、佐原と目が合った。だが、目が合った瞬間に慌てて逸らされてしまう。
心なしか顔が赤い気がしたが、なんだったんだ?特に何も言ってこなかったので、俺もそれ以上気にしなかった。


その後もいろいろ検査をしてもらったが、どうやら内臓は無事だったらしい。混んでいたのもあって、なんだかんだ遅くなってしまった。

「御堂先生、ありがとうございました」

「いえ。こう言ってしまうと不謹慎ですが、久々にお会いできて嬉しかったです」

笑顔で手をぎゅっと握られると、どういう反応をすればいいのかわからない。きっと誰にでも言ってるんだろうと結論づけ、無難に私もです、と返した。

「......そういえば、御堂先生の周りで変わった事は起きてないですか?」

「変わった事?」

「はい。例えば幽霊を頻繁に見るようになったとか、取り憑かれてる人がよく病院に来たりとか」

「........いえ。特に変わりはありませんが...」

御堂先生は少し考えてから首を横に振った。
あの幽霊が言っていた"綺麗な人"は抽象的すぎて基準がよくわからないが、目の前の人物は確実に"綺麗な人"に当てはまるだろう。注意するに越した事はない。

「実は、幽霊たちの間で"綺麗な人がいる"という噂が広まっているようでして...」

「噂?」

「抽象的で確証もない話ですが一応、一人になる時は気をつけてください」

念の為連絡先を渡しておこうと名刺を取り出せば、何に驚いているのか大きな目をぱちぱちと瞬かせている。

「.....どうかしましたか?」

「姫崎さん、私の事綺麗だと思っていたんですか?」

「ええ....。まぁ....」

大多数の人がそう思うんじゃないですかね。

「ふふっ、嬉しいです。でも、姫崎さんの方が綺麗ですよ」

さらりと言われ、言葉に詰まる。綺麗、など言われ慣れているのに、この人に言われるとどうも調子が狂う。冗談か本気かもいまいちよくわからないし、明らかに自分よりも綺麗だから余計だ。顔だけでなく、所作や言葉遣いなども綺麗で、がさつな俺とは比べものにならない。

結局何を言ったらいいかわからず、曖昧に笑うだけにした。

「これ、私の連絡先です。なにかあれば夜中でも構いませんのでご連絡ください」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん。では...」

「あ、待ってください!これは私の連絡先です。お腹が痛むようでしたら夜中でも構いませんのでご連絡くださいね」

同じように返され、思わず笑ってしまった。すると、突然御堂先生の指が俺の顎下へと伸び、所謂顎クイというものをされた。

なっ...!?
佐原ほどではないが、それでも少し見上げないと目が合わない。驚きで身が固まり、丸くさせた目が嬉しそうに細められた目と合う。

いやに長く感じたが、多分ほんのわずかだろう。佐原に慌てた様子で肩を掴まれ、金縛りが解けた。

「姫崎さんっ、新しい情報が入ったそうです!」

「あ....?.....あぁ、わかりました....。すみません、御堂先生。これで失礼させていただきます」

「残念。お仕事頑張ってくださいね」

助かった。
顎から指が離れ、ほっと息をつく。今頃になって背中に嫌な汗が伝い、早足でその場を離れた。
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