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第30話 Mona dama Mexicana!①

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 アメリカ サンフランシスコ国際空港――

 空港内の案内表示板の到着地や発着地、便名が目まぐるしく変わり、Boarding time(搭乗時間)がGate closed(搭乗締切)に切り替わるなか、フランチェスカはキャリーバッグをガラガラと転がす。
 そして表示板を見上げる。
 
「あちゃー、間に合わなかったか……」

 とすんとそばのベンチに腰かけ、はふぅっとひと息。

「やっと図書館の整理終わったのに……」

 と、いけないいけない。マザーに報告しないと……。

 修道服スカプラリオのポケットからスマホを取り出して番号をタッチし、耳に当てる。
 呼び出し音が鳴るなか、広い空港内では様々な人種の観光客やビジネスマンの母国語が飛び交い、アナウンスではゲート変更のお知らせが流れている。

『――AXL196便は38番ゲートに変更となりました』
 
 三回目の呼び出し音でマザーが出た。

「もしもし、シスターフランチェスカ?」
「あ、マザー。図書館の整理が終わりまして、いま空港にいるのですが、実は……」
 
『メキシコシティー行きのAMX68便は予定通り16:30に出発します』
 
「なんですって? フランチェスカ。よく聞こえませんが……」
「実は飛行機に」
 
 乗り遅れましてと言おうとしたとき、頭にひらめくものがあった。
 その悪魔的な閃きを口にする。

「日本行きの飛行機がエンジントラブルを起こしまして、すぐに日本には帰れなさそうです」

 電話の向こうから「まぁ!」と驚きの声。

「大丈夫なのですか?」
「ええ、しかもストライキで日本行きの飛行機が飛んでない状態なんです……」

 少々無理のある言い訳だが、そこは演技でカバーするしかない。

「きっとこれは試練です。この困難を乗り越えてひとまわり成長しなさいという天啓に違いありません」
「そうですか……それなら仕方ありませんわね。無理をせず気をつけるのですよ。シスターフランチェスカ」
「はい。マザーも無病息災で……」

 アーメンと十字を切ってから電話を切る。そしてニヤリと笑みを浮かべる。
 すぐさま目当ての航空カウンターへ向かい、母国語であるスペイン語で話しかけた。

「すみません。このカード、マイルがけっこう貯まってるはずなんですけど、搭乗出来ますか?」
「かしこまりました。少々お待ちを」

 クレジットカードを受け取って端末に読み取らせ、キーボードを叩いて入力。

「お待たせしました。このマイルでしたら余裕で乗れますよ。搭乗の手配をいたしますか?」
「ええ、お願いします」

 パスポートを手渡す。朱色に国章が刻まれたスペインのものだ。

「お荷物はいかが致しますか?」
「機内へ持ち込みます」

 端末から航空券が発券され、見習いシスターへと手渡す。

「ゲートは28番です。搭乗時間の30分前には来てください」
「どうもありがとう」
「どういたしまして。良い旅を!ブエン ビアへ!

 航空券を手にフランチェスカはキャリーバッグを引いてその場を後にする。

 たまにはバカンスに行ってもバチは当たらないでしょ!

 意気揚々と税関へと向かう見習いシスターが手にしているのはメキシコシティー行きの航空券だ。
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