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第21話 Sorella dell'apprendista in Italia③

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「うああああああ!! お姉様エルマーナあああああ!!」

 部屋に入るなりアンナは泣きわめいてフランチェスカに抱きつく。

「お姉様が宿屋に入るのが見えたから、それで……!」

 ひっくひっくとしゃくりあげる。
 
「わたし、わたしもう、重圧プレッシャーにたえられなくて……」
「うん。アンナ、落ち着いて。その前にあたしがあんたの重みに耐えられなくなりそうだから、どいてくれる?」

 アンナが身を起こして解放されたところでフランチェスカが問う。

「それで、いったい何があったの?」

 だが、アンナはそれに答えるかわりに「うえええ」と大粒の涙をぽろぽろこぼすばかりだ。

「アンナ、泣かないで。泣いてたらわからないでしょ?」
「ごぇんなさい……だってひさしぶりのスペイン語が聴けて……それで嬉しくて……」

 この辺境の村でたったひとり、母国とは異なる異国の地でずっとこらえながら職務に就いていたのだろう。
 心のよりどころを見つけて泣きじゃくる同期の頭をぽんぽんと叩く。

「ね、あたしお腹すいたから下の食堂でなにか食べたい気分なの。話はそこでしましょ?」

 †††

「お待ちどお! カラブリア州名物のパスタ、フィレィヤだよ」

 宿屋の1階はいわゆるオスタリアと呼ばれる食堂兼酒場だ。
 コックがふたりの見習いシスターの食卓に自慢の料理をごとりと置く。
 筒状のパスタにトマトベースのソースがかかっており、唐辛子の香ばしい香りが鼻腔びくうを刺激する。

「いただきまーす!」

 食前の祈りを終えてフランチェスカがぱくりと口に運ぶ。

辛っ!ピカンテ!
「このあたりの料理は唐辛子をふんだんに使うからね。『こんなのカラブリア人にしか食えない』ってジョークがあるくらいさ」
「お姉様、お水を……」

 アンナからコップを受け取って飲むと、ふぅっとひと息。

「それで、悩みは教会が閉鎖されるってことなのよね? 詳しい話を聞かせて。あと、そのお姉様ってのやめて」
「はい……ここには去年赴任したばかりで……最初はスイスのアルザス地方に、でもうまくいかなくて、各地をたらい回しにされて……」
「あんた、神学校では成績ドべのほうだったもんね」
 
 フランチェスカの歯に衣着せぬ物言いにアンナの瞳がじわりとにじむ。

「それでここにやってきて……でも、やっぱりうまくいかなくて……私、なにやってもダメで、それでとうとう教会を閉めることになって……」

 こみ上げる涙を押さえるように顔を手で覆う。

「だから……もうお姉様に頼るしかなくて……」
「甘ったれんじゃないわよ!」
 
 ばんっとテーブルを叩く。
 アンナがびくっと身を震わせる。

「20時間以上もかけてやっとここまで来て、いったいなんであんたの弱音を聞かなきゃいけないワケ!? かりにもあんた、見習いとはいえ、シスターでしょ!」
 
 アンナはただ涙を流すだけだ。

「だって……だって」

 はぁっとフランチェスカが額に手をやる。

「この際だからハッキリ言うけど、あんたシスター向いてないわよ。あたしもう帰るわ。あとは自分でなんとかしなさい」
 
 すっくと立ち上がる。相変わらず泣くアンナを残して食堂を出ようとする。
 
「うぇっ……ひぐっ、あたし……あたしだって、いっしょうけんめ……っ! やってるんだもん……!」

 うえええと食堂にアンナの悲痛な叫びが響く。
 フランチェスカがはぁっと溜息をつく。
 泣きじゃくるアンナの前にどかりと腰を下ろす音がしたので、目を開けるとフランチェスカがいた。

「しょうがないわね! 同期のよしみで手伝ってあげるわよ!」
 
 ひとつ貸しだからね! と付け加える。
 アンナがまた涙ぐませる。今度は歓喜の涙だ。

「お姉様ああああああ!!」
「うっとうしいから離れなさいよ!」
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