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第二章

【閑話】 香乃果の一番

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 あけましておめでとうございます!
 本年もよろしくお願いします(*´ー`*人)

 以下本編です(*^^*)
____________

 

  
 あの日教室に入ると俯いて席に座る彼女…香乃果の姿が目に入り、俺は教室の入口で立ち止まった。

 まさか同じクラスだったなんて…

 俺は驚きと嬉しさでして暫く立ち尽くしていた。

 幼い頃から自分を押し殺して色々諦めて生きてきた俺が、唯一心から欲しいと求めた彼女…香乃果と、運命の悪戯なのかはわからないが奇しくも同じクラスだった事に、歓喜の余り身体が震えたことを今でも忘れられない程強烈に記憶に焼き付いている。

 後から知った事なのだが、うちの学校はクラス替えは頻繁には行われず初等部においては3年に一度のみ、4年生に進級する際に一度あるだけだった。

 理由は、名門一貫校だけあって、生徒に有力者の子弟が多い為なのか、

『人と人との絆を大切にし、確かな人間関係を育む』

 というスローガンの基、幼い頃からの人脈作りに重きを置いている運営方針からとの事だが……

 俺にはそんなスローガンとか運営方針とかそんな事は関係なくて、ただ彼女と一緒に居られるという事と、しかも少なくとも3年間は離れる事なく一緒に居られることが決まったという事実に胸が震えた。
 俺はこの時ばかりはあまりの嬉しさに自室で快哉を叫び、居るかも分からない神に感謝をしたい気分だった。
 毎日朝起きると早く学校に行きたくて、毎晩ベッドに入ってからも早く明日になって欲しいと逸る胸を抑えるのが大変だった。

 香乃果の存在が、俺の退屈で意味のなかった毎日をキラキラと眩しく輝いて見せてくれた。

 見ているだけで、幸せな気分にしてくれる香乃果に俺はどんどん夢中になっていった。

 しかし、小学生になって数日、ここで問題が発生する。

 香乃果は、明るく人当たりが良く面倒見の良い性格だったので、あっという間に友達に囲まれ、いつの間にかクラスの中で中心的な人物になっていたが、しかし、そんな香乃果に対して、人見知りで物静かでそれ程口数の多くない性格だった俺は未だに香乃果と仲良くなれていなかったのだ。

 香乃果の事を妖精だと思っていた以前の俺ならそれでも構わなかったし、遠くから見ているだけで満足できたかもしれないが、今の俺はそんな事では満足出来なくなっていた。

 香乃果と仲良くなりたい、側にいたい。
 だけど、どうしていいかわからない。
 その間にどんどん香乃果の周りは人で溢れていく。


 もしかしたら、もう既に香乃果の1番の席は埋まってしまっているかもしれない…そう思うだけで、募る焦りと不安。いつの間にか俺の中は焦燥感で埋め尽くされていた。

 そして、結論付ける。

 もう見ているだけは嫌だ、もっと積極的に香乃果に関わりたい。
 あわよくば彼女の一番になりたい。

 その為には……彼女と仲良くなる為には、この性格をどうにかするしかない、と。

 見ているだけで満足出来なくなった俺は香乃果に関わろうと思った。
 そして、どうせ関わるなら、彼女の中で一番になりたいと思った。
 でも、このままでは仲良くなる事はおろか、視界に入る事すら無理だろうと早々に悟った俺は、まず人見知りを治すことにした。

 兎に角、片っ端からクラスメイトに話しかけてこれは難なくクリアする。
 そして次に立ち居振る舞いだ。明るく快活な彼女の側にいるには、どうしても根暗で物静かな俺のままでは釣り合わない。
 彼女に釣り合う為に、自分のキャラ付けをどうしたものかと悩み、クラスメイトで明るい子の真似をしてみたり、少年漫画や少女漫画を読んでみたりと試行錯誤をしたけれど、どれもしっくりこなかった。
 こればかりは、ずっとひとりでいた俺にはどうしたらいいかわからず多少…いや、かなり迷走した。
 わからないうちはとりあえず当たり障りなく振舞ってはいたが、自分の身の振る舞い方がわからず日に日に焦燥感が募っていき、どうにもならなくなってきたある日、はたと気が付く。

 年が離れていてあまり関わっていなかったが、いつもにこにこ穏和で人に優しい人好きのする年の離れた兄の周りにはいつも人が居て、沢山の友人に囲まれていたなと。


 そうか、兄のようにすればいいのか。
 兄のように人に優しくにこにことしていれば、香乃果に釣り合うようになれる……

 そう思った俺は兄を手本にする事に決め、その日から兄のように振る舞うようにした。
 すると、吃驚する程スムーズにクラスメイトにも自身の存在を認識してもらう事が出来、心配していた人間関係も円滑にまわるようになった。
 結果、気が付くと香乃果とセットでいつの間にかクラスの中でも中心的な役割を担うような立ち位置になっていた。

 そのお陰で、3年間続けて香乃果と共にクラス委員に推薦されたし、初めは少し距離があった香乃果との距離も、3年間同じ委員を共に務め常に一緒にいられたお陰で、俺と香乃果の間の距離は全く無くなり、クラスメイトの中で一番仲の良い友人の立ち位置に収まる事が出来た、そう思っていた。
 俺の中はこの時香乃果でいっぱいだったし、香乃果の一番は俺で間違いないと信じて疑いもしなかった。

 だけどある時、香乃果の一番は俺ではなかった事に気が付く。
 香乃果の一番は幼馴染だったのだ。


 香乃果には仲の良い幼馴染がふたりいた。

 ひとりは一学年上で完全に身内のような感じだったので、全然気にならなかったのだが、もうひとりは一学年下の奴で、こっちのヤツが問題だった。

 傍から見ても距離が近く、知らない人達から見れば兄弟姉妹と間違えてしまいそうな程とても仲の良い関係なのだが、些か距離感が気になりそれとなく探りを入れた事がある。
その時、香乃果自身も彼らを"身内"と呼んでいた事もあったので、俺は身内としての情だと信じていたのだが、ある時に違和感を感じ、それから注意深く観察をしていると、一見気が付かないが、よくよく見ていると香乃果がソイツに向ける視線が身内のようなそうではないような……兎に角、何が心がザワついたのだ。

 それ注意深く見ていなければわからないので、まだ感情に目覚めて間もなかった幼い俺には初めは全く気が付かなかった。
 だけど、少しずつ俺の中で感情が育っていくに連れて香乃果のソイツを見る目に身内への情以上の何かを感じるようになると、俺の中に言い様のない黒い感情が産まれた。

 それまでの臆病な俺は現状に満足していて、現状を壊したくない余り、それ以上の関係を香乃果に求めていなかった。
 だけど、距離が近くなればなる程、香乃果からその幼馴染の話を聞く事も多くなり、香乃果とその幼馴染の関係を目の当たりにする事が多くなると、その幼馴染に対しての香乃果の態度をみている事が次第に辛く苦しくなって、近くにいるのに心が遠い気がして、俺にもその幼馴染に対して向けている情を向けて欲しいと思うようになっていった。

 そして、その思いが募りきって爆発したのは中等部に上がった時だった。

 一足先に中等部に進学した香乃果が淋しげな登下校している姿に、あの時俺の中に産まれた黒い感情がその幼馴染に対しての嫉妬である事に気が付いた。
 それと同時に、香乃果へ抱いていた感情が恋心である事にも気が付くと、そこからはもう気持ちを止める事は出来なかった。

 中等部ではクラスが離れてしまったから、せめて部活や委員会は一緒になりたくて香乃果に合わせたし、下校時は駅まで一緒に帰るようにした。
 すると、最初こそ淋しそうにしていた香乃果も段々と俺に笑顔を見せてくれるようになり、俺はますます香乃果の事が好きになっていた。

 少しでも俺に気持ちを向けて欲しくて慣れない駆け引きもしてみたが全く伝わる事はなかったし、勢い余って1年の修了式後に告白もしたが見事に振られた。
 振られはしたが、そんな事で香乃果の事を諦められるはずもなく、それからも良い友人として香乃果の側に居続けられるように、なるべく男を意識させないように、だけど、俺の存在が香乃果の中で大きくなるように絶妙な匙加減で彼女の隣に居続けると決めた。

 香乃果を好きになればなるほど、香乃果から向けられる感情は友情でしかない事を思い知らされて酷く俺の心を苛んだが、それでも傍にいたかった。

 そうして2年に上がって直ぐ、香乃果とあの幼馴染が許嫁になった事を知らされ、俺の目の前は真っ暗になった。

 長年の想いが叶ったと嬉しそうに破顔する香乃果を見て、俺は自分の気持ちを押し殺して、香乃果の恋の成就を笑顔で祝福した。
 俺の心は砕け散ったけれど、香乃果が幸せになるなら、そう思った。

 俺の祝福の言葉に、香乃果ははにかみながら「ありがとう」と言った。
 これで俺は完全に香乃果を失ったと思い、絶望の淵に落ちていった。

 だけど……

 だからといって、香乃果を諦めるなんて微塵も考えられなかったし、傍から離れる事も考えられなかった俺はじくじくと痛む胸を抱えながらも、香乃果を想い続けると心に決めた。

 いつか……
 いつの日か、俺を選んでくれる事を願いながら……
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