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第二章

第22話 猫実の変化 ※

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 衝撃の入学式が終わって帰宅すると、俺は自室で大量の教科書の確認と明日からの持ち物や当面の予定等を確認する。

 当然の事ながら進学したばかりで暫くは授業がないようなので、色々と足りない物は学校の帰りにでも、乗り換えのターミナル駅の大型商業施設のお気に入りの雑貨屋に買いに行こう。

 そんな事を考えながら配られた大量のプリントを仕分けしていると、その中から『年間行事予定表』なるものを発見した。
 とりあえずどんなものかと目を通してみると、行事毎に1年生は薄緑、2年生は黄色、3年生は水色、合同行事はピンクで色分けされてたのだが……

 中等部時代とは打って変わって、年間予定行事の多いこと……
 特に春、なんか薄緑多くないか?
 青春!アオハル!そんな事やってる暇ありますか?と疑問を投げかけたい程の行事の数に俺は年間予定表をそっと閉じた。


 それからは年間予定通りで、やれオリエンテーションだのやれ親睦の為とかいう訳のわからん保養所での宿泊研修だのと、高等部に進学してから息つく間もなく怒涛のような春のイベントをこなした。

 そして、気が付くと夏休みがすぐ目前に迫っていた。


 高校生活を送る上で、夏休みといえば数あるカップルイベントの中でも学校の年間行事並に大切で最大のイベントである。

 まぁ当然俺は毎日部活漬けなのであまり縁がないのだが……

 その最大のイベント前に……

 何故か、梶原、改、猫実が……モテている。
 中学時代全然目立ってなかった上に、あの人嫌いでひとりを好んでいる猫実が、本当に吃驚する程モテているのだ。

 何故だ?!一体何が起こっている?!

 夏休みに入る直前……正確にはあの宿泊研修直後から、猫実が女子生徒に囲まれている姿を度々目撃していたのだが、気が付くと大体その中のひとりと消えていて、その後気怠そうな空気を纏って教室に戻ってくる時は大概着衣が少々乱れていたりした。

 猫実も何も言わないので俺も敢えて踏み込んでは行かないが……

 アレはどう見ても事後だろう?!?!

 かといって特定の女がいるような感じでもなく、放課後は相変わらず俺と同じで毎日部活に参加している。

 確かに猫実は目を引く程のイケメンではあるが、クラスにいる華やかなグループの奴らのような派手さはなく、性格は穏やかで寡黙な方。そして、成績は常に学年トップ。

 完璧を人にすると、こういうやつになるのだろう、というテンプレートのようなやつだ。

 中学までは殆ど笑顔を見せず人を寄せ付けないオーラを放っていた猫実だが、何故か進学してからは別人のように社交的になった。
 その甲斐(?)あってか、今は沢山のクラスメイトに囲まれて楽しそうにしている。
 もちろん俺もその中のひとりなのだが、正直心中は穏やかではない。

 今まで梶原だった頃には見向きもしなかった奴らが、猫実になった途端掌を返したかのように擦り寄っている姿にもイラッとしたが、一番は猫実に対してくそムカついている。

 中学2年生の時に知り合ってから、今まで俺は猫実の事を友達だと思っていた。
 だから当然猫実だって俺の事を友達だと思ってくれている、そう信じていたのだが、どうやらそれは俺の一方的な思いだったような気がしてならない。


 猫実はよく笑いとても社交的になった。
 いや、社交的になった、が正しい。

 これは長い付き合いの俺だからわかる事でなのだが、猫実はいつでも穏やかに笑っているがその貼り付けたような笑顔を見る限り、決して本心から笑っている訳ではない。

 というのも、俺が思うに猫実は、何処か人と一線を引いて接している嫌いがあり、絶対に他人に踏み込ませない"絶対領域"を持っている。
 その"絶対領域"は、長い付き合いの俺でも何かはわからないし、触れさせてもらえていないが、少なくとも猫実にとって俺は中等部時代からの唯一の友人と言っていい程の関係だった。

 だから、性格悪いかもしれないが、他のヤツらが猫実から貼り付けた様な笑顔を向けられているのを見て、多少の溜飲が下がっていた事は否めない。

 誰にも何者にも近づけさせない、その猫実の貼り付けた様な笑顔は猫実の"拒絶"を表しているのだから、と。

 だけど、ある時、気が付いてしまった。

 俺に向けられていた笑顔もその貼り付けた様な笑顔だったと言う事に……

 その瞬間、俺の心にはブリザードが吹き荒れた。

 2年も共に過ごして、お互い唯一の存在になれたと思っていたのに、俺はまだ猫実の中では取るに足らない存在なのだと言外に示された様で悔しくて堪らなかった。

 とはいえ、この取り巻きの奴らと違って俺と猫実は2年という長い付き合いがあり、スタートから違う訳で、取り巻き達に囲まれながらも、猫実が多少だが俺を気にかけてくれているのを感じていたから、今はそんなに気にする必要はないのかもしれないけれど……

 だけど、やはり面白くない。
 ガキかもしれないが、猫実の一番じゃない事が俺の心に影を落としていた。

 そうこうしているうちにあっという間に夏休みになった。



 ◇◇◇



 部活に明け暮れた高1の夏休みは流れるように過ぎて行き、気が付くと2学期の中間試験も終わっていた。
 そうすると、もうすぐ文化祭があるのだが、文化祭といえば、こちらもカップルイベントも盛りだくさんの為なのか、夏休み前同様に校内は色めき立っていた。

 そんなある日の体育の授業の後。
 体育の授業は隣りのクラスと合同でやるのだが、たまたま俺が当番で体育用具を片付ける為体育倉庫に訪れると、中から何やら声がした。

 気になった俺は悪いと思いつつ、も中をそうっと覗いたのが運の尽きで……

 この時ちょっとした好奇心に唆されて、考えなしに興味本位で中を覗いた事を今は酷く後悔している。

 目の前で猫実が告られている場面に出くわしてしまったから……


「猫実くん、私と……つ、付き合ってください。」


 後姿で名前はわからないけど、恐らく相手は隣のクラスの女子生徒…だったと思う。
 俺は、やっちまったな…と踵を返してその場を後にする事も考えたのだが、情けない事に動揺して足が動かずその場に立ち尽くしていると、暫しの沈黙の後、猫実が口を開いた。


「んー、付き合うのは別にいいけど……俺、君の事好きにならないと思うよ?」

「…っ!それでも、今後可能性があるなら、考えて欲しい……」


 例の貼り付けたような綺麗な笑顔を向けている猫実は、目の前で必死に食い下がる女子生徒にすっと目を細めると、片口角を上げて言った。


「えーと、何ちゃんだっけ?とりあえず体の相性確かめさせてくれる?」

「え……?」


 戸惑う女子生徒の首に腕を絡めて、猫実は噛み付く様にキスをした。

 体育倉庫内にちゅっちゅっと言うリップ音とぴちゃぴちゃという水音が響いている。


「……っはっ、んんっ…」

「んっ…は、いいね。合格。ねぇ、このままシよっか?」


 そう言うと猫実はマットの上に女子生徒を押し倒し首筋に顔を埋めると、ジャージと下着を一気に捲りあげ胸を揉みしだいた。


「あっ、んっ……」


 おぉぃ!今からおっ始めるのかよ!!!
 ていうか、コレ片付けないと昼メシ食えなくなるし、次の授業に遅れるっつーの!!!

 それに……

 何が悲しくて友人の情事を覗かなきゃいけないのか……

 そんなこちらの事情など露程も知らない猫実は、目の前でちゅぱちゅぱ女子生徒のおっぱいに吸い付いついている。
 最初こそ恥ずかしさと気まずさが先行していたが、何だかだんだんムカムカしてきた。
 一向に終わる気配もなければ、あろう事か猫実は、女子生徒のズボンと下着をずり下げ始めた。
 どうやら最後まで致すつもりらしい。

 流石にそこまで見せつけられるのは勘弁してほしいので、俺は思いっきり体育倉庫の扉を蹴っ飛ばしてやった。

 ガァンッ!


「きゃっ!!!」

「あー、残念。時間切れみたい。続きはまた今度ね。」


 猫実は吸い付いていた胸からちゅぱっと口を離してペロリと唇を舐めそう言うと、マットから女子生徒を立たせた。着衣と髪の乱れをサッと直してあげてトンと背中を押して退出を促すと、女子生徒は真っ赤になりながら俺の横を走り去っていった。
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