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トラヴェエ王太子の責務と恋
□名前のない感情
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吃驚して身を捩るが強い力で拘束されて身体が動かない。
何が起こったのか頭が追いつかず真っ白になった。
暫くして少し落ち着いてくると、耳元で自分のものではない心臓の音が聞こえ、ふわっと嗅ぎなれたコロンが香る。
そこで、漸く私は自分が今どのような状況なのか理解すると、ドクン!と大きく心臓が跳ね上がり、激しい動悸に襲われた。
嗅ぎなれたコロンの香り
逞しい腕
すっぽり収まる広い胸
熱い吐息
そして感じる安心感
全てが繋がるのは何なのか、それが誰なのか。
そんなの1人しかいないし、他の誰でもない。
ヒュー兄様…ヒューゴ・リュカ・リトヴィエ王太子殿下、その人。
そう、私がいるのは紛れもなく、ヒュー兄様の腕の中なのだ。
私は今、ヒュー兄様に抱きしめられている。
はっきりと自覚すると、不思議なことに、何故という疑問よりも嬉しいという感情の方が勝っていることに気が付いた。
ヒュー兄様は幼馴染で、兄のような存在で、大切な人。
幼い頃から一緒にいるのが当たり前で、それは淑女と言われるようになってからも、ずっと変わらないと思っていた。
それなのに……
この胸の高鳴りはなんだろう…
ヒュー兄様に想い人がると聞いた時に感じた胸の痛みはなんだろう…
そして、今のこの幸福感はなんだろう…
名前のない感情に思考が翻弄される。だけど、今はただ、この腕の中にいたい。
そう思うと、私は自然とヒュー兄様のがっしりとした大きな背中へ腕を回していた。密着が深まりヒュー兄様に一層きつく抱きしめられると、ドクドクと早鐘を打つ心臓に息が止まりそうになる。
それでも尚まだ足りないと言うように、ヒュー兄様はより深く深く身体を密着させてきた。やがて、どちらの心臓の音か分からなく程一部の隙間もないくらいに密着すると、まるで自分とヒュー兄様がひとつに溶け合っていくような錯覚に陥り、圧倒的な幸福感に包まれていった。
思わず深く息を吐くと抱きしめるヒュー兄様の腕が少し緩んだ。
少し動けるようになった私は顔の角度を変え、ヒュー兄様の胸に頬擦りをし耳を押し当てる。
トクントクン…とヒュー兄様の音が聞こえる。それがとても心地がよい。
ヒュー兄様が私の頭に顔を埋め、熱い吐息を吐く。
いつも付けているコロンとヒュー兄様自身の香りが交じりあった匂いに、深い安心感を覚え涙が出そうになる。
ヒュー兄様が私の長い髪を梳く手が気持ちがいい。
頬や耳に触れる手が気持ちがいい。
もっとヒュー兄様に触れられたい。
意識するだけでヒュー兄様に触れられた箇所が熱を帯び、今まで感じたことのない快感を感じ、頭がぼーっとして気がつけば無意識に甘い声を上げていた。
私のその変化を、声を、ヒュー兄様は見逃さなかった。
「あっ…」
「…っ…アイリーン…」
ヒュー兄様から熱い吐息が漏れる。背筋がビクッと震えた。
ヒュー兄様の指は髪から耳へ頬を辿り、そして、首筋へと移動していく。
その動きに私の身体は素直に反応する。
気持ちいい…気持ちいい…
「…っうんっ…兄様…」
もっと…
もっと触って…私に触れて…
私の思考はトロトロに蕩けきっていて、もはやヒュー兄様の指の行方と快感を追うことしか出来なくなっていた。
ヒュー兄様の指が首筋から頬、顎へと移動し、そして、ゆっくりと掬いあげられた。
俯き加減のヒュー兄様のその顔にはいつもの優しさではなく、もっと激しい何か……情欲が浮かんでいる。
私は、身体の奥がズクンと疼くのを感じた。
先程まで閉じていたヒュー兄様がゆっくりと瞳開くと、銀色の瞳は欲望に濡れ、赤く色づき私の瞳を捉え、真っ直ぐに見つめていた。
ヒュー兄様……瞳が赤い……?
気が昂ると瞳の色が赤くなるとは噂では聞いた事があったが、実際に変化した瞳を見るのは初めてだった。
幻想的で、美しく、そして恐ろしい程に蠱惑的で…私はその赤い瞳に一瞬で魅了され身震いした。
ヒュー兄様が私に興奮している、その事実だけで頭の芯が蕩けてしまいそうになる。
そしてどちらからともなく、吸い寄せられるように頬を寄せると、その美しい赤い瞳がだんだんと近づいてきて、再度瞳を合わせると、完全にヒュー兄様の瞳は捕食者の目をしていた。
決して逃がさない、と赤く光る瞳が訴えているようで、ゾクリと背筋が粟だった。
この深紅の色は、恐らくこれは戦場で見せる猛って荒ぶる『雷神』の目。
この神秘的で圧倒的な神々しさに言いようのない畏怖の念に襲われ、思わず身が竦むとヒュー兄様は一瞬はっとした表情を浮かべ、押し殺すような声で、ごめん、と一言いい身を離した。
途端に、これまでの自分の痴態を思い出し、顔が熱くなる。
は、恥ずかしい…
自分はこんなに淫らな人間だったのか、と羞恥で赤くなり俯いていると、先程とは打って変わった優しい手つきでヒュー兄様が背中を撫でてくれた。
落ち着かせるように、何度も何度も。
ゆっくり、じっくり、私が落ち着くのを待ってくれた。
その銀色の瞳はいつもと同じで優しかった。
何が起こったのか頭が追いつかず真っ白になった。
暫くして少し落ち着いてくると、耳元で自分のものではない心臓の音が聞こえ、ふわっと嗅ぎなれたコロンが香る。
そこで、漸く私は自分が今どのような状況なのか理解すると、ドクン!と大きく心臓が跳ね上がり、激しい動悸に襲われた。
嗅ぎなれたコロンの香り
逞しい腕
すっぽり収まる広い胸
熱い吐息
そして感じる安心感
全てが繋がるのは何なのか、それが誰なのか。
そんなの1人しかいないし、他の誰でもない。
ヒュー兄様…ヒューゴ・リュカ・リトヴィエ王太子殿下、その人。
そう、私がいるのは紛れもなく、ヒュー兄様の腕の中なのだ。
私は今、ヒュー兄様に抱きしめられている。
はっきりと自覚すると、不思議なことに、何故という疑問よりも嬉しいという感情の方が勝っていることに気が付いた。
ヒュー兄様は幼馴染で、兄のような存在で、大切な人。
幼い頃から一緒にいるのが当たり前で、それは淑女と言われるようになってからも、ずっと変わらないと思っていた。
それなのに……
この胸の高鳴りはなんだろう…
ヒュー兄様に想い人がると聞いた時に感じた胸の痛みはなんだろう…
そして、今のこの幸福感はなんだろう…
名前のない感情に思考が翻弄される。だけど、今はただ、この腕の中にいたい。
そう思うと、私は自然とヒュー兄様のがっしりとした大きな背中へ腕を回していた。密着が深まりヒュー兄様に一層きつく抱きしめられると、ドクドクと早鐘を打つ心臓に息が止まりそうになる。
それでも尚まだ足りないと言うように、ヒュー兄様はより深く深く身体を密着させてきた。やがて、どちらの心臓の音か分からなく程一部の隙間もないくらいに密着すると、まるで自分とヒュー兄様がひとつに溶け合っていくような錯覚に陥り、圧倒的な幸福感に包まれていった。
思わず深く息を吐くと抱きしめるヒュー兄様の腕が少し緩んだ。
少し動けるようになった私は顔の角度を変え、ヒュー兄様の胸に頬擦りをし耳を押し当てる。
トクントクン…とヒュー兄様の音が聞こえる。それがとても心地がよい。
ヒュー兄様が私の頭に顔を埋め、熱い吐息を吐く。
いつも付けているコロンとヒュー兄様自身の香りが交じりあった匂いに、深い安心感を覚え涙が出そうになる。
ヒュー兄様が私の長い髪を梳く手が気持ちがいい。
頬や耳に触れる手が気持ちがいい。
もっとヒュー兄様に触れられたい。
意識するだけでヒュー兄様に触れられた箇所が熱を帯び、今まで感じたことのない快感を感じ、頭がぼーっとして気がつけば無意識に甘い声を上げていた。
私のその変化を、声を、ヒュー兄様は見逃さなかった。
「あっ…」
「…っ…アイリーン…」
ヒュー兄様から熱い吐息が漏れる。背筋がビクッと震えた。
ヒュー兄様の指は髪から耳へ頬を辿り、そして、首筋へと移動していく。
その動きに私の身体は素直に反応する。
気持ちいい…気持ちいい…
「…っうんっ…兄様…」
もっと…
もっと触って…私に触れて…
私の思考はトロトロに蕩けきっていて、もはやヒュー兄様の指の行方と快感を追うことしか出来なくなっていた。
ヒュー兄様の指が首筋から頬、顎へと移動し、そして、ゆっくりと掬いあげられた。
俯き加減のヒュー兄様のその顔にはいつもの優しさではなく、もっと激しい何か……情欲が浮かんでいる。
私は、身体の奥がズクンと疼くのを感じた。
先程まで閉じていたヒュー兄様がゆっくりと瞳開くと、銀色の瞳は欲望に濡れ、赤く色づき私の瞳を捉え、真っ直ぐに見つめていた。
ヒュー兄様……瞳が赤い……?
気が昂ると瞳の色が赤くなるとは噂では聞いた事があったが、実際に変化した瞳を見るのは初めてだった。
幻想的で、美しく、そして恐ろしい程に蠱惑的で…私はその赤い瞳に一瞬で魅了され身震いした。
ヒュー兄様が私に興奮している、その事実だけで頭の芯が蕩けてしまいそうになる。
そしてどちらからともなく、吸い寄せられるように頬を寄せると、その美しい赤い瞳がだんだんと近づいてきて、再度瞳を合わせると、完全にヒュー兄様の瞳は捕食者の目をしていた。
決して逃がさない、と赤く光る瞳が訴えているようで、ゾクリと背筋が粟だった。
この深紅の色は、恐らくこれは戦場で見せる猛って荒ぶる『雷神』の目。
この神秘的で圧倒的な神々しさに言いようのない畏怖の念に襲われ、思わず身が竦むとヒュー兄様は一瞬はっとした表情を浮かべ、押し殺すような声で、ごめん、と一言いい身を離した。
途端に、これまでの自分の痴態を思い出し、顔が熱くなる。
は、恥ずかしい…
自分はこんなに淫らな人間だったのか、と羞恥で赤くなり俯いていると、先程とは打って変わった優しい手つきでヒュー兄様が背中を撫でてくれた。
落ち着かせるように、何度も何度も。
ゆっくり、じっくり、私が落ち着くのを待ってくれた。
その銀色の瞳はいつもと同じで優しかった。
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