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番外編
初めての大型連休の過ごし方 連休10日目-旅行の終わり-
しおりを挟む初日、濃厚なセックスをしたあの後、結局、あのまま気を失ってしまったのだが、目が覚めた時は弦の腕の中だった。
てっきり繋がったままかと思った身体は、綺麗に清められていて、浴衣もきちんと着せられていた。きっと気を失った後に弦が整えてくれたのだろう。
そんな弦もきちんと浴衣を着て、私を抱きしめたままぐっすり夢の中だ。
朝早くから長距離の運転にショッピングで歩き回り、その後に長時間に渡る濃厚セックスをしたのだから、いくら体力おばけの弦でも流石に疲れたのだろう。顔にかかった前髪をあげると、弦の綺麗な顔に薄らと疲労の色が浮かんでいた。
長時間のセックスは置いておいて…私の為に旅行に連れてきてくれてたのだ。事前にリサーチしたり宿をとったり、沢山私の為に尽くしてくれた優しい弦。そんな弦の事を思うと、心の底から愛おしさが溢れてきて思わず言葉が零れた。
「弦、お疲れ様。大好き。今日はありがとう。」
眠っている弦の頬を愛しさを込めてするりと撫でると、ゆっくりと弦が瞼を開いた。
「…ん、名月……起きたの?大丈夫?」
弦は額にキスを落としながら、私の身体を気遣うように抱き寄せると、眠そうに欠伸をした。
いつも完璧でスマートな弦の気の抜けたその様子に、胸がきゅんとする。
「うん、ちょっとお腹が張ってる感じだけど…それより身体に力が入らないよ。」
辛うじて腕は上がるのだが身体中がぷるぷるして力が入らない。苦笑いしながら言うと、弦はにこにこしながら全然申し訳なくなさそうに言った。
「そか…あまりにも名月が可愛すぎて、暴走しちゃった。ごめんね。」
「暴走って……これじゃあ起き上がれないからご飯食べられないじゃん。」
全く反省をした様子のない謝罪に少し呆れ気味に文句を言うと、弦は私を見つめ優しく微笑みながら頭を撫でた。
「ふふふ、それは大丈夫だよ。」
そう言うと、弦は食事の手配のためフロントに内線電話をかけ始めた。
しかし……一体何が大丈夫なんだ?全然大丈夫じゃない。
ご飯を食べるのには座らないといけない。
でも、座るのは腰とお腹が少しキツい……
私が訝しげな視線を弦に投げかけると、受話器を置いた弦がそれに気付き、にっこりと綺麗な笑顔で宣った。
「ん?あ、あぁ、ちゃんと食べさせてあげるから。」
「へ?食べ…させるって……」
「こういうことだよ。」
意味のわからない発言に目をぱちくりさせていると、次の瞬間には横抱きに抱き抱えられてベッドからリビングへ移動していた。
そして、仲居さんの生暖かい視線の中、膝の上に乗せられて、弦に餌付けをされ……
もちろん、次の日も一日餌付け行為は続いて、その度に羞恥で居た堪れなくなったのは言うまでもなかった。
◇◇◇
日帰りデートだと思っていたお出かけが、思いがけず2泊3日のお泊まりデートになり、あれよあれよという間に旅館の離れでまったり?な2日間を過ごした3日目の朝。
いつも通り弦の逞しい腕の中で目が覚めると、珍しく頭の上から少し掠れたバリトンボイスが聞こえた。
「おはよ。」
「うん、おはよ。」
「はぁぁぁ…幸せだなぁ。」
幸せそうに深く息を吐く弦にギュッと抱きしめられ、擽ったさに思わず笑いが零れる。
「ふふふ、どしたの?」
「今日は俺の方が早く起きたから、名月の可愛い寝顔をたっぷり見られて幸せだなって。」
そう言うと弦はふわりと微笑み、さらりと私の髪を掬った。撫でる手の心地良さに目を閉じると優しいキスが降ってくる。
「弦、私も幸せだよ。」
旅館の美味しい朝ごはんを食べた後、ふたりで温泉に入ってお決まりのイチャイチャからのセックス2ラウンドが終わり、ベッドの中での甘い甘いストロベリータイムを過ごしていると、あっという間にチェクアウトの時間が近付いてきた。
弦の腕の中で疲労困憊でぐったりしている私に対して、非常にご機嫌な弦は、身動きの取れない私の身体を起こしてくれたり服を着せてくれたりと、それはもう甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
「いい宿だったね、名月。また来ようね。」
せっせと私の髪を結いながら、にこにこ笑いながら言う弦に、私はジト目で恨みがましい視線を投げる。
「いいお宿だったけど…だけど……お部屋から全然でてないじゃん。一歩も。お庭も館内も見て回りたかったのに……」
ブツブツと文句を言う私の視線を、ご機嫌な弦は全く意に介すことなく綺麗にスルーし、そして、爽やかな笑顔でにっこりと微笑んだ。
「ん?最初にゆっくりまったりしよっていったでしょ。沢山温泉も入れたし、たまには違う環境で…いつもより濃厚で濃密な時間がとれたし。リフレッシュ出来たよね。」
濃厚で濃密……
うん、確かにとても凄かった……
思い出して白目になった。
仔細まで思い出してぼっと赤面すると、弦は不思議そうに私を覗き込んだ。
「どした?名月、顔が真っ赤っかだよ?」
「いや…色々思い出して……はぁ…もう、恥ずかしすぎてここには来れないよぉ……」
「そう?俺はとても至福の時を過ごせていい思い出になったけどなぁ。」
涼しい顔をして宣う弦に、私が乾いた笑いを浮かべると、弦はふと何かを思い出したような表情をして、ポケットからスマートフォンを取り出し言った。
「あ、そうだ。名月にお願いがあるんだけど。」
「なになに?どうしたの?」
「うん、あのね。写真撮りたいんだけど。」
「写真?何の?」
「ふたりで写ってる写真。まだふたりで撮ったことないよね?」
そう言えば、このデートで弦は私のワンショット写真はパシャパシャ撮っていたが、確かに一緒のツーショット写真は撮っていなかったな、と思い至った。
うんうんと頷いていると、弦がスマートフォンのカメラをこちらに向けてパシャっとシャッターを切る。
「ひゃっ!やだ、いきなり撮らないでよ。」
「ふふ、きょとんとした顔も可愛いね。ねぇ、折角だから、浴衣着てる今、ここで撮りたいな。」
そう言って弦は私の横に腰を降ろすと、腰に腕を回してぐいと抱きせると、ちゅっと頬にキスをした。
「あ、だから髪を結ってくれたの?」
「そ。ねぇ、ダメ?」
なるほど、浴衣のままなのに髪を結い上げてくれたのはこの為だったのかと得心する。
「ううん、いいよ。ていうか私も欲しい。」
「よかった。じゃあ、撮るからくっついて?」
そう言うと弦は私の肩を抱き頬を寄せて、スマートフォンのインカメラの画面を向けた。画面に写る自分の顔を見て、そこではたと気が付く。
「あ、待って待って!やだ、私、すっぴん!」
「あ、気が付いちゃった?全然そのままで可愛いから大丈夫だよ。」
にっこりしながら弦はそう言うが、すっぴん写真など残せる訳がない。
私は顔を腕で隠して身体を捩って断固拒否をする。
「や、流石に恥ずかしい……から。軽くメイクするから少し待って。」
「んー、待てない。この可愛いらしい名月の写真が欲しい。だから、ね?このまま撮るよ。はい、にっこり笑って?」
しかし、弦もこちらの拒否を断固拒否して、いつものように強引に事を進めるので、結局は流されてそのまますっぴんで写真に写る羽目になった。
「んも、後でまたちゃんとしたふたりの写真も撮ろうね。」
「もちろん。何枚でも。」
少し上目遣いで拗ねたように言うと、弦は幸せそうに笑って、頷いた。
こうして、弦の車で帰路に着き、ふたりの初めての大型連休は終わったのだが、もちろん自宅に着いてものんびり…とはいかず、結局いつもの週末と同じく次の日の昼過ぎまで弦に抱かれる事になり、週明けヘロヘロの状態で出勤して山田さんに散々揶揄われたのは言うまでもなかった。
ちなみに、あの時旅館で撮ったすっぴん写真をいつの間にか弦がスマートフォンのロック画面にしていた事を、この時の私は知る由もない。
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