【R18】黒猫は月を愛でる

夢乃 空大

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番外編

初めての大型連休の過ごし方 連休8日目-日帰りデートのはずが…-

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 あれから数時間後……



「も~!弦!買い過ぎだってば!!!」

「えぇ、全然まだまだ買い足りないよ。」


 両手いっぱいに色んなブランドのショッパーを抱える弦が不満そうに言う。

 いやいや、買って貰う私が不満そうに言うのはわかるけど、お金出してる弦が不満そうなのはちょっとおかしいでしょう?
 口を尖らせて不満を顕にする弦を上目遣いで睨めつけると、可愛い、といい、弦はふにゃりと顔を綻ばせた。

 いやいや、そんな顔してもダメです。


「買い過ぎ!そんなにバック要らないし、財布も靴も……ていうか、服だってもうそんなにクローゼット入らないでしょ!」


 不満そうな弦に納得いかなくて少々強めの口調でピシャリと咎めると、弦は少し何かを考えてすぐさまにっこりして驚くべき発言をした。


「あぁ、そっか。そうだよね。えぇと、名月、今クローゼットには普段使いの物しか置いてないよ。だからこれは一旦衣装部屋に収納するから安心して大丈夫。」


 そかそか、それなら安心……って、へ?

 何?衣装部屋だと?!なんだそれ?ていうか、そんなの聞いてない……

 聞きなれない単語に白目になりながらも、疑問に思った衣装部屋についてなんとか辛うじて聞き返す。


「へ?衣装部屋……?」

「そ。ユーティリティルームの隣の扉。」

「え?あそこの扉?納戸じゃないの?」

「納戸はまた別にあるよ。名月と暮らすまでは使ってなかったんだけど、さすがに寝室のクローゼットだけじゃ全然収納が足りなくなっちゃったから今は少しずつ使ってるよ。」


 弦と結ばれて初めて一緒に迎えた朝、バスルームと言うか、バス、洗面、ランドリー、洗濯乾燥室等が集まったユーティリティルームが寝室と繋がっている事に吃驚したのだが、さらに衣装部屋にまでも繋がっているとは…

 動線等考えられていて非常に使い勝手のいい設計になっているなぁと感心していると、はたと先程の弦の発言が引っかかった。
 そう言えば、クローゼットにかかっていた服は全て春物だった気がする。もしかして他の季節の物とかもあったりするのかも…まさかね。
 ちらりと横をみると弦はいたくご機嫌な様子だ。
 私はそんなご機嫌な弦に恐る恐る今思ったを訊ねてみた。


「収納が足りないって……凄い数の洋服が掛かってたと思うけど……まさか……」

「うん、まだまだ沢山あるよ。帰ったら見せてあげるね。今クローゼットは春物がかかってるからもうすぐ夏物に入れ替えないといけないし。あ、もちろん、秋冬物も用意してあるから安心してね。」


 や、やはりか……!

 にっこり微笑みながら、信じられない事を言う弦に頭がクラクラしてきた。

 そして、この事だけではなく、もしかしたらまだ私の知らない事があるんじゃないかと考えると目眩が止まらない。

 弦のマンションに一緒に住み始めて2ヶ月。
 仕事から帰ってきたらリビングでご飯食べてお風呂に入って、眠りに落ちるまで身体を重ねるというバタバタと慌ただしい生活を送っていたので、まだ全ての部屋を見きれていない。
 現に、衣装部屋なるものがあることすら把握してなかった訳で……
 というか……掃除は平日仕事に行っている間に家事代行サービスが入っているし、ほぼほぼ寝室でしか過ごしていないので間取りを把握してないのは当たり前だな、という事にふと気が付く。

 と言うことでもうここまで聞いたのだから、この際ついでちゃんと聞いてみる事にした。


「ちなみに…私まだちゃんと間取り把握してなかったけど……一体あの家何部屋あるの?」

「んー、寝室と書斎と、使ったことないゲストルームとあと2部屋。乾燥室とパントリーはあるけど部屋じゃないか。それから衣装部屋だから…5SLDKかな?」


 5SLDK!?!?

 寝室も相当広いのにそんな部屋があと4つもあるのかと、卒倒しそうになる。


「えと…寝室と書斎は使ってるとして……使ってない部屋が2部屋もあるの……?無、無駄だ……」

「んー、たまたま予算と立地の条件に合致したからここに決めたんだけど、確かに無駄かもね。まぁ、でもこれから使うでしょ?」

「これから…?」


 ゲストルームって言うくらいだから、友達とか同僚とか泊まりに来たりするのかな?
 会社の人呼んでホームパーティとかする?

 いや、弦に限ってそう言う事はしなさそう……

 私は事情が飲み込めず訝しげな視線を投げると、弦が零れそうな笑顔で私の顔を覗き込んで嬉しそうに洩らした。


「そ。子供できたら……ね?」

「こ、こ、子供…っ!!!!」


 なんと、友人ではなく、子供とは……
 弦の唐突の爆弾発言に、ボンっと音がして頭が沸騰したように蒸気する。


「ま、まだ子供は早く……ない?」


 子供って…付き合ってまだ2ヶ月…流石に気が早いのではないか?
 真っ赤になってあわあわしている私を尻目に、弦は涼しい顔でしれっと宣う。


「そう?俺は名月との子供ならいつ出来てもいいと思ってるよ?」

「え……そうなの?」


 弦の爆弾発言で若干パニックになっている私は思わず横でにこにこしている弦を二度見する。
 弦はそんな私を見てニッコリ笑い、更なる追い打ちをかけるかのようにさらりと聞き捨てならない発言をした。


「うん、なんなら早く欲しいくらい。だって、そうしたら名月は俺から離れられなくなるでしょ?」


 恍とした表情でそら恐ろしい発言をする弦に、今度はサーッと血の気が引いていく。

 まさか、そんな事はないと思うが…この勢いだと、もしかして子供部屋もすでに色々と準備してるのではないと言う考えが頭を過ぎったが、それはこの際見なかった事にしよう、そうしよう。
 弦の発言に青くなっている私を置き去りにして、弦はひとりで想像を膨らませて熱の篭った表情を浮かべている。


「可愛いだろうなぁ…名月と俺の子供。何人いてもいいよね。あ、でも、そうすると、名月が子供にかかりきりになっちゃうか……それはそれで嫉妬しちゃいそうだな。いっそ専属のナニーを雇うか……」


 ふぇっ?!ナニーですと?!欧米か?!

 それにしても……


「子供に嫉妬って……」


 半ば呆れ気味に言うと、弦は真面目な顔で当たり前のように言った。


「嫉妬するでしょ?名月は俺の物なのに子供が独占するなんて……んー、考えただけでも耐えられないから、やっぱり子供はもう少し後がいいかな。今はまだふたりっきりを堪能したいな。ね?名月。」

「あ……う、うん。」


 弦の勢いに抗えず、とりあえず頷くしかないので頷いておくと、弦は機嫌良さそうに私の腰に手を回して抱き寄せた。


「さぁ、車に戻ろっか。沢山歩いて疲れただろうから、温泉に寄っていこうね。」

「温泉!?」

「そ。ちょっと行ったところに温泉あるでしょ?実は宿とってあるんだ。だから今日はお泊まりしよ。」

「えぇ、日帰りじゃなくて?宿泊?ゴールデンウィーク真っ最中なのによくとれたね。」

「うん……まぁ色々とあるんだよ。」

「へぇ。それで、どんなお宿なの?ホテル?旅館?」

「ふふふ、それは着いてからのお楽しみだよ。」


 なんと、日帰りの小旅行かと思ったら思いがけずまさかのお泊まり旅行になっているとは……

 昨日突然お出かけしたいと私が言い出してからの計画なのに、一体いつ宿の手配をしたんだろうか。全くもって謎である。そして、この行動力には正直脱帽だ。

 誠治と付き合っている時、旅行に行こうという話になった事はあるが、結局宿も決まらず休みも合わずで頓挫してしまい、それ以来旅行の話は話題にも上がる事はなくなった。
 なので、当然、誠治と旅行など行った事はない。

 それどころか、家族が亡くなってからは修学旅行や社員旅行以外の旅行なんて一度も行く機会がなかった。
 家族旅行だってもうよく覚えていないのだから、今回の旅行がプライベートでは初めてみたいなものだ。
 しかも、それが恋人である弦と一緒だなんて…こんなのどうしたって心は踊ってしまう。


「……なんだか夢みたい…」


 夢見心地で思わず漏れた心の声に弦が破顔する。


「夢じゃないよ。可愛い俺のお姫様、これからはいっぱい色んな所に行こうね。」


 ふと見上げると、いつの間にか弦に正面から両腕を回されて抱き込められ、優しい笑顔で覗き込まれていた。


「うん、嬉しい。ありがとう、弦。」

「どういたしまして。じゃあ、そろそろ宿に行こっか。」


 差し出された弦の手に手を重ねて笑顔で、是、と頷いた。

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