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第二章 黒猫の恋人
第78話 ロマンチストな黒猫からのサプライズ
しおりを挟む唇にそっと触れるだけのキスが落とされる。
まるで大切な壊れ物を扱うかのように優しく、何度も……
弦の唇の柔らかさと温かさに、堪えていた涙がまた溢れてこぼれ落ちた。
そして、その涙さえも、弦は優しく唇で拭ってくれる。
「…名月、今日は泣いてばっかりだね。……あ、俺が悪いのか。」
ごめんね、と弦は眉根を寄せて切なそうにそう言いながら、今度は軽く唇を吸い上げ啄むようなキスをする。
私は弦の首に腕を絡め、弦から与えられるキスに応え、お互いに夢中でキスを贈り合う。
「……弦、好き。」
「ん、俺も。」
弦は私を抱き抱えキスを贈りながら、ゆったりとした動作でリビングの奥へと進んでいく。
弦の優しいキスと運ばれる時のふわふわとした浮遊感が心地よくて、力が抜けて弦の胸にもたれかかると、トクトクと弦の心臓は早く脈を打っていた。
「……弦もドキドキしてるの?」
「それはそうでしょ?あんな事があった後だもの。断られたらどうしようって緊張したよ。」
困ったように眉を下げて笑う弦をみて、弦に対して不誠実な対応をした事を申し訳なく思う気持ちと、優柔不断で流され易い自分に対しての罪悪感で、酷く胸が痛んだ。
「……ごめんなさい。」
「いいよ。でも、もう余所見しないで。俺だけ見てて。」
コツンと額を合わせて、視線を絡ませると、それだけで胸がいっぱいになって、ドキドキと心臓の鼓動が激しくなる。
こんなにも弦の事が好きなのに余所見する訳ないし、そんな余裕なんて少しも残っていない。
私がこくんと弦の言葉に頷くと、弦は幸せそうに顔を綻ばせ、ゆっくりと唇を寄せ包み込むような優しいキスをした。
弦の与える優しいキスの心地良さに意識が没入していると、いつの間にかリビングの最奥の扉の前に到着していた。
「名月、扉、開けてくれる?」
弦に促され、扉を開けると、その部屋はベッドルームで、真ん中に薔薇の花弁が撒かれて綺麗にベッドメイクされたワイドキングサイズのベッドがあった。
ドキリと心臓が跳ね上がる。
「名月、今から君を抱くよ?…いい?」
優しく問いかける様な口調で、だけど、声には欲と熱をはっきりと含ませて、私に最終確認をする。
まるで、もし迷っていて引返すなら今だよ、とでも言うように。
見上げると、弦は真剣な表情で答えを待つように、私を見つめていた。
迷いなんてない。
私はこの先もずっと弦といたい。
私は、肯定の返事を込めて弦にキスを贈った。
「……抱いて?私を弦の物だってもっと感じさせて……。」
「あぁ、名月……愛してるよ。名月は俺の物だよ。もう一生離さないから。」
弦はそう言うと私を少しだけ高い位置からベッドに落とした。
「って、きゃっ!」
空気を纏ってドレスのスカートがふわっと開き、そのままベッドにぽすんと着地すると、纏っていた空気と着地の衝撃でぶわっと花弁が宙を舞い、そして、私の目の前を花弁のシャワーがゆっくりはらはらと降り注ぐ。
まるで映画でも見ているのかと思うほど、綺麗で幻想的な光景に胸が高鳴った。
陶然と眺めていると、弦はベストを脱ぎネクタイを緩めながら、ふっと目を細めてこちらをみて笑んだ。
「弦って、実は結構ロマンチストだよね。」
「ん?そう?」
「うん。こんな素敵過ぎるサプライズ、ロマンチストじゃなきゃ出来ないよ。」
「嫌?」
余裕たっぷりに微笑みながら、弦はベッドに片膝を乗せて私のパンプスを片方ずつ落とし、ガーターストッキングをスルスルと脱がしていく。
「嫌…じゃないから困ってる。」
「何が困るの?」
熱っぽく耳元でそう囁きながら弦は、私の上に覆いかぶさり、耳を食みながらイヤリングを唇で器用に外し、もう片方を空いている手で外す。
「……だって、こんな事されたら弦の事好きになっちゃうよ……」
「えー?好きになっちゃうって、名月、俺の事好きじゃなかったの?」
いつの間にかネックレスまで外していた弦は、私の言葉に驚いた風に言うと、ぱっと身体を離してベッドから降りすたすたと窓の方へ向かって歩いていった。
やばい、誤解させた、そう思って、がばっと上体を起き上がらせると、私は慌ててさっきの言葉を否定する。
「好き!好きだよ!弦のこと大好き!だから、そうじゃなくて…違くて…えっと……私じゃなくて……」
他の人にやらないで欲しいって言いたかったんだけど……
慌てるあまり、よくわからない取り留めのない言葉しかでてこなかった。
不安のあまり目をぎゅうっと瞑り俯いた。
弦からの返事は……ない。
さっき弦がベッドから降りる時も、咄嗟の事で表情が見えなかったので余計に不安が募る。
無言のまま、弦は窓の近くにあったテーブルの近くまで行き、私と自分のアクセサリーをコトリと置くと、くるりとこちらをふり返った。
「んーと、名月じゃなくて?じゃあ誰のこと?」
そう言うと、弦は意地の悪い笑みを浮かべた。
からかわれた!
弦は私の言いたい事がわかってて、ワザと揶揄ったのだと気が付くと、みるみるうちに顔が熱くなって涙が滲んできた。
「もう!弦の意地悪……本気で…」
「ははは、ごめんごめん。名月が可愛い事言うからつい。」
弦はくつくつと楽しそうに笑いながら、再びベッドに上がるとむくれている私に向かい合うように座り、私をふわっと抱き上げ弦の膝の上に座らせた。
不安に揺れる私の瞳を優しく覗き込み、安心させるように頬にちゅっとキスをする。
「大丈夫だよ。こんな事名月にしかした事ないし、これからもするつもりはないから。」
「本当に……?」
「うん、本当。神に誓って。俺には名月だけだよ。今までも、これからも……」
「今までもないの?私だけ?」
「そ。名月だけだよ。安心した?」
そう言ってやさしく覗き込む弦の瞳に嘘はなかった。
「うん……。私も、弦だけ。今までもこれからもずっと貴方だけだよ。」
愛しそうに頭を撫でられ、心地良さに目を瞑ると、唇に柔らかい物が触れた。
触れた弦の柔らかい下唇をはむっと甘噛みすると、弦もお返しとばかりに甘噛みしてくる。
「気持ちいいね。」
「んっ…きもちぃ…もっと……」
「うん、もっとしよ。」
ちゅっちゅっはむはむっと啄んだり甘噛みしたり、お互いの唇をやわやわと愛撫し合うと、徐々に気持ちが昂って軽いキスからだんだんと深まっていき、貪るようなキスに変わる。
舌で唇を口を開くように促され、薄く唇を開くとぬるりと弦の舌が侵入し、歯茎や唇の裏側などを丁寧に舐られ、背筋にゾクゾクと快感が走り甘い声が漏れた。
「んんっ……」
「ふふふ、名月愛してるよ。」
「私も……愛してる……」
ぴちゃぴちゃと舌を絡めながら、弦は私の背中に手を回してファスナーをゆっくりと下ろし、肩からするりとドレスを脱がしてパサりと落とした。
ひんやりとした空気が蒸気した肌に心地よい刺激を与えて、ゾクリと背筋が粟立った。
弦は私の頬を撫でると、額から始まり顔中にキスの雨を降らした後、首筋に唇を滑らせていく。
鎖骨をキツく吸い上げて痕を付けると、弦はその痕を指で愛おしそうに触れ、恍とした表情で私を見つめた。
弦の情欲と熱を孕んだ瞳で見つめられ、かっと頬が熱く蒸気する。
そのまま、背中を支えるように手を添えながら優しくそっとベッドに横たえられると、弦は私の頬に両手を包み込むように添え、眉根を寄せ切なそうな表情で私の瞳を見つめた。
「……俺も。好き、凄い好き。愛してるよ、心の底から。ねぇ、名月、もう抱いていいよね?」
私がコクンと頷くと、弦は嬉しそうに表情を綻ばせ、深い深いキスを落とした。
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