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第二章 黒猫の恋人
第69話 黒猫は着飾る
しおりを挟む「名月、この後の壮行会にこれを着て行って欲しいんだけど、どうかな?」
シャワーから出てきた名月のドライヤーを終えた俺は、クローゼットの中から昼間受け取りに行った某ブランドのショッパーを取り出した。
ショッパーの中には、ウエストの部分に大きなリボンをあしらった黒のカクテルドレスと、俺のネクタイに合わせたシャンパンゴールドのパンプスと、ハンドバッグ、底の方にアクセサリーケースがふたつ入っている。
名月は驚いた様に目を見開いてぱちくりさせながら俺からショッパーを受け取ると、中を覗き込み固まった。
名月に渡す前に、ドレスだけ先にガーメントバッグから出してあったので、それが目に付いたのだろう。
「え…うそ…何これ……」
「はははは、そんなに吃驚しなくても…。」
名月が思わず漏らした言葉に、俺は堪えきれず笑いながら、ショッパーの中からドレスを出してベッドの上に広げると、名月の口から溜息が零れた。
「凄い素敵……これ、どうしたの?」
「今後、俺の家関係でパーティに行かなきゃならない時があるから、ちょっと早いけど用意したんだ。俺が名月のイメージで勝手に選んじゃったけど……」
呆然と立ち尽くす名月の問いに答えながら、続けてショッパーの中から、パンプスの入った箱とハンドバッグの入った薄い保存袋を取り出し、中身をベッドの上に並べると、名月に向かってにっこりと笑顔を向けた。
「どうかな?お気に召したかな?」
「うん、うん!すっごい気に入った!ありがとう!」
名月は頬を紅潮させ、キラキラした目でドレスを見つめ、ぶんぶんと首を縦にふる。
可愛いなぁ。本当に可愛い。
こんなに素直に喜んでくれるならもっと色々と買い与えてあげたくなってしまう。
「それはよかった。おいで、着せてあげるよ。」
着替えさせるために、恍とドレスに見蕩れている名月を手招きすると、名月は嬉しそうに破顔して駆け寄ってきた。
俺は愛しい名月のバスローブをするすると脱がせると、用意していた下着を身に付けさせていく。
ドレスの肩の部分はオーガンジーなので、肩紐の無いヌーブラを着け、黒いレースのガーターベルトを名月に装着すると、その上から黒いレースのショーツを履かせる。
名月はパンティストッキング派なのだが、ガーターベルトもなかなか扇情的で…名月の下着を身に付けただけの格好に、一旦収まった筈の熱が再び身体の中心で燻り始める。
名月をベッドに腰掛けさせると、俺は足元に跪き右脚からシャンパンカラーのキラキラ光沢のある膝上ストッキングを履かせ、太ももの内側に口付け強くて吸い上げると、名月から甘ったるい吐息が漏れる。
「んっ…」
「……ここにも俺の印が咲いてる。こんな所、俺以外に見せないでね。ごめんね、独占欲強くて。」
俺が太ももに頬擦りをすると、名月は俺の髪をくしゃくしゃっと掻き乱しながら、優しい瞳で俺を見つめて言った。
「見せないよ。もう弦以外には見せないから。もっといっぱい付けていいよ。」
「な、名月……」
名月の言葉と仕草に頭がクラクラして理性が飛びそうになるが、なんとか持ち堪える。
危なかった……危うく押し倒してしまう所だった。
落ち着かせるように頭を振り深呼吸をすると、徐々に燻っていた情欲の火が鎮火していく。
一旦名月にバスローブを着せ、髪を緩いシニョンに結い上げると、メイクをして待ってて、と伝え、俺は自分の支度をするためウォークインクローゼットに向かった。
◇◇◇
支度を終え、クローゼットから出ていくと、メイクを終えた名月がちょこんとベッドに座って待っていた。その姿に頬が緩む。
あぁ、やっぱり可愛いなぁ。可愛いしか出てこない。
いつもよりも華やかなメイクで、いつもは可愛らしい女性が、美しい女性に変貌を遂げたようだ。
俺は名月を立たせ、バスローブを床に落とすと、名月の背後に跪き、足元からドレスを着せていく。
背中のファスナーを上げると、くるりと正面を向かせた。
目の前の名月は、漆黒の夜空にオーガンジーに散りばめられたビジューが星のように煌めくドレスを身にまとった、まるで神話に出てくる月の女神のように美しく輝いて見えて、思わず感嘆の声が漏れ出た。
「名月……とても綺麗だ…イメージしていた以上に…本当に綺麗だ。」
事前にネイルのカラーも指定しておいてよかった。
全てが調和が取れていて、お世辞抜きで、本当に綺麗で見蕩れていると、名月がぽっと頬を赤らめてこちらをちらちらと見ながらもじもじして言った。
「えへへ、そうかな?……ありがとう……弦も、凄く素敵だよ。」
な、な、名月……可愛すぎるんですけど?!
なんという破壊力だろうか…これ以上名月は俺をどうしようというのか……
見た目は完全に綺麗なお姉さんなのだが、仕草や口調は可愛らしいお嬢さんな名月のギャップ萌えな可愛らしさに、またまた理性が飛びそうになった。
しかし、ここでまた踏みとどまる。
壮行会に……行かなければならない……
どうしても……行きたくないけど……
名月とイチャイチャしていたいけど……
仕事だから……仕事……
俺の頭の中の残念すぎる葛藤は綺麗に隠して、名月に笑顔を向けると、ベッドサイドにおかれているショッパーを指さした。
「ねぇ、名月。袋の中のアクセサリーケース開けてみて?」
名月は横にあるショッパーを覗き込むと、中にあったアクセサリーケースを2つ取り出して、これ?と訊ねた。
俺は笑んだまま頷くと、開けるのに邪魔にならないように名月の手から1つ受け取る。
1つ目のケースには、名月用の綺麗なイヤリングとネックレス、ブレスレットがはいっており、もう片方の2つ目のケースには俺用のカフスボタンとネクタイピンが入っていた。
「うわぁ……綺麗。」
アクセサリーを見るや否や、思わず名月から感嘆の息が漏れた。
しかし、次の瞬間名月は上目遣いで恐縮して戸惑いながら恐る恐る俺に訊ねる。
「ねぇ、もしかしてこのアクセサリーって……オーダーメイド…した?」
「うん、実は…そう。今日出来上がったんだ。」
名月は、やっぱり……というと、目を瞑り眉を顰めて立ち尽くしてしまった。
あれ?どうしたんだろう……
もしかして気に入らなかったのだろうか……
俺は不安になって、名月の正面に立ってゆるりと両手を名月の腰に回して名月の顔を覗き込んだ。
「お揃いのアクセサリー、名月の誕生石のサファイアで揃えてみたんだけど…嫌だった?」
すると、名月はは首をふるふるた横に振りながら、瞑っていた目をあける。
その瞳には涙が滲んでいた。
「嫌だなんて……こんな…嬉しい……。どうしよう、嬉し過ぎて涙出そう……」
「こらこら、泣いたらせっかくの綺麗なメイクが落ちちゃうよ。」
よかった……気に入って貰えたようだ。
俺は安心すると、名月の眦に溜まった涙にハンカチを当てて吸い取る。
それから、ドレスが皺にならないように細心の注意を払いながら、愛しい名月をふわりと抱きしめた。
「喜んで貰えて俺も嬉しい。愛してるよ、名月。」
「うん、私も……弦、愛してるよ。本当に大好き。」
幸せそうな名月を見ると俺まで幸せな気持ちになる。この幸せがずっと続いて欲しい、俺は心からそう思った。
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