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第一章 黒猫の恋
第3話 憂鬱な月曜日
しおりを挟む週末、何もする気が起きなくてうだうだしているうちに、気が付いたらあっという間に月曜日の朝。
普段はワーカホリック気味の私だけれども、今日ばかりは仕事に行きたくなかった。
何故ならば、誠治とは同じ会社で、部署は違うがフロアも同じだから。
流石に、つい先日振られた元恋人に会うのは相当しんどいし、寧ろ、今世界で一番会いたくない人は誰?と聞かれたら間違いなく誠治と答えるだろう。
そのくらい今は誠治に会いたくない。
いっそ溜まっている有給消化のためと理由付けして、しばらく休んでしまおうか、とも考えたが、失恋したからと言って仕事を休んでいいはずがない。
嘆息し、気だるい気持ちでベッドから出る。
幸いにもこの日は朝からクライアントに直行で、出社は午後からなので、顔を合わせずに済むのであればそれに越したことはない。
直行の後は…とグループウェアでスケジュールを確認すると、お昼過ぎまで外回りだった。
やったー!ラッキー!
と思ったのも束の間……16時から『営業部全体MTG』の文字。
はぁ、マジか………
今世界で一番会いたくない人と強制的に顔を合わせないといけないという事実に、ガックリと肩を落とす。
私達の所属する営業部は、大手顧客メインの第一営業、中小企業メインの第二営業部、新規開拓専門の第三営業部、営業部のサポートがメインの管理本部の4部門で成り立ってる。
第一営業部は、営業部の中でも花形と言われており、1~5課を抱える大所帯だ。
『第一営業部2課 サブマネージャー 仲原 名月』
これが今の私の肩書きである。
営業部全体MTGとは、月に一度、各営業部のリーダー以上が参加する会議で、主には、第三営業部が新規で獲得してきた案件を割り振り引き継ぎをして、各営業部に引渡しをするために設けられている。
それ以外にも、営業部は4部門もある大きな組織なので、部門間の情報共有なども会議の主題になる。
元恋人の誠治は第二営業部所属なので、仕事での接点は殆どない。ちなみに肩書きはリーダー。唯一の接点が、この営業部全体MTGなのだ。
そんな憂鬱で仕方がないイベントが待っている、と考えるだけで胃がキリキリしてきた。もう本当に休んでしまおうか…それか直帰するか。
はぁ、でもそんなことは許されないよぁ…
仕事は仕事!しっかり与えられた職務は全うしよう。
そう心に決めて、私は今日も戦闘服に袖を通した。
◇◇◇
朝イチ直行でのクライアント訪問はすんなり終わり、次のアポイントまでの空いた時間に、メールチェックと資料確認のためにカフェに入った。
カウンターでコーヒーを受け取り、席につくと、カバンから資料を取り出しテーブルに置く。
コーヒー片手にスマホでメールチェックをして、さぁ、資料に目を通すぞ!とテーブルに視線を落とすと、資料の左上のホッチキス止めの箇所が、猫マークで囲ってあったのが目に入る。
あ、次のクライアントも猫さん案件なんだ…。
朝イチのクライアントも猫さん案件だったが、猫さん案件はとにかく資料が見やすい。相手先企業の詳細はもちろん、担当者の特徴や人柄、抱えているニーズやこちらから提案すべき内容まで、とにかく事細かく書いてあるのだ。
加えて、担当者とのパイプがしっかりと出来ていて、話もスムーズで、提案がしやすい状態で引き継いでくれるので、とても仕事がしやすいのもありがたい。
もっと言うと、訪問したら担当者と共に社判と代表印が待っていて、契約書を出せば必ず判子を押して貰える、必ず何かしらの契約が取れるものばかりだ。
部長達は猫さん案件を、訪問先に行けば、判子がポンで、『行けポン案件』と呼ぶが、正直そのネーミングセンスはいかがなものかと思う。
そんな好案件だから、第一営業部内で我先にと争奪戦になると思いきや、猫さん案件だけは、何故か猫さんが担当を指名する指名制度を取っているため、公には滅多に出てこない。
そんなありがたい猫さん案件とは、『第三営業部マネージャー 猫実弦』が新規開拓した案件のこと。
猫実 弦さんは我が営業部のスーパーエースといわれ、入社以来次々大手クライアントを開拓してきたスゴい人。
開拓先のほとんどが大手で、しかも、ほとんど行けポン案件。
一体どうしたらそんなことになるのか…是非とも一度レクチャー頂きたいところであるが、そんな社をあげてのスーパーエースのことを……実を言うと、私はよく知らない。
まず、第一・第二営業部は同じ階の同じフロアだが、第三営業部は休憩室と同じく下のフロアなので、資料の確認や企業情報の引き継ぎなどで出向かない限り、顔を合わせる機会がない。基本的に内線やメールでも確認出来るので、殆どいかないと言っても過言ではない。
顔合わせる機会といったら、全体MTGくらいだ。
そして、その全体MTGについては、各部各課の役職以上の外せないアポイントなどがある人以外は全員参加なので、なんやかんや総勢50人位の大規模な会議となる。50人の中から猫実さんを探し出すのは至難の業だと思う。
極めつけは、猫実マネージャーはこの全体MTGに殆ど出席をしていない…いや、出席出来ない程多忙であるらしく、いない人を探すだけ無駄なのだ。
人の覚えがいい事が私の武器であるが、流石にMTGに出てこない人の顔までは覚えることは不可能である。
入社して5年、会議に出られる役付になってから3年。
1度も会ったことが無いわけではないと思うのだが、他部署となるとなかなか接点はないものだ。
内線とメールだけは別として……
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