上 下
88 / 128
八章

やっと登場じゃ

しおりを挟む
店長の予測通り、休憩に出たまま刈谷さんは戻ってこなかった。


私と入れ替わりで休憩に入った瑠偉くんが食堂に行ったけど、既に刈谷さんの姿はなかったという。


きっと私が食堂を飛び出したあと、刈谷さんもすぐに出たんだろう。


私が声を荒げたことで、周りの人たちに見られていたもんね…。


まあ今日は全員出勤だから、早退されても大丈夫なんだけど。


「なんか、刈谷さんの勝手な行動にも驚かなくなってきたかも。」


私の退勤時間がきて「上がります」と声をかけた時に、瑠偉くんがボソっと言った。


「うん…私も今日のことで、もう何があっても驚かないような気がしてきたよ。」


一応店長が刈谷さんに電話してみたけど、出なかったのでLINEを送っておいた。


しばらくして「早退します」と返事があったらしい。


こんな状況があと2ヶ月続くのか…と思うとちょっとウンザリもするんだけど、ヘルプに入ってくれる人も少しずつ決まってきているみたいだし。


「本社の人たちも協力してくれるし、思い悩む必要もないかもって思えてきました。」


帰宅して神様に報告した。


「ほう、濃厚な一日だったんじゃな。」


ニコニコと頷いて、


「言いたいこともハッキリ言えるようになったし、成長したの。」


「怒鳴ったの、子供っぽいと思って反省してたんですけど…成長なんですかね?」


私自身も食堂に行きづらくなってしまった。


「うむ、冷静に“意見する”というスタンスが取れればなお良いがな。」


と前置きをして


「しかしずっとモヤモヤしながらも我慢しておったじゃろ?

言わなければ伝わらん。今日言ったことで、刈谷とやらはようやくおぬしの気持ちをハッキリ知ることができたんじゃ。」


真っ直ぐ私を見ながら話し続ける。


「おぬしが変われたなら、それで良いんじゃ。
現に刈谷とやらを変えたいとは思わんようになったじゃろ?」


「はい…確かにそのあとまた勝手に早退したんですけど、今までほどモヤモヤしなかったです。」


それを受けて刈谷さんが変わるかは別問題だけど、私自身スッキリしてもう刈谷さんに動じなくなった。


「言わずに我慢する方が大人の対応だと思ってました。」


「我慢するんではなくて“意見する”“伝える”“話し合う”。

ただその後の結果は期待しない。」


期待しない?そのために伝えるんじゃないの?と首を傾げると


「相手をコントロールするために伝えるんではない。
自分の心を整えるために伝えるんじゃ。

伝えるまでおぬしは刈谷とやらの言動に振り回されておったが、伝えた後はどうじゃ?」


「気持ちが落ち着いて、動じなくなりました。」


そのためじゃ。それだけじゃ。とニコニコと言う。


「それでおぬしが変われば、必然的に周りも変わる。

自分を変えずに相手を変えようとするより、自分が変わる方が早いし楽じゃろ。」


そのために伝える。でも結果(相手の変化)は期待しない。


なるほどー!


納得かも。


「というか神様、今日はいつも以上に饒舌ですね?」


「何話ぶりの登場じゃ?全く主役の出番がないとはけしからん作者じゃの!」


…………え?


「神様、主役は私ですよ?」


「は?何を言っておる?ワシがタイトルになっておるではないか?

おぬしはモブじゃ。」


も…モブ!?


酷ーい!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...