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七章:意識

ザワザワの意味

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深見さんが店頭に立った瞬間からお客様の空気が変わった。


販売員時代に恋愛感情を拗らせた女性客と揉める、という状況を立て続けに起こして本社勤務に移ったという噂は本当だったんだろう。


なんだろう…深見さんの接客は販売員というより、ホストの接客のように見えてくる。


それにしてもこの集客力…存在感を認めざるを得ない。


ようやく入店が落ち着いてきたタイミングで声をかけた。


「深見さん、休憩に入りましょう。」


「ああ、そんな時間か。」


二人でバックルームに入ろうとした時、店長に呼び止められた。


相原に改めて深見さんを紹介するという。


3人が話しているところを後ろから見ていると、


「よろしく」


と言いながら握手…!?


おいおい…俺でもそこまでしたことないぞ!?


相原も普通に握り返している…けど、あれは単純につられただけだろう。


更にLINEの話まで出てくる。


出勤してすぐ相原に紹介した時に、もしかして?と勘づいてはいたが、やっぱり相原狙いだったか…。


「それは安心ね」


と店長も頷いて止めない。


おいおい…いつも敏感に察する店長が深見さんのことは気づかないのか?


いやこの流れだと止める方が不自然だ。


例え気づいていても止めないだろう。


とりあえず挨拶は終わってやっと店を出た。


「深見さん…もしかして相原狙いですか?」


「ズバリ聞くね。元カレのカンってやつ?」


否定しない…ということは図星か。


「まあ元カレに仲を取り持ってもらうなんて鬼畜なことはしないから、安心してよ。」


軽く鼻歌交じりのようなテンションで言う。


なんだ…身体の内側がザワザワとする。


元カレと言われる度に苛立ちを感じる。


「…どうしたんだ?急に黙り込んで。」


「あ、いえ…別に。」


自分でも何故こんな気分になるのか…別れたことを今更後悔しているのか?


今までこんな気分を味わったことがない…。


でもなんだろう…この人に相原を取られるのが無性に嫌だ。


「どうして相原なんですか?会ったのは今日が初めてですよね?」


「会ったのは初めてだよ。

でもサイトに載せる画像を見て一目惚れ!可愛いじゃん。」


元カレなら、わかるよね?と付け加えられて、腹の底からザワザワが込み上げてきた。


これ以上この話題を続けると意味のわからない苛立ちが爆発しそうだったので、強引に話題を変えた。


「深見さんって販売員時代、売り上げ高かったんですよね?

どんな接客だったんですか?」


「んー?どんな接客…?

やっぱり女性相手だからね。

お客様は全員お姫様、僕はナイトになった気持ちで接していたよ。」


お…お姫様とナイト!?


やっぱりホストみたいと感じたのはあながち間違いではなかったか…。


恋愛感情を拗らせる方が立て続いて揉めたというのも納得だ。


「よくそんなクサい台詞を恥ずかしがりもせずに言えますね?」



「えー?そう?

じゃあ神屋くんはどんな気持ちで接客してるんだ?」


神屋くんも売り上げ高いよね?と。


「確かに女性にはいつまでも綺麗でいてほしい。

そのためのサポートをしたいという気持ちで接客していますが…。

さすがにお姫様とかナイトまでは考えが及ばなかったですね。」


そうなんだーっと軽く流された。


どうもテンションが掴みづらいな…。


とりあえず要注意人物というのは確かか。


相原を守らなければ…。
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