猫神様のお気に召すまま

結香こっこ

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三章:二人のカウンセラー

土曜日、閉店後のバックルーム

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「新人ゴロシの神屋くん?」



……………………。



「はい?」



突然の呼び方に、自分のことと気づかなかった。



「コロシていません。」



事務作業の手を止めてこちらに向き直った店長が大きなため息をつく。



「あのねぇ、今回の件は私も油断してたから店長として非があるのは認めるわ。

でも相原さんが意外にも(って言ったら怒られそうだけど)大人になって乗り超えてくれたから大事にならずに済んだけど、一歩間違えれば大惨事よ?」



腕組み足組みの姿勢で睨まれる。



「申し訳ない…。」



めるには念押しで「職場で付き合い始めた話題は出さないように」と伝えたのに…。



俺が休みの日にされるとは…いや、休みだったからやったんだろうけど。



「しかももう別れたとは何事?!もう刈谷さんのご機嫌とるの大変なんですど!?」


はぁ…こればかりはお説教もごもっともだ。


俺も甘かった部分がある。


ちょっとマウント取りそうな気配は感じていたから、はじめから「相原さんに話したら別れる」と脅しておくべきだった。



一緒にため息をつくと「そういう問題じゃないから。」とアッサリつっこまれる。



「もう、どうしてそう女の子取っ替え引っ換えするの?

イケメンだから言いよられるのは仕方ないとは思うけど、店の評判落としてまでやらなきゃいけないこと!?」


「そんな…イケメンだなんて思ってないよ!
ただ、女の子が頑張って告白してくれる姿を見ると断れないだけだ。」



全然言い訳になってないと一蹴されたのは言うまでもないか?



「仕事に差し障りなければ…と思って目を瞑っていたけど、支障が出た以上店長として話し合わなければいけないわ。」



「そうですね…今回のことで俺も反省しました。」


すっごい疑いの目を向けられる。本当なのに…酷いなぁ。



「本当に…同い年の行動と思うと情けない…。」


と、また大きなため息をつかれた。


「刈谷さんへの指導は責任持って行います。
相原さんへの謝罪もさせます。」


「そうね、私が話しても改善は見られないし。

反抗してるところを見ると、神屋くんと付き合いたい気持ちはまだあるということなんでしょう…。

神屋くんの話を聞く可能性の方が期待できるわ。」



次神屋くんと刈谷さんが一緒に出勤する日は…とシフト表を確認して


「月曜日は私と3人だから、ちょっと時間あげるのは難しいわね…次が…金曜日までないのね…。」



「いや…少しでも早く解決しなければならない問題だから。
電話でも仕事帰りでも、どうにか話し合う時間を作るよ。」


そうしてもらえると助かるわ。と言って、ひとまずこの話は終わった。



「…店長は何故結婚しようと思ってたんですか?」


事務作業を続けようとした手を再び止めて振り返った。



「あなたみたいな遊び人に狙われないためよ。」


わざとらしく満面の笑みで言われた。傷つくなあ。


まあ確かに美人な方だ。いろいろ嫌な経験はあったんだろう。


「まあ1番の理由は私のワガママを優先してくれるからよ。
彼、とても優しいの。」


全くテレることなく堂々と(やっぱり満面の笑みで)言う。


「店長がワガママって想像できないですが。」


「今の仕事を続けることと、一人の時間が必要ということよ。」


価値観は人それぞれだな。


「それはワガママになるんですね?確かに“かまってちゃん”な姿は想像できないですが。」


「神屋くんは”かまってちゃん“が好みなのよね?」


とからかわれたが、そんなことはないと思うんだけどなあ…。


「信じられないと思うんですが、女の子同士で戦ってほしいわけではないんですよ。」


「それは信じられないわね。」


バッサリ言い切ってから書類を片付け始めた。


続きは明日にするんだそうだ。



「まあとりあえず刈谷さんはお願いね。お疲れ様。」


「お疲れ様です。」


本当に戦ってほしくてめると付き合ったわけではないんだけど、こうなってしまっては信じてもらえないのは仕方ないな。



………………。



「まあ、あと3ヶ月だ。」


小さく呟いて、仕事の続きを始めた。
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