猫神様のお気に召すまま

結香こっこ

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一章:ツイてない

幸運のお知らせ?

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瑠偉くんは俯いたまま、ため息混じりの声で呟いた。


「やってみる前から諦めてたら、そりゃ無理だろうね。」



「!!!」


私から目を逸らして、袋から出し終わった商品をハンガーにかけていく。



「あと、俺は相原さんを抜きたくて頑張ってたわけじゃないから。そういう言い方はやめてね。」


「あ…ごめん…。」


もう手伝ってもらうことはないよと言って、店頭に戻された。



そんなつもりはなかったのに、嫌味のようなことを言ってしまった。

なんか今日、情け無い続きだな…惨めになってくる。

店頭で暗い顔をしないようにと言われているのに、つい俯いてしまう。



なんだかんだで今日はぎこちないまま時間が過ぎて、早番の店長が上がる時間になった。


先に瑠偉くんと話をして、その後私も呼ばれた。
案の定笑顔がなかったことを指摘され、残り時間で片付けてほしい業務を伝えられた。


「じゃあ、入店が少ないからって業務に集中しないようにね。お疲れ様。」


一歩踏み出して振り返る。


「相原さん。」


手招きをされたので近寄ると、小声で「ネットで見かけた言葉なんだけどね…」と囁く。


「“幸運は不幸の足音を鳴らしてやってくる”らしいわよ。

悲しい出来事が続くのは、もしかしたらこの後大きな幸せが巡ってくる暗示なのかもしれない。

そう思うとちょっとは笑顔になれるんじゃない?」


幸運は不幸の足音を鳴らしてやってくる…失恋も後輩の出世(予定)も、自分の不甲斐なさへの自覚も。
幸運迎えるために必要な出来事だったとしたら…?



「店長…ありがとうございます!幸運を迎えられるように、頑張ります!」


ニコッと笑って店長はお店を出た。




「何の話?」


瑠偉くんが不思議そうな目で見ながら問いかける。

そうだ!瑠偉くんにはまだ彰と別れたこと言ってなかったんだ!



「実は…」



彰の本性、話してもいいんだろうか?と一瞬迷ったけど、“ここだけの話”ということで聞いてもらうことにした。


昨日フラれたこと。既に刈谷さんと付き合っていること。
前々から新人の女の子とばかり付き合っていたこと。


再び虚しさが込み上げてきたけど、なんとか泣かずに話せた。




「神屋さんって、そんな人だったんですね…そんな風に見えないから驚いたけど。

もう既に刈谷さんと付き合ってるというなら真実なんだろうな。」



新人にとっては、彰は本当に優しくて頼りやすいお兄さんのような存在だったから、瑠偉くんも彰の本性に驚きを隠せずにいた。


「神屋さんも異動するとはいえ3ヵ月後だし、刈谷さんもいるし…辛いな?」



「いや、なんかもう吹っ切れたよ。

今日、店長や瑠偉くんといろいろ話してるうちにね。自分が悪かった部分にも気付けたし。」


(イケメンが)優しく仕事を教えてくれたというだけで好きになって、本性も気付けないくらいすぐに告白したのは私。

彰に夢中で仕事を疎かにしたのも私。


こういう自分の悪いところに気付くことが、幸運を迎えるために必要な経験だったと思おう。

この経験を無駄にせず言動を改めることで、きっと幸運が舞い込んでくるんだ。
そう思うと気持ちがどんどん前向きになってきた。
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