猫神様のお気に召すまま

結香こっこ

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一章:ツイてない

業務連絡①

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オープンの時間まであと5分。
急いで掃除を済ませて、お客様のお出迎えのために店長と並んで入り口に立つ。


店長が小声で話し始めた。


「本当は朝礼で伝えようと思ってたんだけど、長くなるからこのまま聞いてね。

こんなタイミングなのは本当に偶然なんだけど、神屋くんの異動が決まったわ。」




「え…異動?」



「すぐにではなくて3ヵ月後よ。
メンズブランドの店長が退職されることが決まって、神屋くんが後任として引き抜かれることになったの。」


3ヵ月後とはいえこんなタイミングで異動が決まるなんて。
気まずさは和らぐけど…。



「もともとメンズブランドを希望してたし今までも何度か引き抜きの話はあったけど、うちがずっと人手不足だったからね。

神屋くん自ら断ってくれていたのよ。

でも神屋くんの希望を知っていながらこれ以上甘えるのも申し訳ないし、次は店長としての話だから行かせてあげたいじゃない。」


確かに彰は先輩としてとても頼れる人だった…今まで断ってこのお店に残ってくれていたなんて初めて知ったけど、販売経験のない私が一年続けることができたのは(付き合ってたことを差し引いて考えても)彰が指導してくれたおかげだと素直に思う。

そんな彰が異動したあと、うちのお店はどうなるんだろう。



「神屋さんの後任はどうなるんですか?」


オープンのベルが鳴ってお客様が流れてくる。
お辞儀をしながら話を続ける。



「神屋くんと話し合ったんだけど。
打海くんの教育を強化して、3ヵ月でサブになれるように育てようということになったの。」



え…瑠偉くんが?
思わず店長を見る。でも店長は私を見ず、真っ直ぐ前を向いて通りすぎるお客様にお辞儀をする。


「打海くんにも昨日話して頑張りますと言ってもらえたから、早速今日からサブ業務を教えていくわ。
その分相原さんと刈谷さんにはお客様対応をお任せする機会が増えるけど、協力してね。」



「かしこまりました…。」


瑠偉くんがサブ。
半年とはいえ私より後に入った人に抜かれた。



失恋した次の日に、彰の本性と後輩の出世を聞かされるなんて。


展開早すぎて感情が追いつかない。

ただ私がサブに選ばれなかった理由は聞かなくてもわかるから、瑠偉くんを責める気は起こらない。

ただただ自分が情けないだけだった。

彰みたいに恋愛しながらでも仕事のスキルアップはできたのに、それをやらなかった自分の責任だ。



瑠偉くんが出勤したら、ちゃんと笑顔で頑張れって言おう。




お出迎えが終わって改めて朝礼が始まる。

今日は入荷があるので、早速瑠偉くんに商品展開を教える時間をとる。
その間私が一人でお客様対応をして、極力教育を中断させないように動かなければいけない。


平日だから大丈夫なはず…!
落ち込んでる暇はない。瑠偉くんを見習って私も頑張ろう!
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