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一章:ツイてない

別れは突然に②

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次の日。
予定通りに待ち合わせして駅近くのカフェに入る。


「映画のあと、見たいお店があるの。最近近くにオープンした服屋さんを友達が教えてくれたんだー。」

「いいよ。
服屋さんができたのか。知らなかったな。」


彰はレディースブランドで働いているから、と休みの日はメンズだけじゃなくレディースのショップもチェックして回っている。


彰も…真面目だと思う。



彰とは私が入社した時に教育担当をしてくれたのを機に、落ち着いた雰囲気とかミスをしても怒らず優しくフォローしてくれるとことか…カッコいいし、もちろんオシャレ。で、どんどん惹かれていって私から告白して付き合うようになった。


もうすぐ付き合い始めて8ヵ月になる。
普段も職場と変わらず優しい。


こんな素敵な彼氏がいて、夢みたいだし凄く幸せ!
長く付き合っていけたらいいな。


そう思っていたのはどうやら私の方だけだった、ということをもうすぐ知らされる展開が待っているとは…この時の私に予想できるはずない。





隣でクスクス笑う彰と映画館を出る。


「池鶴、泣きすぎ!」

「だって…」

メイクが崩れるくらい涙が止まらない。

映画は2年前にベストセラーになった小説の実写版。主人公が病気で死んでしまう内容だった。


号泣する私の反応が可笑しくて、彰は泣けなかったらしい。
いや、私の反応より映画に集中しようよ…!と反論してもやっぱりクスクス笑っている。


涙が止まらない私と、笑いが止まらない彰。
口を膨らせる私に「ゴメン、ゴメン」と頭を撫る。

こんな何気ないやり取りが幸せに感じる。



この後に待ち受ける現実を知らずに、呑気に。




「服屋さん行く前にどこかカフェ行かない?ちょっと気持ち落ち着かせた方がいいでしょ?」

気を利かせてくれるけど、語尾がちょっと笑ってたのは気付かないフリをするべき?!





映画館の地下フロアにあるカフェに入って壁側の席に向かい合って座る。
彰はコーヒー、私はカフェラテを注文した。



映画の余韻がまだ残っている。



「ねえ…もし私が余命宣告をされるくらい大きな病気をしても、最期までそばにいてくれる?」



一瞬、彰の目が泳いで小さくため息をついたように感じたのは気のせいではなかったみたいだ。



「ごめん、別れてほしい…」



突然の予想外な展開に一瞬思考が停止して、次の瞬間には緊張と軽いパニックで身体が小さく震え始めた。



「なん…で…?」



震える声を抑えながらどうにか聞き返す。




「………」



少しの間沈黙が続いてようやく彰が口を開く。




「刈谷さんと付き合ってる」



そんなタイミングでドリンクが届いた。



目の前に出されたカップに目を落とす。カフェラテに描かれたハートのラテアートがいっそう虚しくさせた。
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