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第十四章
入院⑤
しおりを挟む「会社帰りにお父さんが来てくれるから、そしたらお母さんは一度入院の用意しに帰るわね」
「お母さん、スマホ持ってきてほしい……。使ったらダメなのかな?」
「周りの方に迷惑にならなければ使ってもいいそうよ」
「良かった。私の鞄はどこにある?」
「通学鞄のこと?」
「うん」
「そこの棚に入っているけど、持って帰ろうと思ってたわ」
「置いておいて。勉強したいから」
「わかったわ。ただ、病院は消灯時間が決まっているから、遅くまでは起きられないわよ」
「うん」
この病院のお見舞いは20時までになっていて、消灯は21時だ。
父が18時半に病院へやってきた。
「由奈大丈夫か?」
「うん。お父さん早いね」
「ああ。お母さんが入院の準備に帰るって言ってたから、できるだけ早く終わらせてきた」
いつもなら、家に帰って来るのが20時くらいなので無理をしてくれたのだろう。心配をしてくれているのが伝わる。
最近では、父と二人きりになることがあまりないので、少し照れくさい……。
「忙しいのに心配かけてごめんなさい……」
「なんで謝るんだ?由奈は何も悪くないだろう?元気そうで良かったよ」
「うん。すっごく痛くて不安だったけど、起きたら痛みが引いていてよかった」
「由奈の友達が公園にいた人に頼んで、学校に連絡を入れてくれたらしいな。感謝しないとな」
「うん」
痛みの中、公園のベンチに座ったところまでは記憶があるが、それ以降の記憶は曖昧だ。本当に朱里には感謝だ。
母が戻って来るまでの間、ポツリポツリと会話をする。由奈の同級生の中には、父親と会話をしない子も多く、ウザいやキモいと言う子までいる。由奈にとっての父親は、言葉で言い表すのは難しいけれど、『なにか照れくさい』だけで嫌だと思う感情は全くないのだ。ただただ照れくさい……。
母が入院の用意をして戻ってきた。
「はい、スマホ。充電器も入ってるわ」
「ありがとう」
「マナーモードにしておきなさいよ」
「うん」
「入院の付き添いが出来ないから、また明日来るわね」
「うん」
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