手のひらサイズの無限の世界〜初恋と青春は鍵付きで〜

せいとも

文字の大きさ
上 下
60 / 66
第十四章

入院③

しおりを挟む
 近くの総合病院に由奈を乗せた車が到着した時には、病院の入口で由奈の母親が待っていた。

「先生!」
「竹内さん、病院には連絡を入れていますので、このまま僕が抱えて連れて行きます」
「ありがとうございます。由奈大丈夫?」

 痛みで母の声も聞こえていない。受付で名前を告げるとすぐに救急の診察室に案内された。そのまますぐに検査され、母が診察室に呼ばれた。

「先生、由奈の痛みの原因は」
「お母さん落ち着いて下さい。由奈さんは、急性虫垂炎です。まずは一週間ほど入院して抗菌薬で炎症を抑える治療をして、腹腔鏡手術をするか決めましょう」
「虫垂炎……」
「はい。抗菌薬で炎症を抑えても三割ほどが再発するので、状態をみて腹腔鏡手術で虫垂を摘出するか決めましょう」

 医師に一通りの説明を受けて入院手続きをするために、一旦診察室を出ると廊下には先生の姿があった。

「竹内さん、由奈さんは?」
「急性虫垂炎で、抗菌薬治療で一週間ほど入院することに」
「そうですか」
「治療の結果次第で、再度入院して手術の可能性もあるようです」
「そうなんですね……」
「先生方も、テスト前の忙しい時期にご迷惑をお掛けしてすみません」
「いえいえ。テストのことは気にせず、しっかり治療してから元気になって登校してください」
「わかりました。ありがとうございます」

 由奈は初めて入院することになった。

 由奈の母が手続きをして病室にいくと、ベッドに寝て点滴をされている由奈が、先ほどよりも穏やかな顔をして眠っていた。病院に到着した時の痛みは引いているようだ。

 今朝は、少しお腹が痛むと朝食はあまり食べずに出かけたが、まさか虫垂炎だったなんて思いもしていなかった。

 先生からの電話では、仲良しの朱里ちゃんが連絡してくれたと言っていた。朱里ちゃんには迷惑をかけたが、一人の時でなくて本当に良かった。学校から連絡があった時には動転してしまった。命に係わる病気ではなかったが、それでも娘の入院には動揺してしまう。

 夫と娘の由香には連絡を入れているが心配しているだろう。由奈が眠っている間に連絡を入れることにする。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

瑠璃の姫君と鉄黒の騎士

石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。 そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。 突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。 大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。 記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

【完結】月夜のお茶会

佐倉穂波
児童書・童話
 数年に一度開催される「太陽と月の式典」。太陽の国のお姫様ルルは、招待状をもらい月の国で開かれる式典に赴きました。 第2回きずな児童書大賞にエントリーしました。宜しくお願いします。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

処理中です...