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第十二章

文化祭④

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 1組の発表を体育館の舞台裏で聞きながら待機する。

 由奈は、目を閉じ深呼吸して気持ちを落ち着けようと必死だ。そんな由奈の姿を見たクラスメイト達が、笑顔で由奈の肩を代わる代わる『ポンポン』と優しく叩いて励ましてくれる。

 『大丈夫だよ』と言ってくれているのだ。そう、由奈が伴奏だが由奈一人が発表するわけではない。

 クラスメイト達全員でひとつの曲を作り上げるのだ。そんな思いが伝わり由奈の気持ちが一気に軽くなる。ひとりで背負う必要はないのだ。

 1組が終わり、2組が舞台に上がる。由奈は舞台の下にあるピアノの前に立ち、クラスメイト達が舞台に整列する姿を、今度は由奈が励ますつもりでしっかり見守る。

 体育館は、満席でたくさんの保護者の姿が見えた。

 そんな中、ふとある場所で目が留まった。なんと、ひとりで来ると思っていた母の隣には驚くべき人物の姿が……。

「えっ⁇」

 目を見開き、思わず驚きの声が漏れる。ざわさわとした体育館に由奈の声は吸い込まれ、誰にも届いてはいないが動揺が隠せない。

 母の隣には、瑞希の姿があったのだ。

 由奈が驚き動揺している間にも、クラスメイト達が舞台に並び終わっている。その中の何人かが、客席にいる瑞希の姿に気づいたようだ。客席の中には、兄弟が見に来ているのか小学生や高校生の姿もあるのだが、瑞希はとにかく目立っている。イケメンな上に、座っていても他の人とはオーラが違う。

 由奈が椅子に座り、指揮者に合図をして演奏が始まるのだが、早く始めないとクラスメイトに動揺が広がりそうだと、まずは自分自身を落ち着かせ椅子に座った。

 そして、指揮者を見る。

 由奈のクラスの指揮は、同じ吹奏楽部の広野くんが担当している。普段はトロンボーンを担当しているが、音感が正確で安心して任せられると、由奈と朱里が推薦したのだ。彼が引き受けてくれたことで、由奈も安心してピアノを弾くことができるのだ。

 広野と視線を合わせお互いに軽くうなずき合う。そして、広野の視線は舞台に向けられ指揮棒があげられる。
 

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