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第十一章

平和な学校生活②

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「本当にありがとうございました。まだまだ子供だと思っていたのに、スマホを持った途端変わってしまってどうしていいのかわからなかったんです。おふたりが今回先生に話をしてくれていなかったら、どうなっていたか……」

 母親の話を聞いていた美雪も、頭を下げながら泣いている。

「沢井さん達にも話をしたんだけれど、あちらの親御さんは髪を染めようが遅く帰ろうが、何とも思っていないらしく、娘の自由にさせてくれということだったの。もちろん、中学校で髪を染めるのは禁止だしそこは守ってもらう。今回は、藤井さんがグループを抜けることに関しては、今後一切何かを言ったり絡んだりはしないと約束はしてもらったのよ」

 沢井さんとは絵理香のことで、真鍋先生は美雪が抜けたあとも、いじめなどがないようにしっかり対応してくれたのだろう。

 由奈、朱里、美雪も、真鍋先生からこれ以上の真実を知らされることがなかったのだが、真鍋が絵里香から実際に言われた言葉は、『元から美雪に興味がない』だった。絵里香の中では、美雪が勝手についてきていたから一緒にいたたけの感覚だったのだ。

「藤井さんも、ご両親と相談してスマホを解約して当分持たないと言っているわ」
「もう、いらない……」

 美雪も一人で悩んでツライ日々を過ごしていたのだろう。

 手のひらサイズの機械の向こうに広がる無限の世界――。その現実を目の当たりにした。
 
 先生達からはスマホの使い方について、改めて各クラスで話し合うが、美雪のことは知っている人のなかで話を留めておくようだ。

 心機一転学校生活を始める美雪を、好奇の目にさらすことなく見守りたいと学年の先生で意見が一致したのだ。

 絵理香達次第では、状況が変わるかもしれないが、由奈達も美雪とは小学校の時と変わらない友達関係を続けようと思えた。

 心配していた美雪のことが、丸く収まって心から安堵する。

 関わりたくないと、あの時真鍋先生に話をしに行かなければ、あとで後悔していただろう。


◇◇◇

 美雪の話を書いた交換ノートを瑞希に渡して数日後、由奈の元に返事が返ってきた。

『由奈ちゃんへ

 藤井さんのこと、心から良かったと思えました。
 助けてのSOSを先生に伝えられたこと、由奈ちゃんを尊敬します。
 見て見ぬふりは簡単だけど、一歩踏み出す勇気は相当な覚悟がいると思います。
 僕も由奈ちゃんを見習わなきゃ。
 
 イルカのキーホルダーとシャーペンを見るたびに、水族館楽しかったなぁと思い出しています。
 二学期も忙しいけれど、会えるといいな。
 瑞希』

 瑞希からの言葉が、誰から言われる言葉よりも嬉しい。

 先生にも美雪にも美雪の母にもお礼を言われたが、瑞希の言葉が一番心に響く。この瞬間、二学期に入ってからの出来事が、すべて正しかったのだと思えると同時に安堵した。

 改めて、友達や周りの環境の大切さを知る。まだ学校という狭い世界の中で生活をしているだけなのに、色んな問題にぶち当たる。これが高校、大学、社会に出るともっと複雑になっていくのだろう。

 今は、中学生らしくありたい。背伸びをしなくてもいい。今の由奈にとっては朱里の存在が大きいのだ。

 そして、瑞希の存在も――。

 
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