手のひらサイズの無限の世界〜初恋と青春は鍵付きで〜

せいとも

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第十章

夏休み明けの騒動③

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 先生を呼んでもらうだけで緊張したが、これからのことを思うと余計に緊張がます。

「うまく伝えられるかな?」
「これ以上放っておけないよね」
「うん」

 ずっと疑問だった美雪の本心を聞いてしまったのだ。助けてあげたい。

「竹内さんと北川さん、ふたり揃ってどうしたの?」

 真鍋先生が出てきて不思議な顔をしている。日頃から関りがある生徒の中でも、品行方正なふたりが担任ではない自分に、何の用事があるのかわからないのだろう。

「先生……相談が」
「助けて」
「へ⁈」

 ふたりの真剣な様子に、驚きながらも頷いてくれる。

「ちょっと待っててくれる?会議室の鍵を取って来るわ」
「「はい」」

 返事を聞き慌てて職員室に戻って行った。そして、すぐに鍵を持って戻ってきてくれたのだ。

「行きましょう」

 職員室の斜め前にある扉の鍵を開けて電気をつけて中に入る。閉め切って蒸し暑い会議室のエアコンを入れて、窓際の席に三人は座った。

「どうしたの?何があったの?」
「先生、藤井さんのことなんです」
「え⁈」

 由奈や朱里に悩みがあると思っていたのか、美雪の名前を言われて先生が驚いている。ふたりは知るよしもないが、職員室では先程まで学年の先生達で今後のことが話し合われていたのだ。

「藤井さん、美雪って言っているので美雪でいいですか?」
「ええ」
「美雪、小学校の時は真面目で目立たない存在だったんです」
「小学校の先生にもお聞きしたわ」

 すでに、小学校の先生と連携されているのだろう。

「小学校の卒業式の日に、スマホの連絡先を交換したのがきっかけなんです……」

 この状況になるまでの、由奈と朱里の知っている情報と、ふたりから見た今の状況を順を追って話した。真鍋先生は、何も言わずに聞いてくれている。

 そして、先程の美雪からのSOSまで――。

 あれがなかったら、このまま知らないふりをしていたし関わっていなかったのだ。美雪自身が今の状況から抜け出したいと思っていることが、一番重要なのだ。

 
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