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第十章

夏休み明けの騒動②

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 『どうしようもない』と言った、美雪の悲痛な叫びが胸に突き刺さる。

 そして、靴箱を抜けたところで。美雪親子とすれ違った時だった――。

「タスケテ……」

 小さな声だったが、由奈と朱里にはハッキリ聞こえた。

 美雪からのSOSが――。

 関わらない方がいいと思っていた。

 無理をしているように見えたが、美雪が自ら選んだ道だから美雪が良ければいいと思っていた。

 けれど――。

 小さいながらも由奈達に発したSOSは限界だったのだろう。

 美雪親子が帰って行く後ろ姿に胸が締め付けられる。

 「朱里ちゃん、私達に何ができると思う?」
 「本音を知ってしまった以上、見て見ぬふりはできないよね」
 「どうしよう……」

 瑞希に相談したらなんとアドバイスしてくれるだろう。でも今は相談する時間の猶予はなさそうだ。

 「とりあえず先生のところに行ってみる?」
 「どの先生?」
 「あー、それも大事だいじだよね。学年主任だといきなり大事おおごとになりそうだし……」
 「担任は……」

 由奈達の担任が悪いわけでも、頼りないわけでもないのだが、若い男性で女子の揉めごとを相談するには向いていないと思ったのだ。

「真鍋先生は?」
「あっ、いいかも」

 真鍋先生は、一年生全体をサポートしてくれている三十代前半の女の先生で、生徒達から信頼されている。

 ふたりは早速職員室に向かった。

 悪いことをしていなくても、職員室に入るのは勇気がいる。全学年の先生が集まっている空間は独特の雰囲気だ。しかも、明日からのテストに向け入室はできない。

 深呼吸をして顔を見合わせ頷き合う。

 『コンコン』

 扉をノックすると、入口に一番近い席の若い女の先生が出てきた。二年生の先生であまり関りがなく名前が思い出せない。

「どうしたの?なにかあった?」

 すでに生徒は下校している時間で、数人の図書室利用者しかいないが、そろそろ図書室も閉まる時間だ。

「あの~、真鍋先生いますか?」
「真鍋先生?ちょっと待ってね」

 職員室の中に入って行った。扉が一旦閉まった瞬間ふたりは『ふぅ』と息を吐きだす。


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