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第九章

初デート⁇⑦

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「気にしたら気になるのかな……。僕は持っていないことよりも、持ってしまってなにか自分じゃ解決できないことに巻き込まれたり、知らずに人を傷つけたりする方が怖くて」

 これだけしっかりした考えを持つ瑞希なら、きっとスマホ持ってもきちんと使えるだろうが、本人が望んでいない。

「最初のグループメッセージで使い方を考えるいい機会になったと思ってるの。学校内でもちょこちょこスマホで揉めた話を聞くから、気をつけてる」
「そうだね」

 交換ノートで相談もしているが、言葉で伝えないと伝わらないこともある。こうして直接話をして瑞希の意見を聞けることは本当に貴重だ。

 スマホ上のメッセージでも、文字だと感情がわからない。同じ文字の羅列でも、ただ伝えているだけなのか感情が入っているのかわからない時がある。悪気がなく書いた言葉でも、相手を怒らせてしまうこともある。同じメッセージを見ても、見た人によって捉え方は違って本当に難しいと思う。

 電車が水族館の最寄り駅に着き扉が開いた途端、熱風が車内に流れ込んできた。

 話をしていたら楽しくて、電車に乗っている時間がいつもより短く感じるほど、すぐに到着した。夏休み最後の日曜日は、お天気にも恵まれたくさんの人で溢れていた。

「由奈ちゃん、はぐれないように手を繋いでいい?はぐれても僕スマホ持ってないから」
「うん」

 平静を装い返事した由奈だったが、内心ではドキドキと心臓が高鳴っている。瑞希がスマホを持っていないことで、はぐれてしまったら連絡が取れない。瑞希にしたら普通のことかもしれないが、由奈はスマホがないとこんな嬉しいことも起こるのだと驚きと嬉しさを感じている。

 ふたりは手を繋ぎチケットを購入する列に並んだ。少しずつ列が前に進むが待つ時間さえも嬉しく感じる。

 行列に並んで楽しいと思ったことは初めてだ。瑞希といると初めて感じることばかりだ。

 ここの水族館では、中学生までは子供料金になっている。

「こども二枚」
「はい。学生証はお持ちですか?」
「はい」

 瑞希がさっと学生証を出しチケットを二枚購入して列を抜けた。



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