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第九章

初デート⁇④

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「由奈ちゃんお待たせ。遅れてごめん」
「ううん。私も今来たところ」

 返事をしながらも、この数カ月で落ち着いた男らしい声になっていることに驚く。

 由奈は小学校卒業の時には160㎝あり今はほとんど伸びていない。卒業式の時でも由奈よりはかなり高かった身長が、驚くほど伸びている。瑞希と対面した瞬間から驚きしかない。

「今日は空けてくれてありがとう」
「私の方こそ、瑞希くん忙しいのに時間をつくってくれてありがとう」
「何か僕達お礼を言い合っておかしいね」
「プッ、だね」
「じゃあ行こうか」
「うん」

 瑞希の登場から、瑞希のことしか視界に入ってなかったのだが、顔を上げると周りからの視線がたくさん向けられていることに気づいた。

 噴水の前にいた女の子達が瑞希を見ているのだ。一方の瑞希は、普段から見られなれているのか全く気にする様子がない。

「由奈ちゃん切符買うよね?」
「あっ、ICカード持ってる。お母さんがチャージしておいてくれたの」
「そっか、僕も持っているから行こう」

 改札に向かって歩いていても注目されている。

「瑞希くん、視線気にならない?」
「へ⁈由奈ちゃん誰かに見られているの?」
「え⁈瑞希くんを見てるんだよ(まさかの本人は全く気づいていないのだろうか)」
「え⁈気のせいだよ」

 なるほど。瑞希くん本人が全く気づいていないのだとわかった。これだけ見られるのなら無自覚の方がいいのだと思う由奈だった……。

 由奈も気にしないように心掛ける。せっかくの瑞希との一日を周りを気にして終わらせたくない。

 すぐに、水族館方面の電車が来て乗り込んだ。

「宿題終わった?」
「うん、なんとか。毎日朱里ちゃんと頑張ったの。瑞希くんは?」
「僕も。小学校の時とは違って、夏休みの宿題多くて大変だよね」
「本当に。図書館に通ったよ」
「地元の図書館?」
「うん」
「由奈ちゃんや朱里ちゃんが居たの知ってたら僕も行けばよかったな」

 瑞希がさり気なく言った言葉にもきゅんとしてしまう。交換ノートに図書館へ行っていることを書いていたら、本当にきてくれたのだろうか。

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