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第九章
初デート⁇③
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「朝ごはん食べるでしょう?」
「うん」
「顔洗ってきなさい」
「は~い」
母が話題を変えてくれたのがわかった。父も瑞希を知っているし隠す必要はないのだが、この曖昧な関係を説明できないだけだ。
彼女になりたい、付き合いたい思いがないといえば嘘になるが、今のこの関係を壊したくない。交換ノートの距離感が心地よく感じているのだ。
すぐに返って来ない返事に一喜一憂することもない。交換ノートがポストに入れられ手元にきた時の嬉しさは、機械でのやり取りでは得られない価値があるものだ。
たとえ一言でも自筆で書かれた温かい文字は、瑞希を感じることができる。
何ヵ月も会っていない瑞希と会える喜びが時間とともにふくれ上がってくる。
約束の十時まで、長いような早いような……。
ソワソワしていて落ち着かない。そんな由奈の姿を見て「ププッ」と母が何度も笑う。出かける頃には「いいわねぇ。青春だわ」とシミジミと言われた。
悩みに悩んで決めたお気に入りのワンピースにかごバッグを持ち、歩きやすいサンダルを履いて、待ち合わせの三十分前に家を出た。
駅までは十分で着くのだが、瑞希を待たせてはいけないと早くに出た。
初恋の相手と初めての待ち合わせ――。
初めての二人きりの時間――。
そして、卒業以来の再会――。
中学生になり、周りの友達が一気に大人っぽくなった。ランドセルを背負っていた数ヵ月前とは全く違う。
瑞希を見掛けて騒いでいた同級生の言葉を思い出す。背が高くて更にイケメンになっていたと……。
駅に近づくにつれ、胸が躍るわくわく感と手に汗握る緊張感が押し寄せる。
噴水の前は、夏休み最後の休日の午前中だけあってにぎわっていた。これから遊びに出かけると思われる学生達がたくさんいる。
パッと見て、瑞希の姿は見当たらない。人が多いところをさけて瑞希の来る方向に顔を向けた時だった。
見上げるほどの長身で、サラサラの髪をなびかせてこちらに向かってくる男性の姿が目に入った。制服姿の写真を見た時の初々しさはなく、中学生とは思えない大人びた雰囲気のイケメンに驚きが隠せない。
「うん」
「顔洗ってきなさい」
「は~い」
母が話題を変えてくれたのがわかった。父も瑞希を知っているし隠す必要はないのだが、この曖昧な関係を説明できないだけだ。
彼女になりたい、付き合いたい思いがないといえば嘘になるが、今のこの関係を壊したくない。交換ノートの距離感が心地よく感じているのだ。
すぐに返って来ない返事に一喜一憂することもない。交換ノートがポストに入れられ手元にきた時の嬉しさは、機械でのやり取りでは得られない価値があるものだ。
たとえ一言でも自筆で書かれた温かい文字は、瑞希を感じることができる。
何ヵ月も会っていない瑞希と会える喜びが時間とともにふくれ上がってくる。
約束の十時まで、長いような早いような……。
ソワソワしていて落ち着かない。そんな由奈の姿を見て「ププッ」と母が何度も笑う。出かける頃には「いいわねぇ。青春だわ」とシミジミと言われた。
悩みに悩んで決めたお気に入りのワンピースにかごバッグを持ち、歩きやすいサンダルを履いて、待ち合わせの三十分前に家を出た。
駅までは十分で着くのだが、瑞希を待たせてはいけないと早くに出た。
初恋の相手と初めての待ち合わせ――。
初めての二人きりの時間――。
そして、卒業以来の再会――。
中学生になり、周りの友達が一気に大人っぽくなった。ランドセルを背負っていた数ヵ月前とは全く違う。
瑞希を見掛けて騒いでいた同級生の言葉を思い出す。背が高くて更にイケメンになっていたと……。
駅に近づくにつれ、胸が躍るわくわく感と手に汗握る緊張感が押し寄せる。
噴水の前は、夏休み最後の休日の午前中だけあってにぎわっていた。これから遊びに出かけると思われる学生達がたくさんいる。
パッと見て、瑞希の姿は見当たらない。人が多いところをさけて瑞希の来る方向に顔を向けた時だった。
見上げるほどの長身で、サラサラの髪をなびかせてこちらに向かってくる男性の姿が目に入った。制服姿の写真を見た時の初々しさはなく、中学生とは思えない大人びた雰囲気のイケメンに驚きが隠せない。
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