手のひらサイズの無限の世界〜初恋と青春は鍵付きで〜

せいとも

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第二章

春休み③

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 手紙を書き終えると次は住所が必要だ。ボタン1つで送信できるわけではないからだ。

「お母さん、みーくんの住所ってわかる?」
「わかるわよ」
「教えて」

 家が近くても、番地まではわからない。母親同士は、幼稚園から交流が続いているが、子供を連れてのお出かけは幼稚園を卒園して以来はない。

「急にどうしたの?」
「みーくんスマホ持ってないから」
「そういえばみーくんママが言ってたわ。塾用にキッズ携帯を持たせていたけれど、親としか連絡が取れないから、中学入学を機に変更するか聞いたんだって」
「そうなの?」
「うん。そしたら、まだ自分にはきちんと使う自信がないから要らないって」
「……」
「由奈も気をつけなさいよ。特に女の子は揉めごとが多いんだから」
「うん」
 
 すでに、スマホのグループにはうんざりしているとは言えなかった――。

 何度も読み直し、おかしいところがないか確認した。心を込めて書いた手紙だと伝わってほしい。

 住所を書き、切手を貼って封をした。初めての手紙は、あとはポストに投函するだけだ。

 手紙を書き終わるまでもドキドキしたが、今度は郵便ポストまでの道のりに色々と考えてしまう。ボタン1つで瞬時に届くメッセージがどれほど味気ないかを、手紙を書いて知った。

 ポストに投函した時の達成感と高揚感は、きっと一生忘れない思い出になる。

◇◇◇

 一週間後――。

 家に帰ると、母が何やらニヤニヤしている。

「ただいま。お母さんどうしたの?何かいい事あった??」
「いい事は由奈にあったのよ」
「私?」
「そう。はい」

 母から差し出されたのは、一枚の水色の封筒。

 切手はなく住所は書かれていないが、『由奈ちゃんへ』と綺麗な字で書いてある。

 裏を見ると瑞希と差出人の名前が――。

「これって」
「うちのポストに直接入れてくれたのね」
「みーくん」
「良かったわね」

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