手のひらサイズの無限の世界〜初恋と青春は鍵付きで〜

せいとも

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第二章

春休み①

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 卒業式の翌日から、由奈は瑞希宛の手紙を書き始めた。けれど手紙を書いた経験がなく、何を書いていいかわからない……。

 『みーくんへ』と書いては消し、『瑞希くんへ』に書き変えた。

 緊張で手に汗をかく。改めて自分の書いた字を見ると、汚くはないが子供っぽく見える。

 卒業式の後、連絡先を交換した友達にグループに追加され、交流の場に参加した。そこでは、誰にあてたわけでもなく、用事があるわけでもなく、ただ一人が『おはよう』と入れた瞬間から『おはよう』のメッセージが止まらない。

 ピコピコと最初は通知音が嬉しかった。自分も出遅れまいと必死だった。

 けれど――。

 ずっと鳴り続ける。ずっとスマホを見ている。ずっと返信している。

 トイレに行って戻ると通知が100を超えている。メッセージを遡って読んでいると更に更新される通知……。

 全員が毎回返信しているわけではないが、数人はずっとメッセージを入れている。

 そして――。

 一日で、通知音をオフにした。

 瑞希の言葉の意味を改めて実感した。

 瑞希は、この煩わしさを分かっていたのだろう。きっと賢い瑞希のことだから、みんながスマホデビューをした嬉しさで、こうなることを……。

 『おはよう』の挨拶が続いても、全く感情を感じない。ただ単に文字の羅列だ。手紙に向き合ってみて知ることができた。

 心を込めて『こんにちは』と手紙に書いた文字は、温かく見える。

 想いを込めて書いた字は、どんなに汚くても相手には伝わるはずだ。まずは、友達としてこれからも交流したい想いを手紙にしたためる。

 瑞希のことを想いながら書く手紙は、由奈自身の心も温かくしてくれる。この時間はスマホの存在も忘れることができた。

 瑞希を想い伝える素直な言葉――。

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