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第七章

家族の定義④

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 甚大な災害をもたらした台風は関東地方を抜けて温帯低気圧へと変わった。

 ニュースでは台風の被害について報道している。土砂崩れによって孤立した集落に、床上浸水で避難している人達、川が氾濫して家が流されてしまった映像。

 そして――

「未だ救助の続く船の転覆現場では、連絡の取れなくなった潜水士の捜索も同時に行われています。乗員15名は無事に救助され、残り5名が転覆した船に取り残されているとみられ、救助に向かった潜水士3名と連絡が途絶えています」

 今のところ潜水士の名前は公開されていないので私には知るすべがない。居ても立っても居られず、緊急時にと湊翔さんに聞いていた番号に掛けてみた。

「こちら海上保安庁第三管区海上保安部……広田です」

 難しい部署名が続き、電話に出てくれたのが広田さんということはわかった。

「あの、お聞きしたいのですが……」
「どういったご用件でしょうか」
「そちらに勤めている轟湊翔さんの安否確認をしたいのですが」
「失礼ですがお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「近江と申します」
「すみません、轟とはどういったご関係でしょうか」
「……」

 関係――

 籍を入れていない私達は戸籍上赤の他人で、いくら七海の父親が湊翔さんであっても証明することができない。結局親しい友人としか言えなかった。

「申し訳ございませんが、そういった個人的なご質問にはご家族の方にしかお答えできません」

 きっぱりと告げられて電話は切れてしまった。

『家族』という言葉が私に重くのしかかってくる。

 今の私には、湊翔さんの緊急時に何もできないどころか知る権利もないのだ。紙切れ一枚のことでも提出しているかどうかで、大きく変わるのだと実感する。

 どうにかして近藤くんのご両親へ辿り着く方法も考えてみたけれど、騒ぎを大きくするわけにはいかないと断念した。

 湊翔さんから連絡が入るのを待つしかない。

『連絡を待ってます』とだけメッセージを入れた。
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