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第二章

勘違いからの始まり⑩

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 アルコールに酔った勢いで、普段の私なら考えられないくらいに大胆になっていた。

「本気で言ってるのか? 俺の理性を試してるのか?」
「本気だよ?」
「ちょっと待ってて」

 返事を聞いた彼は、私を席に残してどこかへ行ってしまう。いつもの余裕はどこへ行ったのか、慌てている様子だった。彼が帰って来るのを待ちながらも、グラスに残っているビールを飲み干す。これで何杯目だったのだろうなんて、呑気に考えていたのだ。

「行くぞ」
「へ⁉ どこへ?」

 戻って来た彼の気配には全く気づかず、後ろから突然声を掛けられて驚いてしまう。

「帰りたくないって言ったよな? まさか忘れたのか?」
「え? もちろん覚えてるよ」
「良かった。言ってないって言われたらどうしようかと思ったよ」
「人を酔っ払いみたいに!」
「いや、充分酔っ払いだけどな……」

 湊翔さんの力強い腕に引き上げられて、ソファから立ち上がってお店の出口に向かった。そして、お会計をすることなくエレベーターへと乗り込む。
 
 エレベーターは、すぐにどこかの階で止まった。大理石の廊下は輝いていて、さすがに一流なホテルだと納得する。酔いに任せて大胆になっていた私はどこへ行ったのやら、急に緊張してきた。でも、彼と離れたくないと思ったのは事実で……

 扉の前でカードキーを翳す前に、紳士な彼はもう一度確認してくれる――

「部屋に入ったら止める自信はない。本当に後悔しない?」
「うん」

 今、この瞬間を逃したら一生後悔をしそうな気がしたのだ。あとで後悔することがあっても、逃げるよりも体当たりする方がいい。

 私の返事を聞いた瞬間に、部屋へと引き込まれて扉の前で抱きしめられた。そして耳元で囁く声が聞こえてくる。

「凪紗、絶対後悔はさせない。大切にする」
「しょ、初心者なので、お手柔らかにお願いします」
「ふっ」

 優しい笑いが聞こえたあと、突然逞しい腕にお姫様抱っこをされた。幼稚園の頃、父にしてもらって以来。父の思い出と重なる。でも、もちろん父ではなく、立派な大人の男性。
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