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第十五章

一生に一度の瞬間⑧

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「凛花、乾杯」
「乾杯」

 口当たりの良いシャンパンを飲みながら、運ばれて来た前菜をいただく。シャンパンにも夜景にも料理にも、そして蒼空さんにも酔いそうだ。

 私達の食事のスピードに合わせて運ばれてくる料理は、どれも美味しくて初めて食べる物も多い。

 美味しい食事にシャンパンも進んでしまうけれど、いつもなら酔っていいと言う蒼空さんから思わぬ言葉が掛けられた。

「凛花、そろそろアルコールはおしまい」
「へ?」
「今日は、凛花に酔われたら困るんだ」
「なにかあるの?」
「それは食事が終わってからな」
「うん……」

 そこからはノンアルコールのカクテルで料理を楽しんだ。

 テーブルの上は全て片づけられて、あとはデザートを待つばかり。

 ウェイターさんが、銀製のクローシュを被せた皿をワゴンで運んできた。中が見えないわくわく感に胸が躍る。コーヒーを淹れてくれている間も、クローシュの中が気になった。

 クローシュを開けて出て行くものだと思っていたけれど、なぜかそのまま出て行ってしまう。
 
「何か忘れ物をされたのかな?」

 私の質問に無言で首を横に振った蒼空さんが、ゆっくりと立ち上がってクローシュに手を添えた。そして、私の目を見ながらクローシュを開けたのだ。

 薔薇のように飾られたフルーツのケーキの上に、『Will you marry me?』と書いたプレートが乗っている。

「……」
「凛花、返事はくれないのか?」

 返事がしたくても、驚きすぎて言葉がでない。そして代わりに涙が溢れる。気持ちを精一杯伝えるべく、首を何度も縦に振った。

「左手を出して」

 言われるがままに手を出すと、ポケットから小さい箱を取り出して、左手の薬指に指輪をはめてくれた。驚くほど大きな一粒ダイアが輝いている。

「婚約指輪だ。結婚指輪は一緒に選ぼう」
「ありがとう。よろしくお願いします」

 せっかくのケーキも喉を通りそうにない。蒼空さんがケーキを部屋に運んでもらうように頼んで、私達はいつもの部屋に戻った。

 輝く夜景よりも輝いている指輪が夢ではないと主張している――

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