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第十二章

彼の正体⑧

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「まさか親父が倒れるとは思っていなかったから、まだクラウドフラップにいるつもりだったんだ」
「えっ、じゃあ」
「親父も復帰できる目途がたったからすぐに辞めるつもりはないが、期限をつける時が来てしまったようだ。あと半年が限度だな」
「……」

 きっと、轟課長も蒼空さんの事情を知っているから、戻ってくるか聞いていたのだとわかった。蒼空さんが、今回急に休んでも仕事が上手く回ったのは、普段から引継ぎができるように準備していたからかも知れない。
 
「俺には、一歳下に妹がいるんだ」
「ええっ!」

 初めて聞く事実に驚く。

「妹は中学から大学まで女子校に通っていたから、あまり知られていなかった。俺の周りで知ってるのは大介くらいだ」
「妹さんは今でもご実家に?」
「ああ。職場も片桐で受付をしているし、今も母のサポートをしてくれている」
「心強い存在だね」

 私よりも一歳上の蒼空さんの妹はどんな人なのだろうか。

 蒼空さんの家族に認められるかが、一番の不安材料だ。

「それと以前から俺は、片桐の経営にも携わっていたんだ」
「ええ⁉」
「羽田社長も了承済みだから大丈夫だ」
「いえ、そっちじゃなくて、どこにそんな時間が?」
「遊ぶ時間がなかっただけで、仕事をする時間はたっぷりあった」

 時間があっても普通の人なら、二つの会社の仕事をこなすなんて技はできないだろう。しかも、どちらの会社の規模も大きく立場的にも上なのだ。やはり、高校の時からずば抜けていると思っていたのは間違いではなかった。バスケ部の部長として仕切っていたのも納得できる。

「だから、親父が復帰するまでは片桐で仕事するつもりで、羽田社長にも連絡を入れておいた」
「轟課長も心配していたよ」
「凛花から今の状況を説明しておいてもらえないか? 昌磨になら知られてマズイことは何もない」
「わかった」

 突然知ることになった彼氏の正体に、まだ戸惑いが大きくすべてを受け入れられたわけではないのが現状だ。

 ただ、一つゆるぎないことは、蒼空さんから離れる選択肢が、今の私にはない。ということは、何としても実家に認めてもらうしかないのだ。

「俺は、凛花との将来を考えている。ただ、今の流れでこれ以上の話はしない。凛花の今後にも影響することだから、少し考えておいてくれないか?」
「うん」

 きっと、蒼空さんのことだから私のことも考えてくれている。私の想像を絶するほどの実家だったけれど、蒼空さんが蒼空さんであることには変わりない。私が長年見てきた蒼空さんには違いないのだ。

 つき合い始めてから、初めて会えない日が数日続いて、改めてお互いの存在の大きさを確かめ合う期間になった。長い間、ただの先輩後輩で上司と部下の関係だったことが、今では信じられない。

 翌朝まで、身体を重ねて愛し合い濃厚な時間を過ごした。

 そして、午前中には慌ただしく実家に戻った蒼空さんを見送ったのだ。

 一週間ほどだとわかっていても、離れ難くて寂しい。

 蒼空さんも同じ気持ちなのか、玄関を出るまで何度も抱きしめて、何度もキスが下りてきた。

 新しい未来に向けて、私達は動き出す時が来たのだ――



 
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