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第十章
公認の仲⑥
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小春がはっきりと言ってくれても、全然響いていない。久しぶりの女子会は、隣の席を気にしながらの会話で、限られた話しかできずに盛り上がれない。
珍しく食事の途中でスマホを取り出した小春が、私に意味ありげな視線を向けてくる。小春がテーブルにスマホを置いたタイミングで、私のスマホが震えた。
『食事が終わったら場所を変えない?』
一行だけのシンプルな文章に頷いて答えた。まさか、場所を変えてもついてくるなんてことはないだろう。
結局、美味しいイタリアンもあまり味わえずに食べ終えた。
「行こう」
「うん」
私達が席を立ったのを見て、またしても隣から声が掛かった。
「もう帰るの? 俺達ももうすぐ食べ終わるから、一緒に飲みに行かない?」
「結構です」
振り切るように席を立って、レジでお会計をしてもらった。そして、店を出たところで二人して溜息を漏らす。
「はぁ~。何なのあの人達」
「全く話できなかったね」
「うん。どうする?」
「アルコールはもういいから、SAKURAのカフェでお茶しない? 空いている店に行くよりも、人目があって安心する」
「そうだね。私、初めて入るよ」
蒼空さんに連れて来てもらう前の私なら、SAKURAに入るのは敷居が高くて選択肢にはなかったけれど、エントランスの横にあるラウンジは宿泊客でなくても気軽に利用できると教えてもらっていた。しかも、今日は蒼空さんもSAKURA内にいると思うと、先ほどまでの不安は薄れる。
少し緊張している小春を連れて、SAKURAに足を踏み入れた。エントランスは、今日も着飾ている人達で溢れている。
「す、すごい……」
「だよね。私も蒼空さんに初めて連れて来てもらったときには驚いたよ」
「片桐部長は堂々としてそう」
「うん、してた」
「想像通り」
こんな軽いやり取りも、先ほどの店ではできなかった。本当に迷惑以外の何ものでもない。
ラウンジも混み合ってはいるけれど、ちょうど数組が席を立つタイミングだったようで、片づけるのを待つだけで案内してもらえた。座り心地の良すぎるソファに腰を掛ける。
「何にする? さっきのお店で、食べた気がしなかったんだけど……」
「だよね。本当に迷惑」
「私、このデザートプレートとドリンクにしようかな」
「私も」
珍しく食事の途中でスマホを取り出した小春が、私に意味ありげな視線を向けてくる。小春がテーブルにスマホを置いたタイミングで、私のスマホが震えた。
『食事が終わったら場所を変えない?』
一行だけのシンプルな文章に頷いて答えた。まさか、場所を変えてもついてくるなんてことはないだろう。
結局、美味しいイタリアンもあまり味わえずに食べ終えた。
「行こう」
「うん」
私達が席を立ったのを見て、またしても隣から声が掛かった。
「もう帰るの? 俺達ももうすぐ食べ終わるから、一緒に飲みに行かない?」
「結構です」
振り切るように席を立って、レジでお会計をしてもらった。そして、店を出たところで二人して溜息を漏らす。
「はぁ~。何なのあの人達」
「全く話できなかったね」
「うん。どうする?」
「アルコールはもういいから、SAKURAのカフェでお茶しない? 空いている店に行くよりも、人目があって安心する」
「そうだね。私、初めて入るよ」
蒼空さんに連れて来てもらう前の私なら、SAKURAに入るのは敷居が高くて選択肢にはなかったけれど、エントランスの横にあるラウンジは宿泊客でなくても気軽に利用できると教えてもらっていた。しかも、今日は蒼空さんもSAKURA内にいると思うと、先ほどまでの不安は薄れる。
少し緊張している小春を連れて、SAKURAに足を踏み入れた。エントランスは、今日も着飾ている人達で溢れている。
「す、すごい……」
「だよね。私も蒼空さんに初めて連れて来てもらったときには驚いたよ」
「片桐部長は堂々としてそう」
「うん、してた」
「想像通り」
こんな軽いやり取りも、先ほどの店ではできなかった。本当に迷惑以外の何ものでもない。
ラウンジも混み合ってはいるけれど、ちょうど数組が席を立つタイミングだったようで、片づけるのを待つだけで案内してもらえた。座り心地の良すぎるソファに腰を掛ける。
「何にする? さっきのお店で、食べた気がしなかったんだけど……」
「だよね。本当に迷惑」
「私、このデザートプレートとドリンクにしようかな」
「私も」
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