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第八章

嫉妬が向けられる④

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 証拠もないのに、二人を呼び出して問い詰めるわけにもいかないので、様子をみることになった。オフィス内にいる限りは、轟課長や蒼空さんがいるし、小春や他の人の目もある。できるだけ一人にはならないようにと言われたが、オフィス内で一人になる機会はそうそうないので大丈夫だ。

 と油断していた――

 この話をした翌朝、いつもより三十分早くマンションを出る。

「あれー、凛花先輩早いですね」
「ええっ⁉ 梨乃ちゃんいつからここに?」
「今ですよ」
「ウソ……」
「先輩ひどーい。梨乃が先輩を待ち伏せしてたみたいな言い方じゃないですか?」

 ひどいと言われても、いつもより三十分も早く出たのに、偶然と言われても信じられるわけがない。

「毎朝会うのがおかしいのに、早く出て偶然会ったとは思えないでしょう?」
「凛花先輩鈍感だから、気づかないと思ってたー」

 サラッと失礼なことを言われた。

「ここにいつからいるの?」
「はあ? いつからって、片桐部長の出勤時間からに決まってるでしょう? 本当に鈍感」
「ええ⁉」
「そのために近くへ引っ越して来たんだから。そしたら最近になって邪魔者が現れた」
「邪魔者……」
「そうでしょう? 私の片桐部長を誘惑する邪魔者。しかも、林や浜口みたいに片想いの雑魚キャラなら良かったのに、片桐部長がまさかの同棲を始めるなんて」

 すでに、一緒に住んでいることも把握しているようだ。

「林先輩に、一緒に歩いていたことを言ったのって」
「私です~。あの二人は扱いやすかったのに……」

 完全に二人をバカにしている口ぶりだ。しかも、社内でつき纏っているだけの二人に比べて、目の前のストーカーは質が悪い。

「梨乃ちゃんおかしいよ」
「はあ? あんたに言われたくない。私の片桐部長を誘惑して。でも、そろそろ返して」
「……」

 話の通じない相手に、なすすべがない。いつもの梨乃ちゃんと違い、完全に目つきがおかしいのだ。ここをどう切り抜けるべきか必死で考える。マンションに逃げてコンシェルジュに助けを求めるべきか、通勤途中の人に助けを求めるべきなのか。

 けれど、傍から見たら知り合いが話をしているようにしか見えないだろう。



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