俺様上司と複雑な関係〜初恋相手で憧れの先輩〜

第六章

モテる男の彼女⑦

　自分に言い聞かせるように動き出した蒼空さんが、いつもより幼く見えた。いつも完璧な先輩だと思っていた蒼空さんの、意外な一面を少しずつ知ることができる。こんな状況が、未だに信じられないと思う。叶わぬ恋が、突然叶ったのだ。

　仕事モードになると、一気に私が以前から知る蒼空さんに切り替わる。朝食を食べて、テキパキと準備をして、出勤していく姿を見送るのが日課だ。

　オフィスでの服装は、自由で特に決まってはいないが、最近毎日外出する蒼空さんはスーツを着て出かけた。

　蒼空さんは何を着ても似合う。長身で引き締まった身体に、手足が長く顔が小さい。今でも、高校の制服姿の写真を見るたびに、当時を思い出してきゅんきゅんするのだ。そして、大人になった蒼空さんのスーツ姿には萌える。雑誌やテレビのモデルさんよりもカッコイイと思う。

　オフィスでも目立っているが、オフィスビル内でも蒼空さんの存在は有名だと、誰かが言っていた。

　そんなモテモテの、蒼空さんの彼女が私だと知られて、みんな納得するのか不安が尽きない。

　私も出勤する時間になった。一通りの家事を済ませて部屋を出る。

「おはようございます。いってらっしゃいませ」
「おはようございます。いっていきます」

　コンシェルジュの男性と、いつも通りの挨拶を交わしてマンションを出たのだが、突き刺さるような視線を感じた。慌てて周りを見渡したけれど、通りを歩いている人の姿は見えるも、私を見ている人はいない。気のせいだったのだろう。私がここに住んでいることを知っているのは、会社の人では轟課長くらいだ。

　轟課長には会議室で話をした日に、蒼空さんが同棲の事実をサラッと報告したのだ。何かあるとは思っていた課長も、週末にそこまで話が進んでいたことには、驚きを露わにしていた。

　林先輩がいなくなり、平和な日常だと思っていたけれど、まだ何かあるのかも知れない。気をつけるように言われているが、敵の顔が分からない以上、どうすることもできない。そもそも敵がいるのかすら、まだ明確ではないのだから……

「おはようございます」
「「おはようございます」」