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第一章

プロローグ③

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「さっきから驚いてばかりだが、何か質問はあるか?」
「何かって、何もかもが意味がわからないです」
「話は簡単じゃないか。俺が凛花に迫ってる」
「だから、それがおかしいんです。なんで今さら……」
「凛花にとっては今さらかもしれないが、俺にとっては今が絶好のタイミングなんだ。高校の時は、男に媚びることもなくサバサバとしていて、働き者の凛花が気にはなっていたが、部活一色だった。あの時は、全国の頂点に立つことを目標に頑張っていたから、恋愛どころじゃなかった」
「蒼空さんは、モテモテでしたけど……」
「それが嫌だったんだ。人の都合も考えず一方的に気持ちを伝えてきて、断るとヒドイと言われる」
「確かに……」
「大学に入ったら、勉強に忙しくなって、高校に顔を出せなくなってしまった」
「何回か来てくれてたのに、来なくなっちゃって
、みんな残念がってましたよ」
「ずっと凛花には、会いたいと思っていたんだ。だから、この会社に入って凛花がいて驚いたけど、再会できて嬉しかった」
「でも『はじめまして』と言われた時は、すごくショックでしたよ」
「ヘッドハンティングされて入社したのに、入社早々に凛花を口説くわけにはいかなかった……」
「それにしても、知り合いだったことすら忘れたい過去なのかと傷つきました」
「凛花を俺自身が守れる状況にはない中では、知らないふりが一番最善だと思ったんだ。まあ、俺が不甲斐ない言い訳だが……」

 いつも自信に満ち溢れている先輩の、意外な一面を目の当たりにした驚きと、私だけに向けられる熱い視線に、諦めていた恋心が一瞬にして甦る。

「この状況が信じられなくて……」
「凛花の気持ちはわかるが、凛花と毎日顔を合わせるオフィスで、俺以外の男と話をしているだけで、嫉妬するくらい俺も限界なんだ」
「へ!?」
「何を驚いている? 凛花に下心があるやつが山ほどいるだろう?」
「ええっ!? そんな人いませんが」
「凛花が気づいていないから、敢えて誰かは言わないが、いつ凛花に彼氏ができてしまうかと、冷や冷やしていたんだ」

 誰か他人の話を聞かされているような、現実味のない言葉に聞こえる。
 
 初恋相手で、憧れの先輩からの熱い言葉と視線に、私は捕まったも同然だ――。

 
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