149 / 162
第八章 ラグナロク
第149話 それは無理
しおりを挟む
「じゃあ父さん! 行ってくるよ! 町の皆も達者でな」
俺は王都行きの馬車の幌から顔を出し町の皆と一緒に見送ってくれている父さんに手を振った。
久し振りの親子水入らずの模擬戦から一日経った。
昨日は朝飯を喰ったその足で麓の町へ戻り、父さんの居住許可を貰う為に町長の家に行ったが、実はいつ住んでも良いようにと既に登録済みだったんだと。
頼むつもりがよくお父さんを説得してくれたって逆に感謝されちまったぜ。
そう言えば町長も一度誘ったって言ってたな。
俺を村で待つからって理由で断られていたとかなんとか。
そして安心した俺は明くる日、つまり今日だな。
今じゃ領主となったメイガスの待つ旧アメリア王都へ向けて出発したってわけだ。
父さんも町の皆ももっとゆっくりして行けと言っていたけど、下手に三日も寝ちまってたし出来るならその遅れを取り戻したい。
まぁそれは建前で、本音は昨日やりすぎちまった為だ。
本来存在しない筈の夢にまで見た記憶の中の父さんとのガチンコ勝負。
つい嬉しくて力が入り過ぎちまったからよ。
どうやらとんでもねぇ事になりそうなんだと。
俺達の人知を超える戦いが生み出した余波は、麓の町どころか下手したら旧王都まで届いたんじゃねぇかって話だ。
その可能性も考えてわざわざ町とは反対側の麓にある人気の無い盆地で戦ったんだが、それが逆効果だった。
山々に囲まれた盆地なんて戦いの音が反響し増幅し合って木霊として遠くまで広がっちまったらしい。
その音を聞き付けた騎士やら警備隊やらや、数日もしない内に町に押し寄せちまうだろうって事でメイガスに合う前に騒ぎを起こしたくねぇ俺は、その前に逃げ出したってわけ。
んで誤魔化し方だが、聞こえちまった音は仕方がねぇ。
無かった事には出来ねぇしよ。
ただ都合の良い事に町を襲ったドデカイヒドラの死体は郊外に残ったままだ。
父さんの存在は隠したままで、旅の勇者が町を襲ったヒドラを倒した後、すぐに旧王都に向けて出発したって筋書きになってる。
これなら、それを聞いた騎士達が慌てて俺達を追って引き返したとしても、先に旧王都に着く事が出来るだろう。
ちなみにこの馬車の御者もグルなんで途中ですれ違っても適当に誤魔化せるって寸法だ。
「先生のお父さんが生きていて良かったのだ!」
既に見えなくなった町の方角を幌の中からずっと見詰めていた俺にコウメが嬉しそうにそう話して来た。
その笑顔に俺は言葉を失う。
俺はなんて馬鹿なんだ。
思わぬ神の気紛れで、存在しねぇ筈の父さんが俺の記憶の中から飛び出してきた。
そりゃ嬉しかったさ。
本来有り得ねぇ筈なんだが、なんせこの世界を創った神達の仕業だからよ。
今まで俺に対して過酷な仕打ちしかして来なかったもんだから、我を忘れちまっていたぜ。
なんで俺はコウメの前ではしゃいじまったんだ。
『大好きだった父親』と言う存在。
記憶の中だけにしか無かった俺と違って、コウメはその笑顔や手の温もりをまだ忘れる程の時間は経ってねぇんだ。
最近は減って来たが、それでも英雄だった父親の思い出話をする際に目頭に涙が浮かぶ時がいまだに有る。
三年と言う月日は長いようで短いものだ。
思い出と割り切れるにはちと足りねぇ。
特に悲しく辛い思い出なら尚更だ。
俺なんかその悪夢から解放されるのに二十年も掛かっちまったしな。
そんなコウメの前で俺は父さんとの再会を喜んじまった。
コウメはどんな思いで俺と父さんの事を見ていたんだろうか。
その事を想うと胸が締め付けられる。
「す、すまねぇ。コウメ」
俺は絞るような声でコウメに謝った。
もっと気の利いた言葉を掛けてやりてぇが、やっと口から出せたのがこんな情けねぇものだけだったんだ。
目を合わせるのが辛かったが、そこまで逃げてちゃダメだろう。
俺はしっかりとコウメの目を見た。
「先生。謝らないで欲しいのだ」
俺の言葉にコウメは少し寂しそうな顔をして笑いながらそう言って来た。
その眼はとても優しい色をしている。
「け、けどよ……」
「だから謝らないで欲しいのだ。先生のお父さんが生き返って僕もすっごく嬉しいんだから」
コウメはそう言ってにっこりと笑っている。
けど、その目尻にはキラリと光る物が見えた。
よく見ると肩が少し震えている。
言葉では強がっているが、やはり辛いんだろう。
いや、もしかすると今の俺の言葉がその思いを呼び起こしちまったのかもしれねぇ。
「そ、そうだ! 魔族を倒せばもしかしたらコウメの父さんも……」
1stである女媧を倒したから父さんが。
おそらく臨時2ndのクァチル・ウタウスのご褒美で俺の記憶から飛び出した奴は既に何処かに出現している事だろう。
それは母さんなのか、それとも村の他の奴なのか分からねぇが、こればかりは俺のコントロール外なんで知る由もねぇ。
だが、次の魔族を倒した際に出て来て欲しい奴の事を強く願えばコントロール出来るんじゃねぇのか?
ロキもそれぐらいのわがままは聞いてくれても良いだろう。
この世に実際に居た人間を生き返らせる方が、この世に存在しなかった人間を呼び出すよりかは簡単な筈だ。
試す価値は十分有る筈だぜ。
順番待ちしているかもしれねぇ記憶の中の村の奴らにゃ悪いけどよ。
元から居ねぇ人間なんだから許してくれ。
「先生。それは無理なのだ」
俺の考えをコウメはキッパリと否定した。
その表情から笑顔は消え真剣な物に変っている。
「無理って……。なんでそう言い切れるんだ? 俺だって理屈は分かってねぇんだぞ?」
「僕も同じことを考えたのだ。僕が魔族を倒したらお父さんが生き返るんじゃないかって……。けど紋章が『全ては既に決まっている』って言ったのだ」
「既に決まっている……?」
「うん。『だから変更はない』って、だから無理なのだ」
何故かコウメはさっぱりとした顔でそう言った。
『全ては既に決まってる』?
『だから変更はない』?
紋章がそう言っただと?
勇者の紋章って勇者の力の使い方のチュートリアルなんじゃねぇのか?
なんだって、そんな神側の事情を喋りやがる……。
いや、これは神が紋章を通じて俺に対しての連絡事項って奴なんだろう。
下手したらコウメの父親だけじゃなく、俺が殺した村人達を生き返らせろとか言う無茶を願うかもしれねぇから早めに忠告して来たと言う事か。
俺の記憶の中の奴らと違って、死んだ人達には魂が存在する。
魔族の魂を持ってきたとしても、元の魂が有る人達を如何こう出来るもんじゃねぇんだろう。
それが出来るんなら、俺の魂から記憶だけを分離してこちらの世界の魂に移す事だって出来る筈だからな。
デッドストックの魂が有るって事だし、魂の総量なんて問題も無くなる筈だ。
それこそ転生者をどんどん連れて来ても問題無かっただろう。
神の話をどこまで信用出来るかにもよるが、いまだこの世界に転生者は俺だけらしい。
だから魂を持っている奴をご褒美で生き返らせる事は出来ないのかもしれないな。
「それに紋章が教えてくれたのだ。だから僕は悲しくはないのだ!」
急にコウメは嬉しそうに顔を上げて俺を見て来た。
その眼には悲しみの色が浮かんでいない。
キラキラと目を輝かせている。
「教えてくれた? 一体何をだ?」
紋章は何を言ったんだ?
コウメの悲しみが一気に飛ぶような程の喜びをもたらす情報って、神の奴は何を吹き込みやがったんだろうか。
「うん! 紋章は言ったのだ。『ショーンの魂は既に無へと還り次の転生を待っている』って」
「ほぉ~なるほど」
そこまでこの世界のシステム情報を喋って良いのか? と思わなくもねぇが、コウメの悲しみを慰める助けになってくれてるみてぇなんで正直有難ぇぜ。
俺が言っても下手な慰めにもならねぇからな。
「そして、紋章は『その転生先はあなたと現在あなたが先生と慕う殿方との子供です』と言っていたのだ!」
「ぶふぅぅぅぅ!!」
頬を赤らめてこちらを見て来るコウメの言葉に俺は盛大に噴出してしまった。
現在慕ってる殿方ならワンチャン別人の可能性も有るが、『先生』まで付けられちゃ完全に俺名指しじゃねぇか!
俺とコウメの子供を転生先にしただと?
紋章……いや神の野郎! なんて事言いやがる。
そんな嘘……じゃねぇんだろうが、言って良い事と悪い事を弁えやがれ!
コウメの父親を人質に取られたみてぇなもんじゃねぇか!
こんな事言われちゃ断れねぇじゃねぇよ!
これ絶対ロキの仕業だな。
どうせ今も天界から俺が慌てる様を見て喜んでるんだろう。
クソッタレめ!
「あ、あのさ、コウメ? それお前を慰める嘘かもしれねぇぜ?」
「紋章は嘘を吐かないのだ! だから先生! 将来結婚して欲しいのだ!」
「グハッ!」
一応誤魔化そうとしたが、コウメの紋章に対する信頼度を覆す事は出来ねぇ様だ。
くそ~今何を言っても墓穴を掘りそうだな。
『先生は僕を嫌いなの?』とか『お父さんと会いたいのだ』とか泣かれでもしたら終わりだぜ。
そうなったら逃げ道が完全に塞がれちまう。
適当に同意して、時間稼ぎをするしかねぇな。
年頃になりゃ気が変わるかもしれねぇしよ。
何より自分の子供が義理の父親の魂で予約されてるってのは正直勘弁して欲しい。
「落ち着けコウメ。どっちにせよ、まだまだ先の話だ。成人しねぇと結婚出来ねぇからよ。それまで親父さんもあの世で待ってくれるだろ」
と言うか、まだまだ幼いコウメじゃ物理的に子供が出来ねぇしな。
一応コウメもその事は分かっているようで、不満な表情は浮かべていないので安心した。
「やったぁ! 先生から言質を取ったのだ! 絶対約束は守って貰うのだ!!」
そう言ってコウメは抱き付いて来た。
「ぶっ! げ、言質ってお前。なんでそんなに難しい言葉を知っているんだ?」
「お母さんに教えて貰ったのだ! 旅の間に先生に結婚を認めさせなさいって!」
「なっ! レイチェルの奴、なんて事を娘に教えやがるんだ! ハッ! もしかして紋章が言ったってのは……?」
「それは本当なのだ! あと『結婚のお約束を取り次ぐなら今です』って教えて貰ったのだ!」
「紋章まで一緒になってんじゃねぇっての! なんだその紋章。フランク過ぎるだろ最近!」
「うん。前より色々喋ってくれるのだ。これも先生のお陰なのだ」
コウメの言葉通りだろう。
最初は問いかけには答えないとか力の使い方を教えてくれるだけとか言っていたのによ。
ロキの野郎め! 好き勝手設定弄りやがってくそ。
今はただ何も言わずに他に想い人でも出来る事を祈るしかねぇか。
俺は王都行きの馬車の幌から顔を出し町の皆と一緒に見送ってくれている父さんに手を振った。
久し振りの親子水入らずの模擬戦から一日経った。
昨日は朝飯を喰ったその足で麓の町へ戻り、父さんの居住許可を貰う為に町長の家に行ったが、実はいつ住んでも良いようにと既に登録済みだったんだと。
頼むつもりがよくお父さんを説得してくれたって逆に感謝されちまったぜ。
そう言えば町長も一度誘ったって言ってたな。
俺を村で待つからって理由で断られていたとかなんとか。
そして安心した俺は明くる日、つまり今日だな。
今じゃ領主となったメイガスの待つ旧アメリア王都へ向けて出発したってわけだ。
父さんも町の皆ももっとゆっくりして行けと言っていたけど、下手に三日も寝ちまってたし出来るならその遅れを取り戻したい。
まぁそれは建前で、本音は昨日やりすぎちまった為だ。
本来存在しない筈の夢にまで見た記憶の中の父さんとのガチンコ勝負。
つい嬉しくて力が入り過ぎちまったからよ。
どうやらとんでもねぇ事になりそうなんだと。
俺達の人知を超える戦いが生み出した余波は、麓の町どころか下手したら旧王都まで届いたんじゃねぇかって話だ。
その可能性も考えてわざわざ町とは反対側の麓にある人気の無い盆地で戦ったんだが、それが逆効果だった。
山々に囲まれた盆地なんて戦いの音が反響し増幅し合って木霊として遠くまで広がっちまったらしい。
その音を聞き付けた騎士やら警備隊やらや、数日もしない内に町に押し寄せちまうだろうって事でメイガスに合う前に騒ぎを起こしたくねぇ俺は、その前に逃げ出したってわけ。
んで誤魔化し方だが、聞こえちまった音は仕方がねぇ。
無かった事には出来ねぇしよ。
ただ都合の良い事に町を襲ったドデカイヒドラの死体は郊外に残ったままだ。
父さんの存在は隠したままで、旅の勇者が町を襲ったヒドラを倒した後、すぐに旧王都に向けて出発したって筋書きになってる。
これなら、それを聞いた騎士達が慌てて俺達を追って引き返したとしても、先に旧王都に着く事が出来るだろう。
ちなみにこの馬車の御者もグルなんで途中ですれ違っても適当に誤魔化せるって寸法だ。
「先生のお父さんが生きていて良かったのだ!」
既に見えなくなった町の方角を幌の中からずっと見詰めていた俺にコウメが嬉しそうにそう話して来た。
その笑顔に俺は言葉を失う。
俺はなんて馬鹿なんだ。
思わぬ神の気紛れで、存在しねぇ筈の父さんが俺の記憶の中から飛び出してきた。
そりゃ嬉しかったさ。
本来有り得ねぇ筈なんだが、なんせこの世界を創った神達の仕業だからよ。
今まで俺に対して過酷な仕打ちしかして来なかったもんだから、我を忘れちまっていたぜ。
なんで俺はコウメの前ではしゃいじまったんだ。
『大好きだった父親』と言う存在。
記憶の中だけにしか無かった俺と違って、コウメはその笑顔や手の温もりをまだ忘れる程の時間は経ってねぇんだ。
最近は減って来たが、それでも英雄だった父親の思い出話をする際に目頭に涙が浮かぶ時がいまだに有る。
三年と言う月日は長いようで短いものだ。
思い出と割り切れるにはちと足りねぇ。
特に悲しく辛い思い出なら尚更だ。
俺なんかその悪夢から解放されるのに二十年も掛かっちまったしな。
そんなコウメの前で俺は父さんとの再会を喜んじまった。
コウメはどんな思いで俺と父さんの事を見ていたんだろうか。
その事を想うと胸が締め付けられる。
「す、すまねぇ。コウメ」
俺は絞るような声でコウメに謝った。
もっと気の利いた言葉を掛けてやりてぇが、やっと口から出せたのがこんな情けねぇものだけだったんだ。
目を合わせるのが辛かったが、そこまで逃げてちゃダメだろう。
俺はしっかりとコウメの目を見た。
「先生。謝らないで欲しいのだ」
俺の言葉にコウメは少し寂しそうな顔をして笑いながらそう言って来た。
その眼はとても優しい色をしている。
「け、けどよ……」
「だから謝らないで欲しいのだ。先生のお父さんが生き返って僕もすっごく嬉しいんだから」
コウメはそう言ってにっこりと笑っている。
けど、その目尻にはキラリと光る物が見えた。
よく見ると肩が少し震えている。
言葉では強がっているが、やはり辛いんだろう。
いや、もしかすると今の俺の言葉がその思いを呼び起こしちまったのかもしれねぇ。
「そ、そうだ! 魔族を倒せばもしかしたらコウメの父さんも……」
1stである女媧を倒したから父さんが。
おそらく臨時2ndのクァチル・ウタウスのご褒美で俺の記憶から飛び出した奴は既に何処かに出現している事だろう。
それは母さんなのか、それとも村の他の奴なのか分からねぇが、こればかりは俺のコントロール外なんで知る由もねぇ。
だが、次の魔族を倒した際に出て来て欲しい奴の事を強く願えばコントロール出来るんじゃねぇのか?
ロキもそれぐらいのわがままは聞いてくれても良いだろう。
この世に実際に居た人間を生き返らせる方が、この世に存在しなかった人間を呼び出すよりかは簡単な筈だ。
試す価値は十分有る筈だぜ。
順番待ちしているかもしれねぇ記憶の中の村の奴らにゃ悪いけどよ。
元から居ねぇ人間なんだから許してくれ。
「先生。それは無理なのだ」
俺の考えをコウメはキッパリと否定した。
その表情から笑顔は消え真剣な物に変っている。
「無理って……。なんでそう言い切れるんだ? 俺だって理屈は分かってねぇんだぞ?」
「僕も同じことを考えたのだ。僕が魔族を倒したらお父さんが生き返るんじゃないかって……。けど紋章が『全ては既に決まっている』って言ったのだ」
「既に決まっている……?」
「うん。『だから変更はない』って、だから無理なのだ」
何故かコウメはさっぱりとした顔でそう言った。
『全ては既に決まってる』?
『だから変更はない』?
紋章がそう言っただと?
勇者の紋章って勇者の力の使い方のチュートリアルなんじゃねぇのか?
なんだって、そんな神側の事情を喋りやがる……。
いや、これは神が紋章を通じて俺に対しての連絡事項って奴なんだろう。
下手したらコウメの父親だけじゃなく、俺が殺した村人達を生き返らせろとか言う無茶を願うかもしれねぇから早めに忠告して来たと言う事か。
俺の記憶の中の奴らと違って、死んだ人達には魂が存在する。
魔族の魂を持ってきたとしても、元の魂が有る人達を如何こう出来るもんじゃねぇんだろう。
それが出来るんなら、俺の魂から記憶だけを分離してこちらの世界の魂に移す事だって出来る筈だからな。
デッドストックの魂が有るって事だし、魂の総量なんて問題も無くなる筈だ。
それこそ転生者をどんどん連れて来ても問題無かっただろう。
神の話をどこまで信用出来るかにもよるが、いまだこの世界に転生者は俺だけらしい。
だから魂を持っている奴をご褒美で生き返らせる事は出来ないのかもしれないな。
「それに紋章が教えてくれたのだ。だから僕は悲しくはないのだ!」
急にコウメは嬉しそうに顔を上げて俺を見て来た。
その眼には悲しみの色が浮かんでいない。
キラキラと目を輝かせている。
「教えてくれた? 一体何をだ?」
紋章は何を言ったんだ?
コウメの悲しみが一気に飛ぶような程の喜びをもたらす情報って、神の奴は何を吹き込みやがったんだろうか。
「うん! 紋章は言ったのだ。『ショーンの魂は既に無へと還り次の転生を待っている』って」
「ほぉ~なるほど」
そこまでこの世界のシステム情報を喋って良いのか? と思わなくもねぇが、コウメの悲しみを慰める助けになってくれてるみてぇなんで正直有難ぇぜ。
俺が言っても下手な慰めにもならねぇからな。
「そして、紋章は『その転生先はあなたと現在あなたが先生と慕う殿方との子供です』と言っていたのだ!」
「ぶふぅぅぅぅ!!」
頬を赤らめてこちらを見て来るコウメの言葉に俺は盛大に噴出してしまった。
現在慕ってる殿方ならワンチャン別人の可能性も有るが、『先生』まで付けられちゃ完全に俺名指しじゃねぇか!
俺とコウメの子供を転生先にしただと?
紋章……いや神の野郎! なんて事言いやがる。
そんな嘘……じゃねぇんだろうが、言って良い事と悪い事を弁えやがれ!
コウメの父親を人質に取られたみてぇなもんじゃねぇか!
こんな事言われちゃ断れねぇじゃねぇよ!
これ絶対ロキの仕業だな。
どうせ今も天界から俺が慌てる様を見て喜んでるんだろう。
クソッタレめ!
「あ、あのさ、コウメ? それお前を慰める嘘かもしれねぇぜ?」
「紋章は嘘を吐かないのだ! だから先生! 将来結婚して欲しいのだ!」
「グハッ!」
一応誤魔化そうとしたが、コウメの紋章に対する信頼度を覆す事は出来ねぇ様だ。
くそ~今何を言っても墓穴を掘りそうだな。
『先生は僕を嫌いなの?』とか『お父さんと会いたいのだ』とか泣かれでもしたら終わりだぜ。
そうなったら逃げ道が完全に塞がれちまう。
適当に同意して、時間稼ぎをするしかねぇな。
年頃になりゃ気が変わるかもしれねぇしよ。
何より自分の子供が義理の父親の魂で予約されてるってのは正直勘弁して欲しい。
「落ち着けコウメ。どっちにせよ、まだまだ先の話だ。成人しねぇと結婚出来ねぇからよ。それまで親父さんもあの世で待ってくれるだろ」
と言うか、まだまだ幼いコウメじゃ物理的に子供が出来ねぇしな。
一応コウメもその事は分かっているようで、不満な表情は浮かべていないので安心した。
「やったぁ! 先生から言質を取ったのだ! 絶対約束は守って貰うのだ!!」
そう言ってコウメは抱き付いて来た。
「ぶっ! げ、言質ってお前。なんでそんなに難しい言葉を知っているんだ?」
「お母さんに教えて貰ったのだ! 旅の間に先生に結婚を認めさせなさいって!」
「なっ! レイチェルの奴、なんて事を娘に教えやがるんだ! ハッ! もしかして紋章が言ったってのは……?」
「それは本当なのだ! あと『結婚のお約束を取り次ぐなら今です』って教えて貰ったのだ!」
「紋章まで一緒になってんじゃねぇっての! なんだその紋章。フランク過ぎるだろ最近!」
「うん。前より色々喋ってくれるのだ。これも先生のお陰なのだ」
コウメの言葉通りだろう。
最初は問いかけには答えないとか力の使い方を教えてくれるだけとか言っていたのによ。
ロキの野郎め! 好き勝手設定弄りやがってくそ。
今はただ何も言わずに他に想い人でも出来る事を祈るしかねぇか。
0
お気に入りに追加
736
あなたにおすすめの小説
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を
自分の世界へと召喚した。
召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと
願いを託す。
しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、
全く向けられていなかった。
何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、
将来性も期待性もバッチリであったが...
この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。
でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか?
だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を
俺に投げてくる始末。
そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と
罵って蔑ろにしてきやがる...。
元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで
最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
出ようとした瞬間...
「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」
...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。
※小説家になろう様でも掲載しています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる