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第八章 ラグナロク

第140話 勇者

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「さて、どうすっかねぇ~」

 ヒドラとの戦いが終わり、俺に抱き着いて来たコウメをそのまま抱っこしながらポツリと零した。
 俺の視線の先にはコウメが救助した六人の被災者。
 それに町の方からも何やら歓声の声が聞こえている。
 どうやら俺達の戦闘音を聞いて様子を見に来た奴が避難しようとしていた皆に知らせたみたいだな。
 まぁ、それ自体は別に構わねぇよ。
 なんせ避難しなくてよくなったんだ。
 家に戻れるなら早い方がいいさ。

「どうしたのだ?」

 抱っこしているコウメが俺を見上げながらそう聞いて来た。
 俺はそんなコウメの頭をポンポンと優しく叩いてやる。
 コウメはとてもうれしそうだ。

「いや、俺が戦ってる所をガッツリ見られちまったからよ。どうしたもんかなと思っただけさ」

「なんでそう思うのだ?」

 コウメは不思議そうな顔してそう聞いて来た。
 なんでって、そんな今更な事ストレートに聞かれるとは思わなかったぜ。
 ここに来る前にコウメにも事情は話したんだが、やっぱりまだまだお子ちゃまだな。
 難しい話は分からねぇか。

「あのな、この国の奴にとっちゃ俺は大量殺人犯のままだからさ。真相がどうであろうが指名手配が無くなろうが二十四年前の事件を知っている奴にゃ関係無ぇんだよ」

「なら大丈夫なのだ!」

 俺の説明に大丈夫だって?
 そっちこそ大丈夫か?

「何が大丈夫なんだよ」

「この国に居た時の先生はただ少しだけ腕が立つ剣士だったのだ。けど、今の先生は?」

 コウメはにっこりと笑いながら俺にそう聞いて来た。
 俺は一瞬その質問の意図が分からなくて首を捻る。
 今の俺? 今も昔も俺なんだが……?

「もう! 先生は鈍いのだ! 今の先生は勇者の先生で凄腕の魔法使い! ……だけじゃないけど。少しだけ腕の立つ剣士じゃないのだ」

「ハッ!」

 コウメの指摘に俺はまるで雷に打たれたかの様なショックを受けた。
 そうか、この国の奴らは俺の事を剣士としか認識してねぇんだ。
 指名手配書にも魔法使いなんて事は書いてねぇだろう。
 そりゃ当たり前だ。
 実際にその頃の俺は魔法なんて一切使えなかったんだしよ。

「それに昔の先生の事を知っているからこそ、その記憶が邪魔して余計に気付かないと思うのだ!」

「コウメ! お前天才だな!」

 お子ちゃまだなんて思ってすまねぇ!
 俺なんかより余程冷静で賢いじゃねぇか。
 子供ってのは日々成長するんだな。
 その成長が嬉しくも有るが、少し寂しくもあるな。

 ……これが親の気持ちって奴なのかね。
 と言っても、俺の子供じゃねぇんだけどな。

「って、紋章が言ってたのだ。僕には何が何だかさっぱりなのだ」

 ……おい。
 今の紋章の受け売りかい!
 なんかその紋章って最初コウメから聞いた時より存在がファジーになってねぇか?
 確か勇者の力の使い方のチュートリアルみてぇな存在だったろ。
 なに俺の事ぺらぺら喋ってんだよ。
 絶対ロキの仕業だな。
 けど、それを聞いて安心したぜ。

「良かった。お前がお前のままで本当に良かった!」

 俺はそう言ってまだまだお子ちゃまだったコウメの頭をぐりぐりと撫でてやった。
 やっぱりコウメはこうじゃなくちゃな。



「あ、あの……勇者様? それに魔法使い様?」

 コウメを撫でていると後ろから声を掛けられた。
 振り向くと先程コウメが助けた奴らが困った顔をして立っている。
 いまだ砂埃で真っ白のままなんで、なんかとってもシュールな絵面になってるな。
 さっきまで喜んでいたのに何事かと思ったが、なるほど。
 どうやら俺達が自分達を無視して勝手に盛り上がっているのを見て、どうしたら良いのか分からず声を掛けて来たようだ。

「おう、放っといてすまねぇな。あんたら大丈夫だったか?」

 コウメを地面に下ろしながら困った顔した奴らにそう声を掛けた。
 すると皆はやっと気付いてくれたと言う感じに笑顔になり安堵の溜息を吐いてる。
 まぁ、魔物に襲われて死んだと思った時にとんでもねぇ強さの奴が現れて魔物を倒しちまったんだ。
 最初はヒーローが現れて助かったと喜んでいたが、そいつらは仲間内で喋るだけで自分達を無視してるんだから不安にもなるってもんだよな。

「いえ、お陰様で助かりました」

「まぁ災難だったな。家が崩れちまってよ」

 俺はコウメがやったと思われる更地みてぇになっている家の跡を見ながらそう言った。
 しかし、瓦礫は何処に行ったんだ?

 「いえ、命有っての物種ですよ。それに家財道具なら勇者様のお陰であちらに建材と共に並べて頂いておりますし、家の再建も随分マシになると思います。本当にありがとうございました」

 コウメに助けられた六人はそう言って頭を下げて来た。
 途中意味の分からねぇ事を言っていたので、そいつらが頭を下げる前に見ていた目線の先に顔を向ける。

「は? なんだこれ?」

 俺は少し離れた町の外に広がっている光景に目を疑った。
 そこに有ったのはきれいに積まれた元家だったと思われる瓦礫の山。
 そして、その前に並べられている家財道具。
 さすがに無事な物は少なく大半が壊れた家具などだが、修理すればそれなりに使えそうな物もあるようだ。
 それに石やら木材やらの建材も再利用出来るだろう。
 確かに今言っていたようにこれだけきれいに並べられたら再建は比較的楽かもな。

 って、感心してる場合じゃねぇ。
 何がどうなったらこんな事が出来るんだ?

「おい、これはコウメがやったのか?」

 と言うか、それしか考えられねぇ。
 どうやったのかも考えられねぇけどな。
 吹き飛ばしたってんなら分かるが、少し離れた場所に纏めるなんて俺でも出来ねぇぞ?

「勇者の力なのだ! エッヘン」

「勇者の力って言っても何をどうしたら……」

 勇者の力?
 『瓦礫よ。あっちに並べ!』とか言ったら並んでくれるってのか?
 そんな馬鹿な。

「なんたって僕は風の勇者だからなのだ」

 そう言ってコウメは無い胸を張りながら腰に手を当て自慢気にそう言って来た。

 ……は? 風の勇者?
 なんだそりゃ? 全くの初耳だぞ?

「おい、勇者ってのは色んな種類が有るのか?」

「先生……、さすがにそれは常識なのだ……」

 コウメが憐れんだ目で俺の事を見てくる。
 少しばかりカチンと来たがここはグッと堪えよう。
 俺も大人だしな。
 初対面の時みてぇに怒って泣かせるのはみっともねぇぜ。

「あのな、だから言っただろ? 俺はそう言う有名人的な奴らから離れて生きて来たんだってよ。しかしコウメが風って事は、他に火とか水とか居るのか?」

 そう言や必殺技の『雷光疾風斬』が物語ってるように、コウメの勇者魔法は雷と風関係が多い気がする。
 纏ってる力に触ると感電するしよ。
 陰陽五行で言や木気に当たる属性。
 特に勇者の力は光の精霊力、即ち陰陽の陽側の力だ。
 それのお陰で陰側の土気使いである『城食い』の攻撃を曲がりなりにも凌げただったな。
 コウメが雷や風を使い慣れてるって訳じゃなくて、それしか使えなかったって事か。

「そうなのだ! 火の勇者のコトリちゃんとは仲良しなのだ」

 ……火の勇者のコトリ?
 おいおい名前被ってんじゃねぇか。
 もしかして、勇者って全員頭文字が『コ』の三文字名ってんじゃねぇだろうな?
 はぁ、また厄介な後付け設定が出て来やがったぜ。

「まぁいいや。けど、そう言われるとなるほどな。世の中に複数の勇者が居る理由ってのがやっと分かったぜ」

 神が任命するってのになんで同時代に複数勇者が居るのかと思っていたが、要するに属性毎に勇者が存在するって事か。
 コウメは風でコトリってのが火で四大元素を思い浮かべるが、別に四大元素の数って訳じゃねんだろう。
 かと言って陰陽五行って訳でもねぇ。
 なんせこの世界には俺が知っているだけでも現在五人以上の勇者が居るんだからよ。
 まぁ属性のダブりがいるなら知らねぇが、変な属性の奴も居るのかもな。
 それより、その内全員に会いそうな気がして頭が痛いぜ。

「んで、風の力でどうやったらあんな事が出来るんだ?」

「それは簡単なのだ! 風の精霊にお願いして運んで貰うのだ。石だけ~とか家具だけ~とか、そんな感じでお願いするとそれだけを運んでくれるのだ」

 …………。

 普通に力技だな。
 すげぇのはすげぇんだが、もっと……なんと言うか、こうバーーンやらドーーンって感じに……、ってこの表現じゃチコリーと同じレベルじゃねぇか。
 だが、瓦礫の下の人を助けるにはかなり使える技なのは確かだ。
 風の力で浮かせてるんだろうし、
 色々と応用が利きそうだし、覚えておいて損はないだろう。

「そうだ。人間はダメなのか? 飛行魔法とかに使えそうだが」

 この世界には空を飛ぶ魔法は存在しない。
 俺でさえ魔力を振り絞ろうとも空を飛ぶ事は出来なかった。
 けど精霊の力でそんな事が出来るんなら、応用すれば飛べそうだ。

「う~ん、それは無理なのだ。風で人を吹き飛ばす事は出来るけど、鳥みたいには飛べないのだ。なんでも精霊は直接生物に触れない……な、なんか精霊の力が生物の魔力にかんしょう? するとか……よく分からないけどダメみたいなのだ」

「ふ~ん、精霊が生物の魔力に干渉ねぇ。原理は分からんがそりゃ残念だな。折角飛べると思ったんだが……。まぁいいや。コウメ、今度教えてくれ。飛べなくても何気に便利そうだ」

「分かったのだ!!」

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