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第七章 帰郷

第124話 マブダチ

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「あれ? なんか知らん奴が居るぞ?」

 三人娘による説教地獄から生還した俺は、教会に戻ると言うレイチェルと別れ、一人湯浴みを終えて食堂に到着したのだが、そのテーブルには知らない人間が四人居た。
 男性一人に女性が三人。
 全員年齢は俺の一回りは下ってとこか?
 男性はダイスと同じ位の年齢の様だな。
 他のはもっと若い。
 と言っても姫さんよりは上って感じか。

 あぁ、なるほど。
 上座に居る国王の右手、俺から見ると左側に座っている男は、恐らく現在この国の実権を握っていると言う王子なのだろう。
 そしてその横に座っているのが王子妃なんだろうな。
 だって国王の右側にある空席のその隣に座っている知らない女性二人と顔が似てねぇしよ。
 んで、その二人が国王から伝え聞いていた姫さんの姉達って事ね。
 国王の隣の空席が王妃様の席だと思うが何で居ないんだろう?
 もしかして死に別れたかのか? 今まで一切話に挙がらなかったしな。
 まぁ、そんな事はこの際どうでもいいか。

 それより、なんだこの地獄の様なシチュエーション!!

 国王は仕方ないとして、姫さんだけでもきついってのに、なんで国王一家と食事しなけりゃならねぇんだよ!

「あらあら、申し訳ありません。遅れてしまいましたわ。あぁ、あなたがソォータさんね。うふふふふ~、娘からお話は聞いておりますのよ」

 って、王妃さん遅れてただけかよ!
 マジで一家勢揃いじゃねぇか!
 ちなみに今この場に居るのは国王夫婦に王子夫婦、それに姫さん含めた三姉妹。
 あとは先輩と王子親娘……王子が二人も居るとややこしいな。
 もうヴァレンさんで統一しようか。
 それより、先輩は元々この国の王族なんだから、実はその娘の嬢ちゃん除く王族全員が一堂に会してるってか?
 ……勘弁してくれ。
 ちなみにダイスは食事会を辞退して許嫁の元に帰ったって言うし、コウメはレイチェルと一緒に今は教会だ。
 レイチェルがコウメ一人残していくのは心配だと言って連れてっちまった。

「これはこれは王妃様、ご機嫌麗しゅう……」

 取りあえず挨拶されたし無難に返しとくか。
 姫さんから何聞いたかは知らねぇが、あまり王族達の印象に残らねぇようにしねぇと。

「まぁ、他人行儀ね。臣下の者も居ないプライベートな食事会なのだから、もっと肩の力を抜いて良いですわよ」

 ははははは、そりゃ他人ですし、臣下の者が居ようが居まいがプライベートなんて関係有りませんよ。

 そもそも、王族から肩の力抜けと言われて抜く奴が居るかっての!

 なんだ、このフランクな感じは。
 例えると彼女の実家に遊びに行った時の無理矢理なフレンドリー感って言うのに似てるぜ。
 いや、そんな経験無いけどよ。
 多分そんな感じ。

 こりゃ嫌な予感しかしねぇ。
 どうにかして早く逃げねぇと取り返しのつかない事になりそうだ。

「いやはや、ご戯れを。この場において私など場違いも甚だしいので、お暇いたしますよ……」

 と言って、さりげなく部屋から出ようとしたら王妃様に腕を掴まれてしまった。
 振り解くのは簡単だが、怪我させたら洒落にならないので大人しく立ち止まるしかねぇや。

「あらあら、何を言ってなさるの? 今日の主賓はあなたですわよ」

「ぶふぅぅぅぅーーー」

 な、なんだそれは!
 どう言う事だと国王に目を向けると、一国の国王とあろう者が俺に対して手を合わせてゴメンって仕草をしてやがった。
 姫さんはと言うと何やら悪い顔してニマニマ笑ってる。
 
 ハ、ハメられた!
 これ楽しいお食事会ってのじゃなくて、親族一同への顔見せの会って奴じゃねぇのか?

 いや、ちょっと待て。
 俺の正体を知っている国王が、創国の伝説になぞらえて娘と結婚させようとするのは百歩譲って分かるんだが、それ以外の姫さんの母親や兄である王子さんは、こんなどこの馬の骨やら知らねぇおっさんを王家入りさせようなんて考えねぇだろ。
 なんたって姫さんとは倍も年齢が違うしな。
 王子さんも年上の弟なんて嫌だろ。
 主賓ってのも娘を更生させてくれたお礼って事かも知れねぇ。

 ……あっ! もしかして国王の奴、俺の正体を喋っちまったのか?
 ゴメンの意味は喋ったって事に対しての謝罪なんじゃ?

「も、もしかして国王……?」

「ち、違うぞ。儂は喋っておらん」

 俺が言いたい事を察した国王が必死に弁解して来る。
 さっき謝ってたじゃねぇか。
 しかし、『儂は』って事は姫さんか?

「いえ、私も先生の事はお慕い申していると母上やお兄様にお伝えしておりましたが、それ以外は何も言ってはおりませんわ」

 いや、お慕い申してるとか言ってる事自体が既にアウトなのだが、俺の正体については喋ってないって事か。
 それに俺の正体についてはついさっきまで知らなかったみてぇだしな。
 んじゃ、これはどう言うこった?

「いや~、弟よ。最初マリアンヌからおぬしの事を愛していると聞いた時は、可愛い妹を誑かせた罪で縛り首にでもしてやろうと思っておったのだよ」

「色々ツッコミどころが多くてどこからツッコんだらだらいいんだよ!」

 あまりの王子さんのツッコミどころ満載な発言に思わず声に出して叫んでしまった。
 この部屋には近衛騎士も居ねぇから取り押さえられる事はねぇだろうが、かなり不敬な事だよな。
 いかんいかん、最近身近に王族が居過ぎてちょっとマヒしてしまってるぜ。

 まず『弟』って言うパワーワード!

 ない! これはない! っての!
 勘違いじゃなく完全に王家入りを企んでるの確定どころか既に済んじまってる程滑らかに『弟』と言いやがった!

 次に姫さんも、なに自分の兄に恋愛話をしてやがるんだ。
 自分が兄だったらと思うと、妹から突然おっさんを愛してるなんて言われたら絶対嫌だわ。
 その後の縛り首にしてやりたいって気持ち痛い程分かるぜ!

 どっちかと言うと、そのまま怒って俺を捕らえ様としてくれた方が良かった気がするぜ。
 再び逃亡の旅に出るのは嫌ではあるが、前回と違い理由は分かりやすいからな。
 悲壮感の欠片も無ぇ、それなりに愉快な逃亡劇になってただろうさ。
 なにしろこの国の魔族はもう倒したんだし、この世界じゃアメリア王国の次に安全地帯と言えるだろうし、安心してこの国から出て行けるってもんだ。
 まぁ、ギルドの奴らにゃ悪いとは思うがよ。

「はっはっはっ。良い反応だ。いやはや、伝説の使徒が我が王国に住んでいたとは驚きだ。しかもそれが弟になるとは人生とは分からぬものよな」

「おほほほほ~。そうですわね~、私実家でも姉妹しか居ませんでしたので、男姉弟は初めてですわ~」

 王子さんもだが、その嫁もかなりぶっ飛んでるな。
 しかし、今王子さんは俺の事を『伝説の使徒』って言いやがった。

「王子様? なんでそれを知っているんですか? やっぱり国王? それとも姫様か?」

「ち、違うと言っておろうに。原因はさっきの模擬戦じゃよ」

「模擬戦? あっ! もしかして姫様みたいにどっかで見てたってのか? 国王! 人払いの約束をしてたじゃないですか!」

「だ、だから違うのだ。はっきり言うとな、おぬしら皆やり過ぎたのだよ。最初の爆発もさる事ながらその後も闘技場の結界に相当な負荷を掛ける戦いをしておったろう。幾ら消音や魔力障壁の結界とは言え、あそこまでの戦いなど想定して設計されておらん」

 た、確かに……。
 正直な話、俺抜きにしてもこの大陸にダイスほどの剣士や先輩達みたいな魔術師がどれほど居るんだって話だ。
 それが全員集まってドンパチするなんて戦争でもねぇ限り有り得んだろ。
 更に勇者であるコウメも本気の本気だったしな。
 戦闘では飛び道具と化した雷光疾風斬が乱れ飛んたんだ。
 現に闘技場の結界が悲鳴を上げていたしよ。
 だが、それと王子さんが知っている事とどう言う関係が有るんだ?

「はっはっはっ。正直驚いたぞ。王宮に突如正体不明の地鳴りが響いてな。魔族や女神までもが姿を現すこのご時世なのだ。又もや国の一大事かと思い調べさせたのだよ。するとその出所が闘技場と言うではないか。しかも父上の国王特権で立ち入り禁止となっているなどと、怪しい事この上の無い状況。国政を取り仕切る立場の者として確認せざるを得まい。だから王族特権で無理矢理入ったのだよ」

「げげっ! い、いや、だからと言って俺が使徒ってのは分からない筈。どうやって知ったんですか?」

「いや、なに簡単な推理だ。我が国に魔族を打ち滅ぼした者が居る。しかもそれが使徒だと言うのは女神からの言葉で判明している。それと共に突如この国で噂になった者が居る。先のシュトルンベルク襲撃の功労者である英雄ダイス並びに冒険者達の教導者、しかもその者は我が妹を一夜にしてダンスの達人へと育て上げたのだ。並みの者ではあるまいよ。ならば、目の前で英雄ダイスと我が国最強の魔術師達を子供扱いし、あまつさえ本気の勇者相手に戦いながら指導しているその者こそ、その『神の使徒』である証左と言えよう」

 うわっ! こいつ馬鹿だと思ったら、ちゃんと考えていやがる。
 そう言えばこの国の王子って隠居した国王に代わって善政を敷いているって話だったっけ。
 俺がこの国を気に入っている理由でもあったな。
 このバカのお陰と言うのは癪だがそれは見掛けだけと言う訳か?
 
「それにお主が自分で『使徒だ、使徒だ』と言っておったしな。はっはっはっ」

「だーーーしまったぁぁぁ!!」

「分かったかの? 全部自業自得だわい」

「国王! 疑ってすいません!」

 くっそーーー! 周りは姫さん以外皆正体知ってると思ってべらべらしゃべっちまってたぜ!
 なんか最近の俺って気が抜け過ぎてないか?
 長い事報われねぇ事ばかりだったもんで、最近ちやほやされるもんだから遅咲きの中二病患者になっちまってるのかもしれねぇ。
 なんかやっと止まっていた俺の冒険が始まったって自覚が有るしよ。
 やれやれだぜ。

「「では、末永くよろしくお願いします」」

「いや、姫さんのお姉さん方。貴女達とは初対面ですから!! 末永くもなにも有りませんって!!」

 姫の隣の姉二人がとんでもねぇ事を言って頭を下げて来やがった!
 慌てて否定したが二人して首を傾げて不思議そうに見てやがる。
 マジで勘弁してくれっての!

 ……いや、マジでな。

 少しばかり注意しとくか。
 これは笑い事じゃねぇしよ。

「あ~、国王。それに王子様。一つ言っておきます。これは姫さんやヴァレンさん、それに先輩にも言える事なんだが、俺の力をただ利用しようって話なら済まねぇが俺はこの国から今すぐ出て行くぜ」

 そう、ただ俺の力を王家として取り込みたいだけなのなら俺はこの国を見限って、すぐにでも旅に出て行くつもりだ。
 まぁ、俺の価値なんてそんな物しか無いから仕方ねぇんだけどよ。
 さて、国王や王子さんの顔はどんなんだろうな?
 出て行くってので慌てふためいていやがるか?
 折角の計画が~ってな。

「はっはっはっ! 何を言い出すかと思えばそんな事か」

 あ、あれ? 王子さんの奴急に笑い出しやがったぞ?
 国王もまるで困った奴だと言わんばかりの呆れ顔。
 俺なんか変な事言ったか?

「勘違いするな弟よ。妹との交際を認めたのは確かにお前が『神の使徒』であるのは確かだ。しかしそれはお前の力を利用しようとしたからではない。可愛い妹と付き合うにはそれぐらいのが必要だったまで。そこらの木っ端貴族や他国の王族になど元よりやるつもりは無かったしな」

「そうなのだ、ショウタ殿。儂もおぬしを認めたのは使徒だったからじゃない。おぬしの生い立ちの高潔さに心を動かされたから認めたのだよ。神から力を授かりしおぬしが、人と交わりを立ちながらも陰で人助けを行っていた。そして人々の希望である『通りすがりの英雄達』の正体がおぬしだったと言う事を知ったからこそ娘を貰って欲しいと思ったのだ」

 王子と国王は俺に向かってそう語った。
 その目には嘘の色は見えない。
 本心から語っている様に見えた。
 しかし……。

「それに弟よ。神の力を道理無き争うに利用する事が出来ないのは重々承知しているぞ。お前の力はまさに神の力であるのだ。そんな物を私的な理由で取り込むなど天罰が落ちても仕方無い事だろう。王家の者のみなら愚かな行為の責任と諦めもつくが、もし王国全体となろうものなら犠牲となる民達の事を考えると出来る筈も無かろう」

「王子様……」

 王子がとても真剣な顔をして俺にそう言って来た。
 先程までのお茶らけた雰囲気など微塵も無い。
 まさしく国の上に立つ王としての風格を感じさせる。
 と、思って感心していたら、急にニッと笑顔を浮かべた。

「まぁ、いくら神の力だと言って恋愛を否定するものでは無かろう。妹達の純粋な愛は本物だ。これに関しては国など関係無いものだからな。これからもよろしく頼むぞ弟よ」

「き、詭弁だーーーー!!」

 ちょっと感心した俺が馬鹿だったぜ!
 何がよろしく頼むだよ!

「そうですわ、先生。私は純粋にお慕い申しております」
「お、小父様! 私もですの!」

 姫さんとメアリが王子さんの後に続く様に俺に畳みかけて来る。
 な、なんだこれ? もしかして打ち合わせ済みだったのか?

「「よろしく頼みます」」

「いや、だから姫さんのお姉さん方は今の話無関係でしょ?」

「「戦っている姿に一目惚れしました~。ポッ」」

「ポッじゃねぇしって! あーーもうなんだこれーーー」

「安心しろ弟よ。おぬしの秘密は我が王家が力を上げて守り通す。それに表に立たせる真似はせん。もし他国と戦争となろうともな。もしこの禁を破ったら遠慮無くこの国から去って貰っても構わない。そしてその罰は我が一人で受ける。ただ願わくば国民だけは助けて欲しい」

 王子さんはまた真剣な顔に戻るとそう言って俺に頭を下げて来た。
 くそ~この王子さん、馬鹿っぽい癖に侮れねぇ。
 こう言われたら何も言い返せねぇじゃねぇか。

「あ~王子様。全ては魔族。それに魔王を倒してからにしましょう。俺としても全てが終わってからでないと惚れた腫れたなんて事は考える余裕も無いんで」

「うむ、分かっているぞ。使徒殿の歩みを止めるのは神に逆らう行為。全てはこの世界の危機を救ってからの話と言うのは承知している。伝説の英雄王も魔王を封印したから英雄王と呼ばれたのだ。それまで我が国は総力を挙げて協力を惜しまないつもりだ」

 はぁ~、この人全部分かっていやがるのか。
 理屈合戦では勝てそうにないや。
 まぁ、人を食った態度に悔しくも有るが嫌いじゃねぇぜ。

「それじゃ、これからもお願いします」

「う~む弟よ。お前の態度は硬いな。もっとフランクに話し掛けても良いのだぞ?」

「無茶言うなっての!」

「そうそう、そんな感じで頼む。妹達との事はさておき、我は立場的に対等に話せる親友と言う者が居なかったのでな、ずっとほしいと思っていたのだ。ふむ、ならば我もだな。……よし。これからはマブダチで行こうぜ! なぁショウタ!」

「……はぁ、分かった。んじゃよろしく頼むぜ王子さん」
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