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第六章 邂逅

第93話 占い師

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「おいおい、一体どうしたんだよ。なんかこの前と態度違うじゃねぇか?」

 あのまま正門に戻ると色々と注目を浴びそうってんで詰所の裏口から王都に入った俺達。
 なんせ大勢の衛兵にしょっぴかれて行った奴が、衛兵達に見送られ近衛騎士を引き連れて戻ってなんて来たら、目立つなんてもんじゃねぇからな。
 嫌でも普通の奴じゃないって知れ渡っちまうし、それで顔なんか覚えられたら後々厄介だろう。
 裏口から少し迂回してそこから大通りに入る事にした俺達は、人通りがそれほど多くない路地裏を歩いていた。
 俺の後ろでジュリアが相変わらず少しモジモジしながら付いて来る。
 人通りが少ない路地裏とは言え人口密度が高い王都なもんで、それなりに人とすれ違う。
 二日も道無き道を突っ切って来た所為で少しばかり汚れた服を来たおっさんが、近衛騎士の鎧を着てモジモジと顔を赤らめている女性を引き連れて歩いているなんざ目立って仕方が無いだろう。
 道行く人達は皆、変な目で俺達を見て来やがる。
 このまま大通りに出たりしたら変な噂が立っちまうぜ。

 いや、俺ではなくジュリアにな。

 衛兵達から慕われているんだから、それなりに住民にも知名度が有るんだろう。
 現にすれ違った奴らが小声で『え? 今のジュリア様?』みたいに名前を呟いている奴も居たしな。
 こんな汚れたおっさんと噂になんかなったらこいつが可哀想だ。
 なので、まずなぜ先日と態度が変わっちまったのか原因確かめるべくジュリアに聞き込みを開始した。

「え? そ、そんな態度は変わっていないですよ?」

 いやいやいや、なんだよそのしどろもどろの不抜けた顔。
 なんだってんだ? その恋する乙女みたいな顔はよ。
 女性に好かれるのは悪い気はしねぇとは言え、脈絡無さ過ぎて逆に怖いわ。
 特にこいつは会う度に俺に突っかかって来てたもんから余計にな。

「どこがだよ。それに今のこの前みてぇに正装してねぇ薄汚れた格好だしよ。訳分かんねぇぞ」

「……そこがイイ」ボソッ

「え? 今なんて?」

「その薄汚れた姿がとてもワイルドで素敵です」

 俺の少しばかり年季の入ったよれよれ気味の愛用の上着に、お気に入りだったズボンはクァチル・ウタウスの奴に塵にされたってんで同じ店の物を新しく購入したとは言え、この二日の強行軍の所為で既に泥だらけだ。
 この格好がワイルドで素敵?

 …………。

 げぇぇーーー、こいつ汚っさん属性に弱いのかよ!!

 あれか? 今まで周りの男共は騎士やら貴族やらのピシッとした小奇麗な奴等ばっかりだった所為で、汚いおっさんが好みになったとでも言うのか?
 ダメンズか? ダメンズ好きか?
 だから前回の時は普通の対応だったってのか?
 おいおい勘弁してくれよ。

 逆にその性癖で迫られても全く嬉しくねぇっての!

 誰彼構わず汚っさんにアタック掛けてんじゃねぇだろうな?
 なんかこいつの将来が心配だぜ。

「ちょい待ち、ちょい待ち。汚い格好したおっさんをワイルドって言うんもんじゃねぇよ」

「当たり前じゃないですか、ただ汚い格好してればいいと言う物じゃありません。普段は武骨で気難しくそれでいて無頓着だったとしても、時が来れば蛹から蝶へと変わる如くピシッと決めて優雅に振る舞う。そのギャップが良いんですよ。あなたもそれが普段着なのでしょう? それなのに晩餐会の時のあなたは、まるでどこかの貴族のように、あの・・姫様を華麗にエスコートしてみせ、そして周囲の方々に姫様のアレ・・を気付かせない程完璧なリードで踊り、更に長年アレ・・だった姫様をまるで一流のダンサーに仕立て上げる程の完璧な指導者振り。もうドンピシャですよ」

「お、おう……」

 語るな~、すごい熱く語るなぁ~。
 語っている時の目が、メアリの時みたいに少し瞳孔開き気味に目をキラキラさせてやがる。
 これはいわゆるギャップ萌と言う奴か。
 ただ俺は、確かに無頓着ではあるが、別に武骨って事はねぇし気難しい訳でもねぇっての。
 良い様に解釈し過ぎだろ。

 しかし話に出て来た『あの』やら『アレ』やら姫さんに対して酷ぇ言い様だ。
 日頃から鬱憤溜まってるんだろうな。

「あっ、一言言っておきますが、これはあくまで舞台役者に憧れるファンって奴ですからね? あなたと付き合いたいとかそう言う訳じゃありませんので」

「あっ、そう言う……」

 なんか、はっきりと言われてしまった……。
 あぁ、芸能人に憧れるファンの心理ね。
 なんかそれはそれでショックだぜ。
 勝手に告られて勝手に振られた気分。

「だって、あなたには姫様がいますし……だから、それだけです」

 俺がジュリアの言葉にガッカリしていると、ジュリアはどこと無く寂しげな顔をしてそう言った。
 え? その顔でそれってどう言う意味なんだ?
 その言い回し、まるで……?

「って言うか、姫さんなんかいねぇって!」

 思わず力いっぱいツッコんだ。
 俺に姫さんがいるってなんだよ。
 いねぇから、この先永劫。
 そんなもんいたら、俺ののんびり暮らすって夢が適わなくなっちまうだろ。

「え?」

 なんで、そこで少し嬉しそうな顔をしやがるんだジュリア!

 はぁ、なんか最近こんな事ばかりじゃねぇか。
 間違いなく神の仕業だろうが、もう少しバランスを考えろ!
 二十年も女日照りだったもんで、いっぺんに来られても嬉しいより怖さが先に立って対応出来ねぇよ!

「けど、今日出会う方がソォータ殿とは……運命って本当に有るのかも」

 俺が変な事になっている俺の運命に頭を抱えていると、ジュリアがボソッと呟いた。
 なんだ『今日出会う方』って、それに『運命』? なんか聞き捨てならねぇな。

「おい、ジュリア。今のどう言う意味だ? まるで今日誰かに会う事が決められていたみてぇな口振りじゃねぇか?」

「え? いえ、決められていたと言う訳ではじゃなくて、先日辻占い師の方に占って貰ったんですよ」

「占い師?」

 何処の世界でも女性は占いってのが好きなんだな~。
 んで、今日会う人が運命の人とか言われたのかね?
 一日に出会う人間なんて、こんだけあくせく働いているジュリアじゃ、とんでもない人数になるだろ。
 絶対相手見て、職業柄それっぽい事言ったんだろうな。
 『今日出会う旅人が運命の相手』とかよ。

「えぇ。今日、汚れた服を着た中年が出会った瞬間に『お前かよ! 馬鹿野郎!』って言って来たら、それが運命の相手だって言われて……ポッ」

「ブゥゥゥゥ!! ってゲホッ、ゲホッ」

 ポッじゃねぇっての!
 それになんだよその言葉! 占いってレベルじゃねぇぞ! 具体的過ぎるだろ! ピンポイントで俺じゃねぇか!

「だ、大丈夫ですか? ソォータ殿?」

「お前、それ信じたからそんな態度取っていたのか」

「いえ、信じてはいませんでしたが、実際にその格好で言われましたし……」

 まぁ、そうだよな。
 そこまで一致したら、占いなんて信じていねぇ俺でも信じる……、いや違う。
 これ占いじゃなくて予言だわ。
 しかも、確実に神絡みのな!

「いや、そらただの偶然だ。長い人生生きてりゃそんな事よく有るっての」

「え? そ、そうでしょうか?」

「そう言うもんだって。占いは当たるも八卦当たらぬも八卦と言ってな。占い師が適当に言った事を、偶然それっぽく解釈出来る範囲で掠ったら、それが結果だと都合良く解釈しちまうもんなんだよ」

 いや、実際はドンピシャで俺を指しているのだが、このままだと面倒臭い事にしかならねぇので気の所為って事で押し切らせてもらおう。
 ジュリアも首を捻りながらも納得し掛けの顔をしている。
 もう一息だな。
 ここで他の事に気を逸らせば勘違いだったって事で意識が固定されるだろ。

「そんな事より、お前に適当こいた占い師って奴は何処にいるんだ? 会って文句言ってやらないとな」

「いや、文句ってそんな……。う~ん、あの占い師は通り挟んで反対側の路地の脇で占いをしていました」

 よし、今すぐ行って捕まえてやるぜ。
 確実にそいつは神、若しくは少なくともその縁者の筈だ。
 絶対逃さねぇぜ。

「おい! ジュリア! そこに案内してくれ」

「わ、分かりました」

 俺の迫力に圧されながらも、自身も騙されたと思い始めたのかジュリアは大通りに向かって走り出した。

 二十四年前に俺を見捨てて去って行った癖に、今頃になって俺の前に運命として立ち塞がりやがって!
 捕まえて洗いざらい吐かせてやる!

 やっと掴んだ神への手掛かり。
 俺は逸る気持ちを抑えながら案内する為に走り出したジュリアの後を付いて行った。
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