46 / 162
第三章 降臨
第46話 非常事態
しおりを挟む
「よし、想定通りに式は進んでいるな。後はあの質問が来るのを待つだけだ」
俺達の作戦は単純だ。
まずは質疑応答で『女神に認められし聖女か?』等の最終確認をされるのを待つ。
そして、その言葉にメアリは否定の言葉を大司祭に申し上げ、そして神に奇跡の感謝と周囲に勘違いさせた事への謝罪の言葉を声高に叫びながら祈る仕草をするのが合図だ。
それに合わせて俺が、光の柱やら荘厳そうな曲やらのなんか神々しい効果が発動するだけの魔法を広場の周りに設置してある魔法陣から一斉に起動させる。
そして会場が混乱に陥った頃合を見て、祭壇下に設置した特製の魔法陣の出番だ。
それは、他の魔法陣とは違い、教会の女神像を元にして作り上げたこの世界の唯一神である女神クーデリアの姿を空中に投影させると言う特製の魔法陣だ。
なんせ他の自動再生の効果とは異なり、周囲の状況に合わせて動いたり喋ったりと、事細やかに色々操作する必要がある為、少々複雑な構築式を組まねばならず、設置はほぼ徹夜作業となった。
魔法陣の設置と言えば、普通の場合は地面に直接魔法陣を描く必要が有るのだが、俺の場合は女媧との戦いでも行った通り、魔力を込めた足で適当に歩くだけで設置出来る。
とは言え、複数の魔法を同時に発動させて偽女神を演出させる規模の物は簡単にはいかない。
いや、実際は人の目が無ければ作業自体は直ぐに終わるのだが、式の前夜なんてそれこそ準備の最終追い込みで夜中でも人がごった返してやがるもんだから、設営を手伝う振りしながらの魔法陣構築はとても骨が折れる作業だった。
と言うか、これだけ大掛かりな式典の筈なのに準備期間が短過ぎるんだよ!
王子の話では既にメアリは候補として教会に認知されていた様だし、その頃から準備が始まっていたんだろうが、奇跡発動から八日後って急ぎすぎだ。
どれだけ、教会関係者は聖女誕生を待ち侘びていやがったんだ?
まぁそんな感じで、ご登場して頂いた偽女神様がメアリの謝罪の言葉に『汝を許す』と一言喋らせた上で『メアリは聖女じゃない』と宣言させて周囲を納得させる。
とまぁ、これが俺達の立てた『聖女返上作戦』の大まかな内容だ。
単純だけども、こんな魔法を使える奴はこの世界中何処を探しても俺しか居ねぇし、こんな使い方を想像出来る奴も魔法オタクのメアリくらいのものだ。
この教会の司祭達も光の柱で騙されてたし、誰も気付く奴は居ない筈だろう。
何とも罰当たりで馬鹿げた事だが、この世界の人間相手じゃこれ以上効果的な事は無ぇだろ。
神が仕掛けた罠を、神の名を騙って覆してやるぜ。
『汝は、女神の声を聞き、そして認められし聖女なるか?』
おっ? 問題の質問だな。
さて、上手くやれよメアリ。
『いいえ、違います! 私は先日女神の恩寵を受けましたが、声は聞いておりません。あれはあの時あの場、この街全ての方達の祈りの声で発現した奇跡であり、たまたま私が祭壇の前で治癒を行っていた場所に重なっていただけであります』
おぉ、メアリの奴、中々堂に入った演技じゃねぇか。
メアリの言葉に周りが動揺している。
『な、それは真か? し、しかし……』
『本当です。 あの時起きた奇跡は私だけではありません。この街の司祭様とシスター様にもその恩寵は発現されました』
大司祭は、この街の司祭達に目を向けた。
司祭達は『そう言えば』と言う仕草でコクコクと頷いてる。
それは俺が施した浄化と治癒のヤツだな。
メアリ、上手い事言うじゃないか。
これなら奇跡が自分だけじゃなく、あの教会の治癒師全員に恩寵が授けられたと言えるだろう。
あの場の皆も司祭達のはしゃぎ様は見てるしな。
『で、では汝は聖女ではないと?』
『はい、私などか聖女などとおこがましいと何度も申し上げておりましたが、聞き入れて頂けず……』
周囲から『そう言えば』と言う様なメアリの声に同調する声が上がりだした。
『皆様! 申し訳ありません! 私は聖女様ではなく、女神様の一下僕でしかありません。折角この様な場を設けて頂きましたが期待に添える事が出来ません。皆様への謝罪の言葉と共に、あの時女神様が起こして頂いた皆様の祈りの奇跡に対して、私からの感謝の祈りを捧げたいと思います』
メアリの言葉は十四歳の少女から発せられた言葉とは思えない程の迫力を持ち、周囲の者達に有無を言わさない空気を醸し出していた。
メアリが両手を胸の前で重ね合わせ祈る姿勢を取ると、それにつられてその場に居る観客のみならず、王様や大司祭までもが後に続き祈りの姿勢を取った。
「すげぇな……。さすが王家の血を引くメアリだ。その言葉だけで皆を納得させやがった。う~ん、俺必要無ぇんじゃねぇの?」
とは言え、ダメ押しは必要だろう。
かなりの費用を掛けてこの場が設けられたんだ。
今は場の空気に流されていても後で文句を言ってくる奴が出て来てもおかしくない。
「じゃあ、行きますか。インヴォーグ!」
魔法陣に魔力を通し、広場に設置した効果だけの発動魔法を次々に起動させた。
広場一面に光の柱と何か凄そうな効果音、それに元の世界にいる頃に見た映画で流れていた荘厳そうな賛美歌を再現した曲で満たされる。
皆はその奇跡とも思える光景に言葉を失っていた。
この光景はカラクリを知っているメアリや王子達達でさえ、周囲の皆と同じ顔をして、目の前に発動している俺の魔法に見惚れているようだ。
《ヘェ~スゴイスゴイ》
「そうだろ? でもこれで終わりじゃねぇさ」
俺は最終兵器である女神様ご降臨用の魔法陣の起動に取り掛かった。
それにより広場に厳かな女性の声が響き渡る。
『皆の者! この者の言葉は真実である。我は女神クーデリア。先の奇跡はこの街の者全ての願いにより、我が与えた物である』
その言葉と共に祭壇下の魔法陣から光の柱が立ち上り、その中心に女性の姿が浮かび上がる。
その姿はこの世界の住人なら誰でも一度は見た事の有る、この世界を司る女神の像に瓜二つの姿。
今まさにこの広場に居る全ての者が、伝説の中で語られる女神降臨の奇跡を目の当たりにしている。
まぁ、俺の魔法なんだがな。
《ア~、コレハチョットマズイカモ》
「え? なんでだ?」
俺の問い掛けを遮る様に、聞き耳の魔法陣から大司祭の言葉が響いてきた。
『違う! これは女神の御業じゃない! 何者かによる神を騙る悪魔の所業だ!』
「なっ! 何を言い出すんだ、こいつは?」
聞き耳の魔法陣から聞こえて来た大司祭の言葉に俺は絶句した。
窓から下を見ると、大司祭が祭壇の女神を指差しているのが見えた。
「なんでバレた? もしかして事前に計画が漏れていたのか?」
《チガウチガウ。アアミエテモ、カレハダイシサイヨ? ホカノモノトハチガッテ、カミノチカラヲカンジルコトガデキルノヨ》
「なんだよそれ? 聞いてねぇぞ?」
くそ! なんて事だ! 神の力を感じるだ?
大司祭がそんな力を持ってるなんざ想定外だ。
このままじゃ、神を騙った者としてメアリに矛先が行くのが目に見えるじゃねぇか。
「クソっ! どうする? どうしたらいい?」
幾ら考えてもこの非常事態を収めるいい案が浮かばない。
なんならここから飛び出してメアリを連れて何処かに逃げるか?
《ソンナニアノコガダイジナノ?》
「あぁ!」
《ヤケチャウナ》
「そんなんじゃないって! あいつは世話になった人の娘なんだ。それに俺の所為でこんな目に合ってるんだよ!」
そうだ、俺の所為だなんだ。
俺がメアリに全部押し付けちまったんだ。
ここからでもメアリが狼狽えてる姿が見える。
チラチラとこちらを見る目に涙が浮かんでるのが見えた。
ダメだ! すぐに助けに行かなければ!
俺は窓から身を出し、飛び降りようと枠に足を掛けた。
身体ブーストを掛けたら、ここから飛び降りても大丈夫な筈だ。
《ショウガナイナァ。タスケテアゲル。セッカクマタアエタトオモッタノニ。モウサヨナラカァ~》
背後の声がそう言った。
「なっ!」
俺は慌てて振り返る。
しかし、そこには誰も居なかった。
いや、そう言う事じゃない。
俺は今ナニと喋っていたんだ?
何度部屋の中を見回しても誰かが居た痕跡は何も感じられなかった。
今起こった事に、思考が追いつかない。
メアリの非常事態に、今のナニかの声。
なんだ? なんなんだよ一体!
いや、それより今はメアリの事が先決だ!
俺は改めて窓から下を見た。
大司祭はメアリの方を振り向いた。
どうやら問題の標的をメアリに向けようとしている様だ。
ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!
何か、ここから発動出来る魔法は無いか?
そうだ! 浄化の魔法を周囲にかけたら聖なる波動で誤魔化せないか?
いや、それも『神の力』ではないので、奴の神の力を感じると言う力によって見破られるかも知れねぇ。
「やっぱりメアリを連れて逃げるしか無ぇのか……。すまん王子にフォーセリアさん。それに先輩達も」
そう言って俺が窓から飛び降りようとしたその時、広場に発動していた全ての俺の魔法が消えた。
「は? な、なんだ? 俺の魔法が……」
今の今まで目の前で繰り広げられていた光の柱も、荘厳な音楽も、女神の幻影も、全て、全て、全て消えてしまった。
ただ消えただけじゃねぇ、設置してある魔法陣の痕跡さえ全て最初から無かったかの様に何も感じない。
それは広場だけじゃなく、部屋の中に引っ張って来ていた魔法陣も同じく消え失せていた。
俺は解除なんかしていない。
パニックで集中力が切れたとしても、女神の幻影以外の自動再生される魔法達は数時間分の魔力をチャージ済みだ。
何より、魔力切れだとしても魔法陣まで消える訳が無ぇ。
幾ら魔力で構築した魔法陣と言え、俺が気合を入れて設置したんだ。
それを一瞬で痕跡すら残さず全て消す芸当なんて、俺自身でも難しい。
特に混乱している今じゃ不可能だ。
一体誰の仕業だ?
そんな発狂しそうなパニックの中、突然周囲から光が消えた。
そう、時間はいまだ正午過ぎ。
今の今まで太陽が煌々と辺りを照らしていた真っ昼間だった筈。
しかし、世界は闇に包まれた。
俺達の作戦は単純だ。
まずは質疑応答で『女神に認められし聖女か?』等の最終確認をされるのを待つ。
そして、その言葉にメアリは否定の言葉を大司祭に申し上げ、そして神に奇跡の感謝と周囲に勘違いさせた事への謝罪の言葉を声高に叫びながら祈る仕草をするのが合図だ。
それに合わせて俺が、光の柱やら荘厳そうな曲やらのなんか神々しい効果が発動するだけの魔法を広場の周りに設置してある魔法陣から一斉に起動させる。
そして会場が混乱に陥った頃合を見て、祭壇下に設置した特製の魔法陣の出番だ。
それは、他の魔法陣とは違い、教会の女神像を元にして作り上げたこの世界の唯一神である女神クーデリアの姿を空中に投影させると言う特製の魔法陣だ。
なんせ他の自動再生の効果とは異なり、周囲の状況に合わせて動いたり喋ったりと、事細やかに色々操作する必要がある為、少々複雑な構築式を組まねばならず、設置はほぼ徹夜作業となった。
魔法陣の設置と言えば、普通の場合は地面に直接魔法陣を描く必要が有るのだが、俺の場合は女媧との戦いでも行った通り、魔力を込めた足で適当に歩くだけで設置出来る。
とは言え、複数の魔法を同時に発動させて偽女神を演出させる規模の物は簡単にはいかない。
いや、実際は人の目が無ければ作業自体は直ぐに終わるのだが、式の前夜なんてそれこそ準備の最終追い込みで夜中でも人がごった返してやがるもんだから、設営を手伝う振りしながらの魔法陣構築はとても骨が折れる作業だった。
と言うか、これだけ大掛かりな式典の筈なのに準備期間が短過ぎるんだよ!
王子の話では既にメアリは候補として教会に認知されていた様だし、その頃から準備が始まっていたんだろうが、奇跡発動から八日後って急ぎすぎだ。
どれだけ、教会関係者は聖女誕生を待ち侘びていやがったんだ?
まぁそんな感じで、ご登場して頂いた偽女神様がメアリの謝罪の言葉に『汝を許す』と一言喋らせた上で『メアリは聖女じゃない』と宣言させて周囲を納得させる。
とまぁ、これが俺達の立てた『聖女返上作戦』の大まかな内容だ。
単純だけども、こんな魔法を使える奴はこの世界中何処を探しても俺しか居ねぇし、こんな使い方を想像出来る奴も魔法オタクのメアリくらいのものだ。
この教会の司祭達も光の柱で騙されてたし、誰も気付く奴は居ない筈だろう。
何とも罰当たりで馬鹿げた事だが、この世界の人間相手じゃこれ以上効果的な事は無ぇだろ。
神が仕掛けた罠を、神の名を騙って覆してやるぜ。
『汝は、女神の声を聞き、そして認められし聖女なるか?』
おっ? 問題の質問だな。
さて、上手くやれよメアリ。
『いいえ、違います! 私は先日女神の恩寵を受けましたが、声は聞いておりません。あれはあの時あの場、この街全ての方達の祈りの声で発現した奇跡であり、たまたま私が祭壇の前で治癒を行っていた場所に重なっていただけであります』
おぉ、メアリの奴、中々堂に入った演技じゃねぇか。
メアリの言葉に周りが動揺している。
『な、それは真か? し、しかし……』
『本当です。 あの時起きた奇跡は私だけではありません。この街の司祭様とシスター様にもその恩寵は発現されました』
大司祭は、この街の司祭達に目を向けた。
司祭達は『そう言えば』と言う仕草でコクコクと頷いてる。
それは俺が施した浄化と治癒のヤツだな。
メアリ、上手い事言うじゃないか。
これなら奇跡が自分だけじゃなく、あの教会の治癒師全員に恩寵が授けられたと言えるだろう。
あの場の皆も司祭達のはしゃぎ様は見てるしな。
『で、では汝は聖女ではないと?』
『はい、私などか聖女などとおこがましいと何度も申し上げておりましたが、聞き入れて頂けず……』
周囲から『そう言えば』と言う様なメアリの声に同調する声が上がりだした。
『皆様! 申し訳ありません! 私は聖女様ではなく、女神様の一下僕でしかありません。折角この様な場を設けて頂きましたが期待に添える事が出来ません。皆様への謝罪の言葉と共に、あの時女神様が起こして頂いた皆様の祈りの奇跡に対して、私からの感謝の祈りを捧げたいと思います』
メアリの言葉は十四歳の少女から発せられた言葉とは思えない程の迫力を持ち、周囲の者達に有無を言わさない空気を醸し出していた。
メアリが両手を胸の前で重ね合わせ祈る姿勢を取ると、それにつられてその場に居る観客のみならず、王様や大司祭までもが後に続き祈りの姿勢を取った。
「すげぇな……。さすが王家の血を引くメアリだ。その言葉だけで皆を納得させやがった。う~ん、俺必要無ぇんじゃねぇの?」
とは言え、ダメ押しは必要だろう。
かなりの費用を掛けてこの場が設けられたんだ。
今は場の空気に流されていても後で文句を言ってくる奴が出て来てもおかしくない。
「じゃあ、行きますか。インヴォーグ!」
魔法陣に魔力を通し、広場に設置した効果だけの発動魔法を次々に起動させた。
広場一面に光の柱と何か凄そうな効果音、それに元の世界にいる頃に見た映画で流れていた荘厳そうな賛美歌を再現した曲で満たされる。
皆はその奇跡とも思える光景に言葉を失っていた。
この光景はカラクリを知っているメアリや王子達達でさえ、周囲の皆と同じ顔をして、目の前に発動している俺の魔法に見惚れているようだ。
《ヘェ~スゴイスゴイ》
「そうだろ? でもこれで終わりじゃねぇさ」
俺は最終兵器である女神様ご降臨用の魔法陣の起動に取り掛かった。
それにより広場に厳かな女性の声が響き渡る。
『皆の者! この者の言葉は真実である。我は女神クーデリア。先の奇跡はこの街の者全ての願いにより、我が与えた物である』
その言葉と共に祭壇下の魔法陣から光の柱が立ち上り、その中心に女性の姿が浮かび上がる。
その姿はこの世界の住人なら誰でも一度は見た事の有る、この世界を司る女神の像に瓜二つの姿。
今まさにこの広場に居る全ての者が、伝説の中で語られる女神降臨の奇跡を目の当たりにしている。
まぁ、俺の魔法なんだがな。
《ア~、コレハチョットマズイカモ》
「え? なんでだ?」
俺の問い掛けを遮る様に、聞き耳の魔法陣から大司祭の言葉が響いてきた。
『違う! これは女神の御業じゃない! 何者かによる神を騙る悪魔の所業だ!』
「なっ! 何を言い出すんだ、こいつは?」
聞き耳の魔法陣から聞こえて来た大司祭の言葉に俺は絶句した。
窓から下を見ると、大司祭が祭壇の女神を指差しているのが見えた。
「なんでバレた? もしかして事前に計画が漏れていたのか?」
《チガウチガウ。アアミエテモ、カレハダイシサイヨ? ホカノモノトハチガッテ、カミノチカラヲカンジルコトガデキルノヨ》
「なんだよそれ? 聞いてねぇぞ?」
くそ! なんて事だ! 神の力を感じるだ?
大司祭がそんな力を持ってるなんざ想定外だ。
このままじゃ、神を騙った者としてメアリに矛先が行くのが目に見えるじゃねぇか。
「クソっ! どうする? どうしたらいい?」
幾ら考えてもこの非常事態を収めるいい案が浮かばない。
なんならここから飛び出してメアリを連れて何処かに逃げるか?
《ソンナニアノコガダイジナノ?》
「あぁ!」
《ヤケチャウナ》
「そんなんじゃないって! あいつは世話になった人の娘なんだ。それに俺の所為でこんな目に合ってるんだよ!」
そうだ、俺の所為だなんだ。
俺がメアリに全部押し付けちまったんだ。
ここからでもメアリが狼狽えてる姿が見える。
チラチラとこちらを見る目に涙が浮かんでるのが見えた。
ダメだ! すぐに助けに行かなければ!
俺は窓から身を出し、飛び降りようと枠に足を掛けた。
身体ブーストを掛けたら、ここから飛び降りても大丈夫な筈だ。
《ショウガナイナァ。タスケテアゲル。セッカクマタアエタトオモッタノニ。モウサヨナラカァ~》
背後の声がそう言った。
「なっ!」
俺は慌てて振り返る。
しかし、そこには誰も居なかった。
いや、そう言う事じゃない。
俺は今ナニと喋っていたんだ?
何度部屋の中を見回しても誰かが居た痕跡は何も感じられなかった。
今起こった事に、思考が追いつかない。
メアリの非常事態に、今のナニかの声。
なんだ? なんなんだよ一体!
いや、それより今はメアリの事が先決だ!
俺は改めて窓から下を見た。
大司祭はメアリの方を振り向いた。
どうやら問題の標的をメアリに向けようとしている様だ。
ヤバイ! ヤバイ! ヤバイ!
何か、ここから発動出来る魔法は無いか?
そうだ! 浄化の魔法を周囲にかけたら聖なる波動で誤魔化せないか?
いや、それも『神の力』ではないので、奴の神の力を感じると言う力によって見破られるかも知れねぇ。
「やっぱりメアリを連れて逃げるしか無ぇのか……。すまん王子にフォーセリアさん。それに先輩達も」
そう言って俺が窓から飛び降りようとしたその時、広場に発動していた全ての俺の魔法が消えた。
「は? な、なんだ? 俺の魔法が……」
今の今まで目の前で繰り広げられていた光の柱も、荘厳な音楽も、女神の幻影も、全て、全て、全て消えてしまった。
ただ消えただけじゃねぇ、設置してある魔法陣の痕跡さえ全て最初から無かったかの様に何も感じない。
それは広場だけじゃなく、部屋の中に引っ張って来ていた魔法陣も同じく消え失せていた。
俺は解除なんかしていない。
パニックで集中力が切れたとしても、女神の幻影以外の自動再生される魔法達は数時間分の魔力をチャージ済みだ。
何より、魔力切れだとしても魔法陣まで消える訳が無ぇ。
幾ら魔力で構築した魔法陣と言え、俺が気合を入れて設置したんだ。
それを一瞬で痕跡すら残さず全て消す芸当なんて、俺自身でも難しい。
特に混乱している今じゃ不可能だ。
一体誰の仕業だ?
そんな発狂しそうなパニックの中、突然周囲から光が消えた。
そう、時間はいまだ正午過ぎ。
今の今まで太陽が煌々と辺りを照らしていた真っ昼間だった筈。
しかし、世界は闇に包まれた。
0
お気に入りに追加
732
あなたにおすすめの小説
放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます
長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました
★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★
★現在三巻まで絶賛発売中!★
「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」
苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。
トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが――
俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ?
※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる