神のおもちゃのラグナロク 〜おっさんになった転生者は、のんびり暮らす夢を見る。~

やすぴこ

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第三章 降臨

第40話 晩餐会

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「ほうほう、そうかそうか。とうとうショウタも過去の自分に本格的に向き合う事にしたのだな。それは結構な事だ。メイガスも喜ぶだろう」

 次の日、俺と先輩は次なる魔族に繋がる情報が判明したとの王子からの連絡で、この魔法学園に来ていた。
 元々この街は、この国の建国者がここに魔法学園を設立させた事で興った街で有るらしく、様々の設備が魔法学園を基準に設計されており、正門から一直線に通る大通りの一番奥の一等地に建っている。
 外観はちょっとした城の様な豪華な作りで、この国だけからじゃなく他国からも入学する者が居るらしい。
 存在は知っていたが教会同様今まで近寄った事はないな。
 まぁ、教会と違って近寄らない事に特に理由は無かったんだが、おっさんが学校に近寄っても事案にしかなるまい。

「と言っても、今まで通り表に立つ気は無いさ。目立っても面倒事が増えるだけだしな」

 女媧の顛末を話すと驚いていた王子だが、俺が誰かを守る戦いについて考えていると言う事を聞いて喜んでくれた。
 先日も言っていたな、俺が過去に向き合うのを待っていたって。
 王子や先輩に取って、女媧の事もだが俺の事も禍根としてずっと心に残っていた事なのだろう。

「あ~その事だが、俺達の時みたいな突発の緊急事態なら仕方が無いが、何処其処に地竜が現われたから退治してくれ~とか言う依頼を勝手に請けるのは今後止めてくれよ?」

「へ? 先輩知ってたの? それやったの俺だって」

「やっぱりお前の仕業だったのか!」

「カマかけやがったな! で、なんでダメなんだよ」

 この大陸に渡ってすぐにの頃、地竜が現れたって噂を聞いて腕試しがてら退治しに行ったんだよな。
 あの頃は力が目覚めたてで幾つか無茶をしたな。

「あのなぁ~。そう言う討伐依頼はちゃんとギルドを通して依頼と言う形を取って貰わねぇと、冒険者のおまんま食い上げなんだよ。怪物討伐を無償でやる奴が居たら誰も金払って依頼しようと思わなくなるだろ?」

 た、確かに……。
 何か、少し黒いモノを感じるが確かにそうか。
 それを生業にしている者達が冒険者だ。
 魔物が闊歩するこの世界で、誰かの代わりに厄介事を請け負う人間が必要だ。
 誰しもが、怪物共と戦える訳じゃないからな。
 俺が誰かを気紛れで助ける事が有ったって、この世の全てを助ける事など不可能だ。
 なにせ、俺の身体は一つだからよ。
 俺の居ない所には、他の誰かが必要なんだ。
 俺の気紛れ行為によって、そいつらが不利益を受けるのは間違っているな。
 世の中はギブアンドテイク。
 冒険者が各地で頑張っているからこそ、そこそこの平和が成り立っている。
 教導役がそれをぶっ壊してりゃ、世話無いぜ。

「分かったよ。今後は気を付ける。それより王子、判明したっていう魔族の情報を教えてくれ」

「は? あぁ、そうだった、そうだった」

 なんで思い出したって顔をしてやがるんだよ。

「おいおい、王子本来はこれが目的なんだぜ?」

「う、うむ。その事だが、まだ確信には至っておらんのだよ。北に飛びさったと言う光だが、残念ながら目撃情報とか調べても何処に行ったのかの詳細までは分かっておらん」

「まぁ、俺達もあっと言う間の出来事だったし、北の窓から出て行って、そのまま空の彼方に消えていった事しか分からねぇ」

「唯一の手掛かりは街の城壁の上を巡回していた警備兵が、何かが火山の方に飛んでいったのを見たと言うのが有るだけだな。その警備兵は光ではなく白い鳥かなんかだと思っていたそうだ」

 火山? あぁ、そう言えばこの国の北には火山が有ったか。
 大猿の住処が有る森の更に北。
 この国、いやこの大陸の最北端に位置する人外魔境と呼ばれている場所だ。
 ギルドでさえ、その地域の依頼は見た事が無いな。
 俺でさえ、せいぜい大猿の森手前までしか行ったことが無ぇ。
 まぁ、当たり前だ。それより北は何も無い。
 なんと言っても、なんだから……。

 ん? 何処かで聞いた話だ。

「まさか……、其処が?」

「あぁ、私もその考えに至った。恐らくこの国の封印の土地は火山だろう。もしかすると、この街自身アメリア王都と同じ理由で建てられたのかもしれないな」

「じゃあ、今すぐ行って調べるか?」

「いや、今はまだ止めておこう。敵の情報が無さ過ぎる。それに人が近寄らない土地だ。どんな危険が待っているか分からないし、アメリア王国と同じく王による禁足地となっている可能性も有る。下手に進入して犯罪者になりたくもあるまい? もう少し調査が必要だ」

「確かにそうだが、パッと行ってパッと倒しゃ仕舞いじゃないか」

「闇雲に行っても危ないぞ? 今回も危なかったのであろう? それよりガーランドよ。これについてのお前の見解が知りたいが為、今日は来て貰ったのだ。お前なら何か知ってるんじゃないのか?」

 王子が先輩にやけに真剣な顔をして尋ねた。
 何だこの雰囲気? そりゃこの街のギルドマスターだから、ここら辺の事情に詳しいだろうが、そう言う感じでもねぇな?

「いや、すまんが詳しくは知らねぇ。なんせ成人前にこの国から出たからよ。ただ小さい頃、父上……ゲフンゲフン、父から火山にはお化けが居るから近付くなとは言われたな」

 「ふむ、やはりそうか……」

 何で二人共訳有り顔してるんだ?
 ただ単に良くある親子の会話じゃねぇか。
 子供が危ない所に近付かないように『お化けが居るぞ』って言い聞かせるなんてよ。
 俺も現実と記憶だけ、両方の両親から似た様な事を言われて育ったぜ?

「と言う事だ、ショウタよ。なに光の玉がその封印を解くとは限らない。アメリア王国の魔族は私の弟が封印を解いたのだ。神の封印が解かれるには、恐らく別の何かが必要だろう。今暫し時間が有るだろう。もう少し敵の情報を調べるぞ」

 う~ん、言われると確かにそうだ。
 王国での出来事も初めから魔族と言う事が分かっていれば、王子達も俺なんかが居なくても女媧の対抗策に気付いて、倒せていたかもしれない。
 少なくとも、今俺達が持っている女媧の情報が有れば、王国を女媧の好き勝手にされるなんて事は無かった筈だ。
 次の魔族に関しても、伝説に残っている情報から被害を最小限に抑える策が見つかるかもしれねぇな。

「けどよ、一般に伝わって無いって事は王子の所みたいに秘密の話って事だろ? 情報収集って言ってもどうするんだ?」

「魔族に関する文献は、図書館の司書に纏めてもらっている所だ。それと、明日の任命式に先駆けて、本日午後には教会本部からの使者に加え、王都からも王族関係者が式典出席の為にやってくる。その方達を歓迎する晩餐会が今夜開かれる事になっているのだ」

「へぇ~。王族がねぇ? あっ、もしかして直接聞くって事か?」

「あぁ、私も出席する事になっている。それに国王とはちょっとしたコネが有ってな。何とか情報を探ってみる。そうだ、何ならお前も出てみるか?  一人ぐらいなら私の権限でねじ込む事は出来るぞ?」

「え? 俺? いや、止めとくよ。俺が行っても仕方が無いだろ?」

 テーブルマナーや礼儀作法全般については、この世界の母さんにみっちり叩き込まれちゃいるが、俺なんかが王族が来る様な晩餐会に出席しても、情報収集の役には立ちそうに無ぇしな。

「いや、お前はどうせ呼ばれる事になるぜ」

「は? 先輩、何言ってんだ? なんで俺が呼ばれるんだよ」

「英雄候補のダイス筆頭にうちのエース達の活躍は最近この国でも噂になっているからな。その教導役についても他の支部から問い合わせが来てるんだよ」

「げっ! 何だそれ。あいつらは勝手に育っていったんだって。俺のお陰じゃ無ぇよ」

「いやいや、ダイスの奴は事有る毎に、今の自分が有るのはお前のお陰だと、あちこちで吹聴しているらしくてな、受講希望の話がちらほら来てるんだよ。今の所、うちのギルド員限定ってことで突っぱねているがな」

「なっ! あいつベラベラと」

「それに今回の任命式には、先日の件の視察団も来る。ダイスの英雄授与に関して、周辺の聞き取り調査が行われるだろうし、勿論その教導役であるお前にもスポットが当たる事になる。丁度今ダイスは内緒で里帰りしてるから、その代わりに噂の教導役が晩餐会に呼ばれる事は有り得るぜ」

「え? ダイス里帰りしてるのか? なんでだ?」

「そりゃお前、幾ら勘当同然の身だからと言って、王族が他の国の英雄授与なんてぇのは色々と国の間で調整する事が有るんだよ。それにあいつの王家に伝わっている魔族の情報を集めるってのも目的の一つなんだよ」

「そ、そうなのか。王族だから話が早いだろと思っていたが、逆にそう言う面倒臭い事が有ったんだな。う~ん、魔族の件といい、色々と面倒を掛けたな」

 あれから見ないと思っていたらそう言う事だったのか。
 あの日、色々と街を周っていたのは、暫く留守にするからだったんだな。

「あとな、ククク。今回奇跡の秘薬であるエリクサーが使用されたと言う話が広がっていてな。しかも街の危機に対して名誉の負傷をした治癒師に無償で使用した奇特な冒険者が居ると言う事で、王国や教会から何か恩賞をと言う話が上がってるんだよ。どっちにしろ、お前は呼ばれる事を覚悟しといた方がいいぜ」

「グワーーー!! やり過ぎた! せめてハイポーションとか言っとけばよかった!」

「ハイポーションじゃ、それはそれで奇跡になるわ! 聞いている怪我の規模を一瞬で治す薬なんてエリクサーしか存在しねぇよ。まぁ、諦めろ。これも運命だ」

 くそ~! これも運命? 神め! こんな細かい罠まで張っているなんざ、何処まで悪質なんだ!
 かと言って、治癒した事には後悔はしてないがな。

「と言う事で、お前にはこれから行って貰う所が有る」

「え? 何処だよ?」

「ふむ、そうだな。このままじゃあダメだろう」

「「フッフッフッフッ」」

「何二人して笑ってるんだよーーー!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おぉ~似合うじゃないか! 見違えたぞ?」

「くそ~。こんな格好恥ずかしいぜ」

「何を言う、普段のお前の格好の方が恥ずかしいわ!」

 俺はあの後、二人に無理矢理床屋と仕立て屋に連れていかれ、晩餐会に出席する為の最低限の身嗜みとして髪のセットや髭剃り、それに礼服の仕立てを行う羽目になった。
 礼服に関しては、一から仕立てるには時間が無いので、標準品を俺の身体に合わせて仕立て直してくれた。
 一通り慣れぬおしゃれを決め込んで、待ち合わせしていた王子の屋敷に戻り、この辱めを受けている。

「う~む、しかし、お前今年で三八歳だよな? 髪を整えて髭を剃ると見間違えたぞ? 十歳以上は若返った様に見えるな」

「うるさいな! とっちゃん坊やって馬鹿にされるから、威厳保つ為にああ言う格好していたんだよ!」

「いや、あれは威厳感なぞ0%なダメ親父みたいな格好だぞ? 良いではないか。若作りで。私など最近皺や白髪に悩まされているしな」

「これからもその格好で過ごしたらいいんじゃないか?」

「勘弁してくれ。今更そんな事をすると皆に笑われちまうぜ」

 言われる通り、俺は普段ボサボサ頭で無精ひげを生やし、なんとか年相応に見せてはいるが、見た目が相当若い。
 いや、若いんじゃなくて老化が止まっているんじゃないかと錯覚する事が有る。
 実際止まってそうなんだよな。

 あの大消失によって力に目覚めたあの日から。

 怖いんで考えない様にしているが、俺はちゃんと老後をのんびり暮らして、そして静かに老衰死する事が出来るのだろうか?
 神達は俺がずっとこの世界で物語を紡がす為に、老いず死なずな身体にしたとかじゃないだろうな?

 ぶるるっ。

 止めよう。死にたくなってくる。
 そして、それを実行して本当に死なない事を証明したくない。

 バタンッ!

 俺が怖い考えを止めようと思った時に急に扉が開いた。

「小父様が来ているって本当ですの!」

 あぁ、メアリか。教会の務めが終わるのには早くないか?
 そうか、ある意味今日の晩餐会の主役みたいな物だからな、今から準備の為に帰って来たのか。

「ようメアリ!」

「え? 小父様……ですの?」

 俺のこの姿を見てメアリはひどく驚いている。
 くぅ、俺が似合わない格好をしているのはそんなに驚く事なのか?
 ちょっとショックだ。若おっさんと言われたグレンの気持ちが分かったぜ。
 このまま宿屋に帰って不貞寝しようかな……?
 
「きゃぁぁぁぁぁーーー!! とっても素敵ですの!!」

「え? お、おう?」

 突然メアリが叫び声を上げたかと思うと、俺の周りをくるくると回りながら絶賛する言葉を次々と投げ掛けて来る。
 
「とっても似合っていますですの! 格好良いですの!」

「あっ、ありがとうよ」

 どうやら、普段とのギャップが効果倍増したのだろうか?
 多分アレだな。不良が子猫を可愛がっていると実は良い人とか過大評価されるヤツ。
 いわゆるギャップ萌えと言うヤツだろう。
 若い女の子にキャーキャー言って貰うのは、何だかちょっと気分が良いぜ。
 これからも身嗜みは整えてみようか?
 
「むむっ! これはいかんぞ! ガーランドよ!」

「そうだな。これはマズイ! ショウタにはこれからもいつも通りの格好をさせよう」

「おい! 二人共! さっきと言っている事逆じゃねぇか!」

 相変わらず俺の周りをキャッキャとはしゃいでるメアリと、さっきと逆の事を言い出した二人に呆れている俺を尻目に、刻一刻と晩餐会開始時刻が近付いて来るのであった。

「あ~、晩餐会の招待の話、先輩の勘違いであって欲しいぜ」

 と、愚痴を言っても、逆フラグにしかならないんだろうがな。
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