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第三章 降臨

第34話 鑑定

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「では、小父様、当日はお願い致しますの。それでは教会のお勤めに行って参ります。ごきげんようですの」

 先輩の案によって大まかな段取りも決まり、メアリが書き上げた台本を元にした魔法によるイメージの構築と台詞合わせを終えた俺達は、暫しの歓談後、午後から教会のお勤めが有るとの事でメアリは席を立った。

「おう、頑張ってきな。聖女は返上しても治癒師の免許は取っておかないとな。まぁ、俺が言えた義理じゃ無ぇがな」

「ふふふ、はいですの。それではお父様、アンリのお父様もごきげんよう」

 そう言って、メアリはうきうきと足を弾ませながら部屋を出て行った。
 ……はどっちなんだろうな。
 聖女を返上し、好きな相手と結ばれる道が見えて来た事を喜んでいるのか。
 それとも、自分の想い描いた魔法の実演を目の当たりに出来る事なのだろうか。

 フッ、恐らくその両方だろうな。
 何せ、先程メアリの台本に合わせて様々な効果を持たせた発動魔法のお披露目を行った際に、メアリはインスピレーションを刺激されたのか、更なる改良案を次々と提示してきて、それに全て応える俺に満面の笑みを浮かべて興奮していた。

 魔法オタクの面目躍如と言った所か。
 今の彼女は聖女返上計画その物が目的になってしまっているんだろう。
 いいだろう、当日はこんな部屋の中でのデモンストレーションなんかとは比べ物にならん位のド派手な魔法を見せてやるさ。
 
「さて、先輩達。メアリも行った事だし、昨日の話の続きをしよう……か? って、さっきからどうしたんだよ。まだが却下されたのに拗ねてるのか?」

 先程の打ち合わせの際に、メアリが書いてきた台本を見て、自分達も創作意欲が湧いて来たのだろうな。
 アレやコレやと注文を出して来たんだが、まぁ、悪くは無いが……、やはり悲しいかな、いままでの人生経験が無意識で魔法で出来る事の天井を決めてしまっているようだった。
 若い子の感性に比べて、良く言えば保守的、悪く言えば古臭いと言う案が多く、悉くメアリからダメ出しを喰らい、とうとう『お父様達はそこで大人しく見てて頂けますか?』と半ギレの入った冷静な口調で言われてしまい、しゅんと縮こまっていた。

 しかし、メアリよ、語尾はどうした?
 
 けれど、その後はそれなりに機嫌直してメアリが教会に行く時間まで楽しく話していたんだがなぁ?
 そう言えば、たまに俺とメアリが喋っている所を、訝しげな目で見ながら二人でコソコソと話していたのはなんだったんだ?

 あぁ、そんな事より話の途中でとんでもない話題を振って来やがって焦ったぜ。

「それより王子! さっきメアリに直球で『好きな人は居るのか?』なんて話題振るなんて。マジでビックリしたぜ! 俺が喋ったのバレるかと冷や冷やしたんだからな。 俺が聞いておくと言ったんだから任せておいてくれよ」

「い、いや、しかしな……」

「しかも、その後何故か俺の女性問題に話がズレていったもんだから、俺がいい年して結婚どころか、そんな相手さえ居ねぇってのがバレて笑われちまったじゃねぇか! えらい恥かいたぜ、ったくよ」

 俺が『そんな相手居ねぇよ』と言った時のメアリの大袈裟な笑顔。
 『やっぱり』やら『良かった』やら言っていたが、そんな微妙なフォローの様で鋭くディスって来るような言葉を年下に言われちまうなんて、マジで死にたくなるな。

「あれは笑ったんじゃなくて、安堵を……」

「しっ! そこまでだ。ちょっとヴァレウス、耳を貸せ」

 ん? なんだなんだ? また二人してコソコソと話し出したぞ?

『な、なんだ?』ボソボソ
『どう思う?』ボソボソ
『どう思うとは? メアリの想い人の事か?』ボソボソ
『あぁ、まさかと思ったが先程の態度……』ボソボソ
『う~む。信じたくは無いが……』ボソボソ
『逆に安心出来るんじゃねぇかと思うんだ』ボソボソ

「なっ! 許すのかお前!」

『声がでけぇよ! そうじゃねぇ。メアリは先日の件で憧れを抱いたとしても不思議じゃねぇ。アンリにしても出会いが出会いだから心当たりが無い事も無い』ボソボソ
『なるほど。しかし、安心とは? 幾らなんでも歳が離れ過ぎてるし、さすがにコイツと言えど、可愛い娘をやるのは……』ボソボソ
『違う、そうじゃない。こいつは過去の事で女性不信に陥っているからな。この八年間見てきたが、女性からの好意に鈍感で自分から手を出す事もない。所謂ヘタレと言う奴だな』ボソボソ
『ふむ、話が見えて来た。今の状態で下手に刺激しない方が、他に変な虫が付かなくて安心と言う訳か』ボソボソ
『そうだ。それにこう言う憧れは病気みたいなもんだからな。その内コロッと忘れるさ』ボソボソ
『なるほど……では、』ボソボソ


 二人の会話は全く聞こえないが、途中俺の事を激しくディスられた気配を感じたが気のせいか?

「あぁ、すまんすまん。こちらの話は済んだ」

「なんだ話って? まぁいい。取りあえず好きな奴の件は俺が調べとくから待っててくれって」

「その事だが、やはり本人に直接聞くのは良くないな。特にの時とかは絶対に止めておくんだ」

「何だよそれ? さっき自分聞いたくせに」

「変な雰囲気になって告白……ゲフンゲフン。警備隊に告発でもされたら事だろう。昔の知り合いが娘の告発で捕まるなんて心が痛いからな」

「うっ、そうだな。それは洒落にならねぇ」

 ヤバイヤバイ。まさに事案って奴だよな。
 嬢ちゃんなら確実にセクハラ! とか言って殴って来そうだし、メアリなんかも、こんなおっさんが二人きりの時に『好きな人居るの?』なんてしつこく聞いて来たら怖がって泣き出すかも知れねぇわ。
 先輩の忠告有り難く頂いておくぜ。

「でも良いのか? 昨日は焦ってただろ?」

「あっ、ああ。だが、悪い虫が付かないよう監視だけは怠るなよ? アンリも合わせてな」

「分かったよ。しかし、アンリとメアリの名前ってアレだろ? 先輩達が決めたって言っていたが、アメリア王国から取っただろ? 身分を隠していたにしたら安直過ぎねぇか?」

「何を言う! 元々アメリア王国は、建国者が自らの二人の妻であるアンリとメアリから名付けられたと言う、王国にとって由緒正しき名なのだぞ! 伝説にある魔族襲来において、王国を再建すると言う意味を込めて二人に付けたのだ」

 なんと、衝撃の事実。逆って事か。

「あ~。二人の名前から王国を連想したのは、それが語源だったからなのか。なるほどな。しかしさすが王族だ。妃が二人も居るなんてよ」

 羨ましいこって。俺には縁の無い話だわ。
 しかし、嬢ちゃん達が同じ奴を好きになるなんて、これも運命かね。

「何言っているんだ! それを言うなら、お前の偽名こそ……」

「うっ、うるさいな。。発音が違うから良いんだよ。それを言うなら、王子のヴァレンも大概だぜ?」

「い、いやそうではなく……その名は建…国…の……いや、こいつがそれを知っている筈も無いか」ボソッ

「ん? どうしたんだ?」

「いや、なんでもない。それより本題に戻るか。昨日言っていたを見せてくれないか」

 そう言うと王子は真剣な顔をして俺を見詰めてきた。
 『昨日言っていた』とは、女媧から出て来た光の玉の残骸プレートの事だ。

「いきなり真面目モードになるなよ。はいはい、今出すよ」

 俺はそう言って、腰のポーチからプレートを取り出してテーブルの上に置いた。
 昨日は俺への説教が長時間に渡り続いた所為で、放置状態のメアリの事を心配した嬢ちゃんが怒鳴り込んで来た為に、魔族やこのプレートの話は今日に持ち越しとなってしまったんだ。
 あの時『グッジョブ! 嬢ちゃん!』と感謝の言葉を言おうとしたんだが、乱入して来た嬢ちゃんは、俺の正座姿を見るなり『あっ、だから時間が掛かったのね』と言わんばかりの目をしていたので、その言葉を飲み込んだ。

「あぁ、それだそれ。でっ、お前はこの文字が読めるんだよな? 左側三文字はシンプルだが、右のは何処がどうなっているか分からんな」

「こ、古代文字だよ。昔長生きだったエルフの長老に教えて貰ったんだ」

 前世の文字とか言っても通じねぇからな。
 適当に誤魔化すに限る。
 ちなみにエルフの知り合いは居るが、長老なんて言う肩書きの知り合いは勿論居いねぇよ。

「ふ~む、まぁいいか。では鑑定してみるか」

「そうだな。ではやってみよう。神話の時代の遺物なのだ。少しドキドキするな」

 先輩と王子はドキドキしながらプレートを見ている。
 昨日はこのプレートを三人で鑑定しようとした瞬間に嬢ちゃんが乱入してお流れとなったので、今日のこの二人の興味の大半は聖女返上計画の打ち合わせより、このプレートの鑑定なんだろう。
 俺に『絶対先に鑑定するなよ』と誓わせてきやがったしな。
 まぁ気持ちは分からなくもねぇか。
 宿敵の遺品で、更に伝説が実在する証と言う事だしな。

 俺達はテーブルのプレートに向かって一切に鑑定の魔法を唱えた。

「よし鑑定占いの開始だ! 今日も俺が勝ってやるぜ!」

「小癪な! 昨日のだって俺的には勝ちだからな」

「ううむ、リベンジしてやるぞ! 覚悟をしておけショウタよ」

 大の大人が、子供染みた言い合いをしてバカみたいだが、これがこの世界の一般的な魔法使いだ。
 ずっと憧れていたんだが、思った通り楽しいや。
 なんだかんだと一匹狼気取っていたが、俺もやっぱり普通の人だよな。

「「「アナライズ鑑定!!」」」

「「ぐおっ!!」」

「え? どうした?」

 鑑定を唱えた途端、先輩と王子が耳を抑えて呻き声を上げた。

「い、いや、突然頭の中に警報と共にこれに関与する資格を持っていないとか言う声が大音量で流れやがった」

「う~む、今まで色々と鑑定してきたがこんな事は初めてだ。くぅ、まだ頭がガンガンする」

 なっ? なんだそれ? 俺の頭には普通に鑑定結果が流れてきているぞ?
 ちっ、今回の声はジジィだな。
 しかも、村に住んでいたかみなりジジィの声だ。
 イタズラしてよく怒られたと言う嫌な記憶が有るぜ。
 くそっ! 神め! こんな情報を記憶に残す意味あるのか?

「ショウタは普通にしているが、もしかして鑑定出来ているのか?」

「資格が有る者しか鑑定出来ないと言う事なのか……。で、結果はどうなのだ?」

「結果は、『鍵』らしい。あと俺専用アイテムみたいだな。称号が『正太専用』となっている。後はゲッ!『神のギフト効果発動中』だとよ。そのクセ『効果は秘密』とかふざけてるのか?」

 何だよ『神のギフト』って、また『そこそこ強い力』みたいな使えない奴か?
 それに、特に変わったと言う感じなんて無いと思うが?


「「なに!! 『神のギフト』とな?」」

 先輩と王子が『神のギフト』にえらく食い付いてきた。
 絶対先輩達が想像しているような良いもんじゃないと思うがな。
 その後、先輩達は効果を確かめようと俺を鑑定しようとしたが、またもや頭に鳴り響く警告音に頭を抑えていた。
 初めて知ったが、俺に鑑定魔法を掛けるとこうなるみたいだな。
 いや、これが『神のギフト』の効果だったりするのか? なんか微妙過ぎる。

 鳴り響く警告に頭を抱えて苦しんでいる先輩達を見て、ちょっとスカッとした気分になった俺だった。
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