神のおもちゃのラグナロク 〜おっさんになった転生者は、のんびり暮らす夢を見る。~

やすぴこ

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第一章 始動

第2話 面倒臭い予兆

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「あ~久し振りに嫌な夢を見たな。くそっ!」

 長年ねぐらにしている安宿に帰ってきた俺は、半ば俺の部屋と化しているくそ狭い個室に入りベッドへ寝転んだ。
 今はたまたま、居心地が良いこの街に暮らしているだけ。いつでもおさらば出来る様にだらだら過ごすには宿屋で結構。
 と言いながら、もうそろそろ8年は住み着いている事になるのか。
 俺が神に唆されて英雄を目指して4年の月日の後、とある理由で旅に出てから20年、今年で38歳だ。
 ……うん、おっさんだな。
 と言っても、最初から14歳の身体としてこの世界に転生して来たんだから、ある意味真の肉体年齢はまだ24歳と言えるんじゃないか? う~ん厳しいか。
 まぁ、訳有って年齢言うと驚かれるくらいには若く見られるのでまだましか。
 ガキ共にはお見通しみたいだがな。


 神々が古今東西の物語を元に戯れで創ったこの世界。
 魔法科学と言う歪な方向の発展を遂げながら、何故か中世ヨーロッパな世界観、更に古代ローマにエジプト文明、和風に中華に、その他大勢の物語ではあるあるな文化が全てごちゃ混ぜに存在している本当にゲームみたいな馬鹿馬鹿しい世界だ。
 大きな都市に行けば騎士と侍忍者、道士に拳士、他にも歴史の教科書や漫画やアニメで見た様な様々な格好をした冒険者で溢れかえっている。
 あの頃は俺も若かった。そりゃ14歳だもんな。
 何も考えず見るもの全てに感動して大はしゃぎだった。

 最初は《チュートリアルサービスだよ》と言いながら、まるでゲームしている後ろから五月蠅く指示してくる友人の様にあれやこれやと話しかけてきてはいたが、ある日《あっ、しまった! 大変だ》と言う言葉だけ残して何も言わなくなってしまった。

 身寄りの無い14歳が見知らぬ世界で一人放り出され、生きて行くことがどれだけ辛かった事か。
 しかも孤児設定と言う筈なのに、こちらの世界での両親との楽しかった日々の事や、死に別れの悲しみの記憶までしっかりと埋め込まれていたのは悪趣味過ぎるだろう。
 それだけじゃない、《君が生まれ育った村は怪物によって滅ぼされ、君が唯一の生き残り》と言う設定で、この世界の歴史に差し込まれていやがる。
 そう、両親だけじゃない。その村で育った記憶、友達や初恋の女の子、その他諸々この世界で生まれ育った記憶が俺の中に存在していた。
 神が言うには《ある意味現実だよ。君はこの世界で生まれ14歳まで育った歴史はこの世界にちゃんと存在している。だって設定だけだとツッコまれた時に整合性が取れないでしょ?》と言っていたが、生き別れの両親や友人と、死に別れた両親や友人と言う二つの別れの記憶を持っている俺の悲しみは、そのまま二倍になると言う事が分からないのだろうか?
 あぁ、この世界では元の世界には縁が無かった、幼いながらも将来を誓い合った幼馴染なんてのまで居やがった。
 ……悲しみ十倍だ。
 他にも魂の総数とか因果律の関係とか転生前にも聞いた理屈をぐだぐだと言い訳をしていたが、意味が分からないので、取りあえず聞き流して今を楽しもうと思った矢先に消えやがった。
 そんな理不尽な記憶を待たせておきながら、最後の台詞で放置プレイと言うのは、俺の心細さと不安感を最高潮に高めるスパイスとして働いてるのが本当に腹が立つな。
 今ではそれも神々が楽しむ為の演出だったんじゃないのかと思っているくらいだ。
 落として上げるは物語の定番だが、今の所、俺の人生は落ちてばっかりなのは神達が悲劇を好むからじゃないかと確信している。

「今もどこかで俺の事を見て笑っているんだろ? なぁ神様達よ!」

 なんて事を叫んでみたものの、最近では元の世界なんてのは俺の妄想で、神も居らず最初からこの世界の住人だったんじゃないかと思い始めている。
 それだけの年数が経っていた。

 一人になった後の事は思い出したくも無い。
 青臭い英雄への憧れと挫折。そして……、今でもふと俺の心に悔しさと怒りが込み上げてくる。
 逆にそのお陰で、昼間の時の様に大抵の事には寛容になれるようになったのは怪我の功名か?
  いや、ただ単に問題を起こし、俺が『北浜 正太』だとバレるのが怖いだけか。
 さすがに20年も経ったし、そもそもこの大陸までは追って来ないとは思うがね。

 各地を転々と逃げ回りながら一人で生き抜き、なんとかこの大陸に渡って、この街に辿り着いた。
 そんな俺が今じゃ『チュートリアル』と呼ばれているのは最高の皮肉だな。
 ギルドのマスターが俺の過去を知っていたのには肝を冷やしたが、あの悲劇の原因が俺じゃない事を分かってくれている数少ない人間だったらしく、俺を匿う事を約束してくれたからこの街に居ついたんだ。

「あの悲劇……か、あ~止め止め。考えるだけで胸糞悪い! もう寝る!」

 俺は今更どうしようもない過去の事から目を背ける為に、布団を頭で被り目を瞑った。
 あれだけ寝たから寝れないかと思ったが、酔い潰れて寝るのとベッドでの睡眠は別腹?らしい。
 あっと言う間に意識が薄らぎ、眠りの闇に連れ去られていった。



カンカンカンカン!! カンカンカンカン!!
カンカンカンカン!! カンカンカンカン!!
カンカンカンカン!! カンカンカンカン!!

「……何事だ? こんな夜中に? 四鍾を二回か?」

 俺がそこそこ嫌な悪夢にうなされながらも惰眠を貪っていると街に警鐘がけたたましく鳴り響いた。
 慌てて起き上がりベッドから窓の方を見ると、差し込む日差しの短さから、夜中どころか既に昼前と言う位の日の高さらしい。
 本当にこの音は俺のトラウマを刺激しやがる。
 しかし、鐘の回数で現状を把握した俺は、すぐさま脱力してまたベッドに横になった。
 四鍾を二回。その意味はこの街では、街の近隣に魔物が出没したと言う知らせ。
 また、これは街に配備されている警備隊への召集の意味も持っている。
 冒険者ギルド所属の俺とは関係無い事だと、寝直すつもりで布団を被った。

「また街の近くに魔物が出たか。最近多いな。確か先週も有っただろ?」

 再び惰眠を貪る為に目を瞑りながら、そんな事を呟いた。
 この世界は各地を転々として来て分かったが、そこそこ平和だ。
 まぁそこそこと言うのは、一般人よりそこそこ強い程度の力を授かった俺が、この歳まで一人で生きて来れたと言う意味で、そこそこだ。
 普通に人里離れれば、物語に出てくるような怪物達が跳梁跋扈しているこの世界。
 冒険者ギルドが有って、冒険者としての職業が存在出来てる位には、魔物の存在は人類への脅威と言えるだろう。
 それに人類は人類で、そんな脅威はどこ吹く風と、国家間での戦争や山賊、海賊、盗賊団と言った悪党連中によって罪も無い人々に命が奪われる、なんて事が死因のトップ10に入る位には危険な世の中では有るな。
 それでも平和と言えるのは、今の所あの神が望むような英雄が必要とされる物語の敵役。
 そう、この世界全体を脅かす様な絶対悪が登場していないからだ。

 魔物が居ても、徒党を組んで人里を襲うなんて事は……、まぁ、あれだ、そう滅多に有る訳じゃなく、戦争だって何時でもやっている訳じゃない。
 悪党達だって懸賞金が掛けられて討伐されると言うニュースが街の掲示板に貼られ、住人がホッと胸を撫で下すなんて光景は良く目にする。
 と言う訳で、この世界に生きている人々が、人生を謳歌して天寿を全うする事が珍しくない位に平和な世界と言えるだろう。

 ……の筈なんだが、ここ最近警鐘が鳴る頻度が高い気がする。
 最初に鳴ったのは1年前か? 最初は誰も意味が分からずに、街中かなりパニックに陥ったな。
 やれ隣国が攻めて来ただの、やれドラゴンが来襲しただのと、皆が好き勝手に喚き散らして大変だった。
 結局オークの集団が近くの森に住み着いた事を知らせる為だったのだが、その位この街では警鐘が鳴った事が無かった。
 いや、それはそれで集落なんか作られると、それなりに脅威では有ったんだが、それからは三カ月に一度、二カ月に一度、そして最近じゃほぼ毎週の様に発生している。
 今の所幸運なのが、それらの事で犠牲となった人間が出ていないと言う事だ。
 だが、それも時間の問題かもしれない。
 しかし、そんな事は今の俺には関係無い。俺はのんびり暮らすんだ。
 警備員に任せてもう一寝入りしよう……。

 Zzzzz……。



 カンカンカン!! カンカンカン!! カンカンカン!!
 カンカンカン!! カンカンカン!! カンカンカン!!
 カンカンカン!! カンカンカン!! カンカンカン!!

「なんだよ? また警鐘か? しつこいな。ん? 今度は……三鍾を三回? なんだっけ?」

 寝入って暫くするとまた警鐘で起こされた。
 いつもなら一度鳴れば、その日は鳴らない筈だが?
 まだ寝ぼけている俺は鐘の意味が、なかなか思い出せず頭を捻った。
 確か、冒険者にも関係有る内容だったような……?
 ははっ、新人教導役チュートリアルの俺がこれじゃダメだよな。
 まぁ、俺が教えるのは一人で生き抜く為の技術なんで、細かいルールとかは専門外だ。

「え~と、確かギルドから配られたチラシに書いてあったな。何処に置いたか?」

 俺は部屋に設置されている机の引き出しを漁った。
 
「確かここに入れておいたんだが……? 無いな~」

ドンドンドン! 『先生! まだ居ますか!?』

 チラシがなかなか見つからず机の引き出しからタンスの中身の吟味にまで差し掛かった時、部屋のドアを誰かが激しく叩いてきた。
 この声は、ダイスだな。何のようだ?


 あぁ、思い出した。この三鍾を三回の意味。
 警備隊だけでは歯が立たず、戦力となる者全員をその脅威に導入する為の召集の鐘。
 要するに俺達冒険者をお呼び出しする為の合図だ。

「しかも、あのダイスが血相を変えて俺を迎えに来るなんて、何か面倒臭い事が起きそうだな」

 俺は惰眠を貪る計画を邪魔された事に少し腹を立てながら、ドアに向かって歩き出した。
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