悪役令嬢に転生しましたので、主人公をバッドエンドに叩き込んでやりますわっ!!

やすぴこ

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第三章 絶対に負けないんだから

第57話 とっても気になる

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「奥様聞きました? あの緊急告知!」

「えぇ、聞きましたとも。私もすぐに用意致しませんと」

 時は数刻遡り、ここはとある貴族邸のラウンジ。
 突如王都に流れた衝撃的な噂を聞き付けた貴族夫人が、貴族仲間の屋敷に誘いに来たのであった。
 噂は何もこの二人だけにもたらされた訳ではなく、貴族夫人達のみならず一般大衆にまで広がっていた。


「あぁ、本当かしら? でも会場は例のあそこでしょ? 恐れ多くて……、それに着て行く服が無いわ」

「でも、女性なら身分制限無くドレスコードも今日は無しって聞きましたわ」

 ここは、一般居住区にある商店街の路地。
 今晩の買い物に来ていた主婦達が、噂に付いて井戸端会議に花を咲かせていた。

「みなさーーん! あちらの掲示板に張り紙が有りますわーーー!」

 少し離れた場所から話している主婦達を呼ぶ声がする。
 どうやら主婦友の様だ。
 主婦達はその友達の声に反応して走り出した。


          ◇◆◇


「ほら見て下さい! 噂じゃなくて本当の事みたいですわ」

 息を切らせながら王都中央にある広場にやって来た主婦達。
 既に広場は女性達で溢れかえっている。
 そこに居るのは、なにも一般市民だけと言う訳ではなく、貴族と思われる身形の良い女性の姿も有った。
 主婦達は掲示板を指差す友達に促されるままそこに貼られている張り紙に目を向ける。

「まぁ、本当だわ。ちゃんと書いてある。興味ある女性は皆大歓迎。階級関係無くお越し下さいって」

 書かれている告知内容は、この階級制度の世の中では通常考えられない様な自由奔放な物であり、その場の皆が驚いていた。
 通常ならただのデマだと思う内容。
 しかしながら、その張り紙の最後に捺印されているとある貴族家を表す紋章印とその署名者の名前が、この張り紙が真実と告げている。
 貴族家の名を騙る事自体大罪だが、それ以上に彼女ならこんな事を平気で言いそうだ。
 この場に居る女性達がそう納得した。

「しかし、ここに書かれている会場って、本日舞踏会が開催されていると思いましたけど?」

 主婦達の耳に、近くで会話する貴族と思われる女性達の声が入って来た。
 丁度会場の事を考えていたので、庶民には縁遠いその場所について知りたいと思い、貴族夫人達の会話に聞き耳を立てる。

「私も聞きましたわ。なんでも噂ではわがまま娘が伯爵家の名代になるからと言う事で、そのお披露目目的らしいですわね」

 伯爵家のわがまま娘と言う言葉で主婦達は、それが誰だか見当が付いた。
 候補は二人居るが、どちらにせよ同じ派閥の伯爵令嬢達である。
 『はぁ~、噂に聞く悪女が伯爵家の名代? 世も末ね』と主婦達は呆れ返った。
 とは言え、自分達には関係の無い高貴なる身分の方々の裏事情など今はどうでもいい。
 主婦達は他に有用な情報がないのかと貴族達の話に更に耳を澄ませた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「皆様、そろそろ舞踏会を楽しみましょ? お料理も冷めてしまいますわ」

 時は戻って、場所は舞踏会場。
 ローズは幾度か拝むのを止めてくれと要求したのだが、様々な思いが交じり合い感動へと昇華した所為で最高潮に気持ちが盛り上がってる皆はなかなか止めてくれなかった。
 王国国民全てに惜しまれつつ天へと昇った『慈愛の聖女』の再臨をローズの姿を通して見ている者も少なくない。
 それに先の大戦が終結した時の喜び、そして『四英雄』達の王都凱旋を見た時の感動が蘇っているのだろう。
 ローズの中に若き日のバルモアの面影を感じ取っている様だ。

 何もこれは先程の不祥事の当事者達だけではなく、夫人を連れて来ていない貴族達でさえ拝みはしないものの、今目の前で起こった奇跡の様な光景に目を奪われ言葉を失っている。
 妻に先立たれ、本日は古い友人でもある執事長を連れて来たベルナルド派閥筆頭のカナード伯爵も例外ではない。
 彼も先程の狂乱の最中どうにかローズを助けようとはしていたが、他の者と同じく無闇に手が出せないので困り果てていたのだ。
 なにしろ彼はバルモアと同じく『四英雄』の一人である。
 この場においてはまさしく最強の力を持つ者で有る為、華奢な貴族夫人などその腕を掴むだけで怪我をさせてしまう。
 それでも戦場にて数多の敵を震え上がらせた胆を籠めた自慢の怒声で夫人達を一喝して止めようとしたが、その矢先にローズの使用人が騒動の元凶の理由を語った事で何とか治まる事が出来た。
 もし、怒声を発していたならそれは別の騒ぎと発展していただろう。
 多くの禍根を皆の心に残し、近い将来この派閥は崩壊していただろう事は火を見るより明らかだ。
 何よりこの様な奇跡の光景を目の当たりにする事は出来なかったであろうと、カナードは思った。
 これは階級序列絶対のこの世のことわりにおいて有り得ない事だ。

 ただ、この王国ではかつてこの理を越えた者が居た。

 そう何者にも優しくそして誰よりも強かった彼女バルモアとの両親アンネリーゼの熱い魂がしかとその身に宿っていると、少しばかり目頭が熱くなるのを堪えながらカナードはローズの事を見守る。
 そして、現在は隣国への使者の任務を終え、次の任地である国境の砦に向かっているであろうバルモアに『お前の娘は立派に育っているぞ』と心の中で伝えた。


 とは言え、ローズとしてはそんな事は知ったこっちゃない話、ただ単に目をキラキラさせながら拝んだり凝視している人達を見て『あんな芝居でここまで感動しちゃうなんて、こりゃこの世界の人達って相当娯楽に餓えてたんだなぁ』と思いながらも、このままだと変な新興宗教が立ち上がりそうなのが怖いので止めて貰う様に必死である。
 なによりそろそろお腹が減ってきた。
 皆が必死で祈っている中、その対象者がお腹をぐ~ぐ~鳴らすのはさすがのローズも乙女としてどうなの? と思わなくも無い。
 ローズはお腹が鳴らない様に必死に耐えながら更なる説得を続けた。


「あの……、ローズ様。少しお尋ねしたい事がるのですが……?」

 そんな中、一人の夫人祈りを止めてローズに尋ねて来た。
 周りの皆も祈りを止めてその夫人に注目する。
 ローズはやっとこの馬鹿げた状況から抜け出せると思い、喜んでその夫人の質問に食いついた。

「どうされました? どうぞなんでも聞いて下さいな」

 この状況を抜け出せるのならどんな質問にも答えてやるわと、少しワクワクしながら夫人からの質問を待っていると、その夫人の目がドレスをちらちらと見ているのが分かった。

 『え? またドレスの事なの? さっきの再現はノーサンキューよー!!』

 悪夢の再現をビビるローズ。
 それでも、今度こそ夫人達を刺激しない様に慈愛の笑顔は張り付けたままだ。

「あの……、もしかしてそのドレスは……」

 ローズはやはりドレスの事かと思わず顔を引き攣らせた。
 周りの貴族達はと言うと、その質問に先程思い至った疑問を思い出し興味津々と言う顔でローズからの回答を待っている。

「ド、ドレスがどうかされました? これは元々お気に入りのドレスなのですが、なにぶん少々古い物で皆様の興味になるような事は何も……」

 サーシャンズデザインについてはフレデリカのナイスアシストで解決したはずだ。
 この流れで今更掘り起こす筈もないだろう。
 ならばこのドレス自身についてだと思うが、これはただ単にゲームのローズが着ていたドレスに一番近い物を選んだだけで、中の人である野江 水流的には特に思い入れのない物である。
 と言うよりも、ゲーム中のローズの悪役令嬢振りを思い出し怒りが湧き上がって来る代物だ。
 しかも煌びやかなドレスが並んだドレッサールームの中でも、明らかに古く幾度と無く着ている物のようで、少々くたびれた年代物。

 昨日のイケメン達との前夜祭的舞踏会でもこのドレスを着ていたのだが、終わった後すぐさま使用人にお手入れを頼み、本日もそれを着て舞踏会に臨んだのだ。
 これは出来るだけゲームと同じ格好をした方が良いのでは? と言う思いも少なからず有ったのだが、なぜかこのドレス以外の物に袖を通す気になれなかったと言うのが本音である。
 ローズ自身なぜ自分がそう思うのかは分からなかった。
 それに貴族令嬢は豪華なドレスと言えども使い捨てると言うイメージを持っていたが、ドレスの手入れを頼んだ年配の使用人も『それは貴族として恥ずかしい事』と、止めはせずにむしろ喜んで手入れしていた様に思える。
 自分を怖がって口答えしないのかとも思ったが、一応仲良くなってきた使用人の中でも一番古くからシュタインベルク家に仕えているお婆ちゃん的な使用人であり、最近では粗相をした際にお小言を言ってくれる様な間柄となっていたので違うだろう。
 本当に不思議だとローズは思っていた。

 それなのに何かこのドレスに問題が有るのだろうか?
 実は元のドレスも有名なデザイナーの作品だった?
 いやいや、それはマジで勘弁してと、出来るだけ興味を持たれない様に控え目に説明した。

 『あっもしかしていつも同じ物を着ている貧乏性って思われたのかしら? それは仕方ない事だわ。なんたって元の世界の部屋着なんて十年以上着ている物だしね。たまに高校時代のジャージも着るし。それにローズが同じ物を着てる文句は、ドレス画像を書くのを面倒臭がった開発者に言って欲しいわ、そうよ全部開発者の所為ね』

 と、自分の事は棚に置いて途中からゲーム開発者に対して文句を言った。
 しかし、周囲の様子はローズの語った『お気に入り』と『古い物』と言う言葉で、自らの想像が正しい事を確信したようだ。
 また目をキラキラさせながらローズのドレスに目を向ける。
 『あぁ、このドレスはあの時の……』
 『あの日の衝撃は忘れない……』
 貴族達はそれぞれ、このドレスを初めて見た日の事を思い出していた。

「と言う事は、やはりアンネリーゼ様の形見のドレスなのですね?」

 ドレスの事を尋ねた夫人が嬉しそうにローズに最終確認を行った。
 周囲からゴクリと唾を飲む音が聞こえる。
 ローズは慈愛の笑みを浮かべたままその言葉を受け取った。
 しかし、その心の中は大慌てだ。

 『は? 何それ? これがローズの母親の形見? 初耳なんですけど』

 いきなり知らない事を聞かれたローズはどう答えていい物なのか困っていた。
 適当に答えて、もし間違っていたらアンネリーゼの大叔父であるベルナルドに否定されてしまう。
 そうなったら色々台無しだ。
 どうしたものかと考えていたその時――、


「そうです! 皆様! それは亡きアンネリーゼの形見のドレスです!」

 突然会場に女性の声が響いた。
 それと共に会場の明かりが消え辺りは闇に包まれる。
 しかしながら、こんな急な事態にも関わらず周囲の貴族や夫人達からどよめきが起こるものの、恐怖にかられる悲鳴は聞こえない。
 どうやらこの突然の状況は慣れているようだ。
 それに声の主にも心当たりが有るのだろう。
 しかしながら、元の世界ならいざ知らずこの世界でこんな芸当が出来るなど知らなかったローズは軽くパニクっていた。
 更にローズの混乱を追い打ちするかの如く、カッカッと言う小気味良い音と共に光の筋が会場の舞台に向けて放たれた。
 そしてそこに現れた人物が予想通りだった様で周囲は歓声を上げる。
 
「え? え? これスポットライトじゃない? どうなってるの?」

 ローズは光の中に現れた人物を差し置いてそちらの方が気になって仕方がなかった。
 思わずフレデリカに訳を尋ねる。

「静かにお嬢様。折角の演出が色々台無しになってしまいます」

 と、フレデリカに注意されてしまった。

「え~そんなぁ~。とっても気になる~」

 ローズの疑問の言葉は周囲の熱狂の渦に掻き消えた。
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